6. 逃げるは恥じゃないけど
ちょっと待て。転生して早々に無限労働endは嫌すぎる…
何とか回避すべく周りを見回すと、1階の一部に本棚ではなく、幾何学的な模様が描かれた豪華なドアを見つけた。
あのドアの先が、世界と繋がってるかわからないけど、ココよりマシだろ。
逃げる気まんまんで逃亡先を探す俺には気づかず、のんきに鼻歌を口ずさむリクル。
「なんとかなりそうで良かった~。みんな私だけじゃ終わらない量だってわかってるのに、誰も助けてくれないし」
「……」
「いーーっつも。みんな文句ばっかりでさぁ、頑張って対処しても感謝の言葉もなく、対処して当然って言わんばかりの態度だし」
「…………はぁ」
前世の自分と同じような境遇や雰囲気を感じとってしまい、逃げようとした足が止まる。
ここで逃げても、転生先の世界について何も知らない俺が、ちゃんと生きていけるかわからんないし。
見た目10代の女の子一人に任せて逃げるのもカッコ悪いしな。
そう心の中で言い訳すると、頭と気持ちを仕事モードに切り替えて、今までに得た会話内容や情報を整理する。
ーー主に新規登録が遅い
ーー恐らく、長い期間は普通だった?
ーー直近で何か変化が…?
「なぁ、リクル」
「ん?なに?」
「ここって、暫くは問題なく処理してたんだよな?問題は最近発生したのか?」
「うん。そうだよ。問題が起きてるのは1ヶ月前からかな」
「問題が今のように大きくなる前に、何か今までとは違う事がなかったか?例えばシーボの台数や動作が変わったとか、本や本棚に対して何かしたとか」
リクルは思案顔で考え込むと「何かあったかな…?」と、暫く独り言をつぶやきながら思考していたが、思いつくことは無いようだった。
「うーん…特にないよ?シーボの数は変わってないし…あー…強いて言うなら本の色を変えたくらいかなぁ」
「本の色?」
「うん。遅いって怒られた後、周り見たら、登録しきれなくてシーボが何冊も本の出し入れしてたの。だから、シーボがわかりやすいように、未使用は白に、1ページでもデータが入ってる本は黒にしたの。そしたら、シーボが白本に優先して書き込むから、ちょっと前まではすっごい速く処理してたのよ」
慎ましげな胸を張り自慢気に語るリクル。
………ん?それって……
嫌な予感がして、周りの本棚を見回すと黒本ばかりで白本は全く見えない。シーボを見ると、黒本を取り出して戻す作業を何度も何度も繰り返しており、中央にあるクリスタルに戻るまで、相当時間を要していた。
「えっと……ど、どうかした?」
「白黒に分ける前って、何色か色がついてなかったか?」
「うん。そうだよ。白、青、黄、赤、黒…だったかな。何でこんなに色がついてるのか知らないんだけどね。あれ?え?何で知ってるの??」
うっすらと原因が見えてきて、顔をしかめる俺を、リクルは不思議そうに見ていた。
「色を変えたことが今の大幅遅延の原因で、恐らく本の色は、大まかな書き込める残りページ量を意味してたと思う」
「え?え?で、でも、ちょっと前までは速くなってたよ」
「白本が無くなるまでは、な。周り見て見ろよ」
俺に促されたリクルは、慌てて見回した後、タブレット端末を操作しだした。顔を近づけて一緒見ると、端末には図書館の本棚や本の状態が表示されているようだった。
「うぁ…ホントだ…真っ黒…」
「もともと黒だった空きが余りない本と、少ししか書かれてない本、どちらも黒になってるから、シーボが適切に判断できず遅延してると思う」
「でも!白黒にする前にも遅延してる、って言われたよ?戻しても同じじゃない?」
自分の失策を指摘され、少しむくれながら反論してきた。
「確かに、最初に遅れた原因は不明だけど、今よりは大幅に改善するはず。元々の状態では、こんな惨状になったことがないなら間違いない」
状況からの推察だけど、可能性は高そうだ。
ただ、本当に推察通りなら、SF技術に感心してたのに、空きチェックが外見とか、管理者が適当とか、色々残念すぎるんだが…
最初の原因も、思いつくものはたくさんあるが…
断片化、行移行、シーボの移動時間、シーボの不足、あげればキリがない。が、まずは現状の復帰が先だ。
「植物とか人とかスキルとか、ジャンルくらいは、分けて配置されてるんだろ?」
「もちろん。えっと…植物、鉱物、生成物、生物、スキル、魔法…」
「興味はあるが、時間がないから詳しい解説は後でいい。先ずは本の色を元に戻す。次に、ジャンル毎に細かく散らばったデータを集約する。その際、キッチリ詰めすぎないこと。2割くらいは空きを残しておいてくれ」
指折り数えながら説明しようとするのを遮って指示を出す。
「どうして?キッチリ詰めた方がスッキリしない?空いた白本も多くなるよ?」
「まぁそうなんだが、更新や追加の際や、検索時のシーボの動作時間を減らすには必要なんだ」
時間がもったいないので、細かい説明や理由は端折ったためか、イマイチ理解してないようだったが、無理やり押しきる。
さてと。まずは、クレームをもらってる植物と生成物から片づけますか。