5. お願い事が判明
「凄い場所だってことは、なんとなくわかったけどさ。どんな事に困ってて、俺は何をすればいいんだ?ちなみに、前世はココより技術が遅れてたから、役にたつとは思えないんだけど…」
そう言うと、リクルは言いづらそうにうつむいてモジモジし始めたが、意を決して顔を上げた。
「実は…」
「リクル~~いる~~??」
話始めたリクルと、艶っぽい声が重なる。
反射的に艶っぽい声の方に目がいくと、20代中盤くらいだろうか、ミントグリーンでロングヘアの美女が巨大なスクリーンに映っていた。
どこからスクリーン出てきたのか、このお姉さんは誰なのか、どんな用事なのか。気になる事はたくさん頭に浮かんだが、とある部分が目に入り、そんな疑問が全部吹き飛ぶ。
…凄いな…F?いやG?
大迫力のスクリーン…ではなく、スクリーン先の大迫力に見入っていると、お姉さんは、こちらに向いて話しかけてきた。
「あ。いたいた~」
「セレース…」
ニコニコ笑顔のお姉さんと対象的に、渋い顔のリクル。
「もうすぐ葉物野菜の収穫期で、信者《農家》の子たちも大忙しなんだけど~…あ。そうそう。今季は天候に恵まれて豊作なのよ~」
リクルとは比べものにならない豊かな胸を張るセレースだったが、表情がだんだん曇っていく。
「収穫が終わって卸業者と一緒に、品質チェックするんだけど、何故が“何も表示されない”のよねぇ…鑑定スキルレベルの高い子でもダメで困ってるみたいなのよ~」
「そ、そうなんだー…」
「出荷できなくて流通が止まってるから、早めに何とかしてあげてね~」
セレースが言い終わると、スクリーンは消えてしまった。突然の眼福で若干ニヤケた顔を元に戻しつつ、話の続きを聞こうと振り返ると、焦点があってないような、どこか遠くを見つめながら突っ立っているリクルがいた。
……あれ?デジャヴ感が…これアカン時の目じゃ…
「おい、だいじょう…」
「おい!リクル!いるんだろ!?」
前世で味わった嫌な記憶を思い出しつつ、リクルを気遣ってかけた俺の声と野太い男の怒声が重なる。
声の聞こえた先には、茶褐色のマッチョなおっさんが、俺とリクルの超至近距離に出現したスクリーンからこちらを睨んでいた。
「先日伝えた件、どーなってんだ?!」
「へぱい…」
震える声で返事をしようとしたリクルを遮って、茶マッチョおっさんの怒声が続く。
「未だに鑑定結果が表示されず、鑑定書が付けられねぇ。これじゃ信者《鍛冶屋》が魂込めて鍛えた武器防具を納品できねぇだろうが!あいつらも生活かかってるんだ!早くなんとかしろよ!」
鼻息を荒くしながら怒濤の勢いで喋りきった後、おっさんのスクリーンはこちらの返事を待たずに消えた。
うーん…
詳細はわからないけど、二人の発言は典型的な“トラブル時のお客様セリフ”なんだよなぁ…困ってることってまさか…
疲れきった表情で、どこからか取り出したタブレットみたいな情報端末を操作しながら「着信拒否…不在登録…」と、つぶやくリクル。
「これで、しばらくは時間かせげるから、今のうちに説明するね。なんとなく察してるかもしれないけど…」
何か吹っ切れたように、淡々と話すリクルに若干不安を感じたが、説明はとてもわかりやすかった。
「この世界は、前世だと中世ヨーロッパくらいの文明だけど、魔法やスキルといった異なる概念が存在するわ」
おおぉ!やっぱりそうなんだ。さっきからスキルや鑑定だ、って会話してたしね。
「ここと世界は繋がってるけど、時間の流れは違うの。ここでしばらく経過しても、世界から見たら一瞬しか経過しない」
浦島太郎みたいな?
例えば、外にある世界で1秒が、ここだと1分、といった差があるってことか。
もしかして、ここから出ると、俺はあっという間に爺さんになるんだろうか。
「ちなみに、図書館において私とあなたは時間の制限は受けないわ。ここに居る限り年はとらない。世界に出れば別だけどね」
ふむふむ。
気づいたらお爺さんになってた、という事態はなさそうで安心した…
お?リクルも思考読めるんだろうか?
「どうしたの?不思議そうな顔して」
「いや、疑問を聞く前に答えが返ってきたからさ。リクルも思考が読めるのかと思って」
「読めないけど、あなたは表情が顔に出てわかりやすいわ」
リクルは「ふふっ」と軽く笑うと、首を横に振って、俺の問いを否定した。
「でもね。限界まで時間の流れを緩やかにしても、世界から送られてくるデータの登録が間に合わなくて…世界の神々からクレームが来て…困って…オルファーダ様に相談したら、適任者を送るからと言われて…」
段々と小さく、途切れ途切れになる声。
「はぁ…事情はわかったけどさ…時間の流れが違うとか、こんな施設作れる凄い技術や力があっても、さくっと解決できないものなの?」
「世界とここを切り離せば、時間の影響がなくなる。要は、世界の時間を止めた状態で、ここで処理を終わらせて、また世界の時間を動かす、ってことが可能だから解決するんだけど…」
おおぉ!
某スタ○ド使いみたいな?
ザ・ワー○ド使えるのか。やるなリクル。
というか、解決策あるなら早く実行すればいいのに。
「でも…時間を止めるとシーボも止まるのよね…」
!!
そうか…ジョ○ョでも止まった時に、動けるのは、能力持った人だけだったもんな。
シーボが何台いるかわからないけど、100は超えそうな感じするし。それをリクル一人でやるのはデスマーチだよなぁ…
解決策の実施をためらう理由を理解し、思案するときのクセで無意識にアゴを撫でてると、リクルがニヤニヤして俺を見ていた。
「安心して、管理や登録の仕方は教えるから。大丈夫、大丈夫。一緒にやれば、ざっと100年くらい頑張れば終わるから!」
俺の肩をポンポンと軽く叩きながら、リクルがサムズアップする。
…
……は?
「…え?なんで俺も一緒や頑張る話に?ってかシーボ止まるってことは俺だって…」
「私とあなたは、制限を受けないって言ったでしょ?オルファーダ様の加護のおかげでね」
ーーなに?!
「自分だけで対処するのは限界だったし。オルファーダ様に頼んで正解だったね。あ、大丈夫。時間止めた後、管理や登録の仕方は教えるから安心してね」
満面のスマイルでご機嫌なリクル。
ちょ!ちょっと待ってくれ!
俺、ここで100年も労働しろと?しかも、根本的な解決してないから再発して長期労働ループもありえるだろ。
…あれ?俺って転生したんじゃなくて、無限労働の地獄行きだったんじゃね?
「はぁ~……なんでこんなことに…」
図書館に俺のつぶやきが虚しく消えていった。