4. 世界図書館(データセンタ)
「とりあえず、そこから離れてくれない?あなたが邪魔でシーボ困ってるから」
「シーボ?」
「そう。シーボ。あなたの足元でキョロキョロしてるでしょ?」
円柱型ロボットを指差しながら、そう言ってくる少女の指示に従い、ズキズキと痛む後頭部をなでつつ横によけた。
ルン○じゃなかったんだ…
名刺交換はできなかったけど、担当者(仮)の名前がわかったな…と、どうでもいいことを考えてると、少女がこちらに近づいてきた。
見た目から年齢は16、17くらいか?
金色の髪は腰近くまであり、小さいな草花柄が散りばめられた、膝丈くらいの白いワンピース姿。胸は…まぁ…つつましいが、容姿は完璧な美少女だ。
思わず魅とれていた俺の横を通り過ぎると、まだキョロキョロしていたシーボに近寄り、一緒になってキョロキョロし始めた。
何をしているのか興味はあったが、それよりも、ここがどこなのかの方が気になり、周りを見渡してみた。
中央は吹き抜けになっていて、何階まであるのかわからないほどの高さがある。円形の壁には数えきれない程の本棚に、びっしりと本が並んでいた。
…ここは、巨大な塔の中だろうか?
「あったあった。これよね?」
振り向くと、少女は落ちていた本を拾い上げ、その本をシーボの頭上に置いているところだった。
どうやら、俺にではなくシーボに向けた確認だったか。
本をロボットの上に置くことに、どんな意味があるのかわからないが…一区切りついた雰囲気は感じたので、話しかけようとしたが…
…目の前の出来事に息をのむ。
シーボの頭上30cmくらいの位置に本が浮かんだと思ったら、勝手に開いて一瞬光った。
そして光が消えると、また勝手に閉じた後、空いた本棚まで飛んでいく。
「おぉ…」
前世の物理法則を完全に無視した一連の流れを見て、ぼう然と立ちすくんでいると、少女が苦笑いしながら俺に話しかけてきた。
「あなた。頭、大丈夫?」
…ん?もしかして、さっき後頭部を直撃したのは、あの国語辞典みたいな本か?…めちゃくちゃ痛かった訳だよ…
眉間にシワを寄せて考え込む俺を見て、誤解される発言だったと理解したのか、少し慌てて言い直した。
「あっ…!バカにしたんじゃなくて。頭おさえながら痛そうにしてたから…大丈夫かなと…」
「あぁ。少しコブになってるけど、なんとか大丈夫だ。心配してくれてたのに、睨んでごめんな」
素直に謝罪するとホッとした表情を浮かべた。
「私はリクル。あなたが、創造神オルファーダ様から、神託を受けた転生者でしょ?名前は確か…スガノマサト?」
「名前は合ってるけど、おるふぁーだ?って神様は知らないけど?ここに来る前に会ったのはチャラ男だし」
「ち、ちゃら?!」
リクルは、さぁー…っと青ざめた顔した後、必死な表情で、お説教?してきた。
「あの方は、私みたいな下っ端じゃなくて、至高神のひとりで…そんな御方をチャラ男呼ばわり…」
そういえば、名前聞いてなかったな…チャラ男。そんなお偉いさんだったのか…
でも、そんなことより、まともに会話できる相手に、やっと出会えたんだ。聞きたいことがたくさんある。
まだ、ブツブツとお説教を続けているリクルを遮って聞いてみた。
「そんなことより、ここがどこで、なんなのか……あ。その前に、リクルが“担当者”?」
俺がちゃんと話を聞いてないのことに不満そうだったが、頷いて話を続ける。
「ここは“世界図書館”で、世界No1521の世界に存在する、ありとあらゆるデータを管理してるわ。私がその管理人で、シーボが手伝ってくれてるの」
「世界ナンバー??」
「国とか街じゃなくて、世界そのものの呼び名のことよ。管理番号みたいなものね」
確かに、前世でも日本や東京といった名称はあったが、世界そのものを示す名前はなかったな。
「植物や生き物、アイテム、スキル、etc…ありとあらゆるデータが、ここに登録されて管理してる。ほら、上を見て」
リクルが指差す先を見ると、10階以上の高さはあるだろうか。かなり高い位置に、光を放つ立方体が見えた。
「あれが、データを送受信してるクリスタルよ。No1521側にも、少し小さいけど同じものが、複数あってデータのやり取りをしてるの」
おおぉ…凄いな。要はもの凄い巨大なデータセンターってことか。
「はぁ~…転生先は、前世より遥かにIT技術が進んだ世界とはねぇ…お約束通り、中世ヨーロッパ風の異世界かと思ってたんだけど…」
見た目はデカい図書館だけど、まさにSFといった施設紹介を聞いて、感嘆と落胆の声が同時にこぼれ、そして、ふと気づいた。
…あれ?SF世界で俺、何か役にたつのか?