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異世界データ管理人  作者: 水友 想
第一章
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2. チャラ男(神)

 ………ん?揺れてる?地震か?


 ……違うな…誰かに揺さぶられてるような…?


 …あ!もう顧客が出社してきたのか?!


 徹夜明け特有の、霞がかかったようなぼんやりとした感覚から、一気に覚醒して目を開けると、田舎でもなかなか見られないような、満天の星空が飛び込んできた。


「………は?」


 予期しない景色に思わず固まっていると「やっと起きたね~」と、チャラい感じの声が突然聞こえた。

 慌てて飛び起きて周りを見渡すと、俺が寝てたのはパイプ椅子ではなく真っ白な床の上。隣には黒髪にシルバーのメッシュが入ったホスト風の若い男が、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。


「おはよ~。気分はどう?」

「えっと…はい。仮眠とれたので大丈夫です」


 ここがどこなのか、目の前のチャラ男が顧客の社員かわからないが、とりあえず返事をしてみた。


「はは。チャラ男はヒドくない?」


 うぁ?!やっべ、思わず口に出してたか?


「いーや。発声はしてないねぇ。あと、ここは神界の一部で、夢じゃないから」


 …は?このチャラ男は何を言って…


「理解が追いついてないマサトくんに、わかりやすく言うと“異世界転生の白い空間”かな。床はお約束守って白にしたから。最近流行ってるからわかるでしょ?あとチャラ男じゃな…」

「待て!ちょっと待ってくれ!何がなんだか…」


 お、落ち着け俺。目の前のチャラ男はひとまず置いといて、思い出せ。俺は起きる前に何してたんだ?

 サーバールームで作業して、終わって、仮眠して、今さっき起きた!

 ………やっぱり夢か?

 …にしては凄いリアリティなんだよなぁ。綺麗な夜空だし。


「だ~か~ら~、夢じゃないからね。って先に言ったでしょー?もぅ仕方ないなぁ」


 そう言うと、チャラ男は右手を上にあげた。すると、一瞬で星空が消えて真っ白な空間に変わってしまった。


「なっ…?!」

「真っ白な空間じゃつまらないと思って美しい景色にしたのに…リアクションがイマイチだったなぁ…」


 とブツブツ言いながら、今度は右手の人差し指で大きな四角を空中で描くと、50インチくらいのモニターが、俺の目の前の空間に突然現れた。

 画面には40歳前後と思われる、どこか見覚えがある男性が、担架で運ばれていくところが、映し出されていた。


「あまり時間ないからサクサクいくよ。あれ、マサトくんね。このあと病院に搬送されるけど、残念だったね」


 …やっぱりあれは俺なのか…?


「うん。そうだよ。日頃の過酷な労働に加えて3日間ほぼ完徹、しかも、作業中ほとんど飲まず食わずだもん。そりゃあ過労で倒れるよねぇ」


 サーバールームは飲み食いは基本NGなんだから仕方ないだろ。外出すると再入場のセキュリティーチェックが面倒くさいからな………って突っ込むとこはそこじゃない。


 俺も知らない“俺のこと”を語り、リアリティがあり、目が覚める気配も感じない。もしかして本当に俺は死んだのか…?ということは、目の前のチャラ男は神様?最近流行りのラノベみたいな…


 …はっ!そういえば、さっきから俺の思考に返答してる!


「お。ようやく理解してきたね。紆余曲折あって過労死したマサトくんは、来世の進路相談を受けようとしてる、ってのが現状なの。ここまでOK?」


「…実感は無いけど、何となく状況は理解しました」


 …そうか、俺は死んだのか…

 有給残っちゃったな…あと、大量に積んだゲームやりたかったなぁ…


「んじゃ説明続けるよ。通常は亡くなると本人の情報(本人の表)は全て削除(DROP)される。君達が“魂”とか“記憶”と呼んでいるものも含めて全てね。その後、適応な世界に転生していくんだ」


「輪廻転生ってことでしょうか」


「まぁそんな感じ。正確にはちょっと違うんだけどね。普通はこういう会話もなく、自動的に転生処理されるんだけど…」


 俺の人生、こんな突然終わるんだったら、もっと好きなことしてれば良かったなぁ…以前付き合ってた彼女と結婚してたら、また違った人生でサーバールームで過労死することもなかったのかな…


 会話を適当に受け流しつつ、過去の後悔や選択肢を振り返り、悶々とif人生の妄想をしていると、チャラ男(神)が少しだけ真面目な顔つきで迫ってきた。


「実は、とある異世界で、少し困ってることがあってね。その手助けをマサトくんにお願いしたいんだ」

 

 神様が困ってるような事案を、人間の一般人である俺なんかで、助けられる気がしないんだが

 …あと、顔が近すぎ。


「大丈夫。大丈夫。マサトくんなら適任だから。詳しい話は転生先にいる担当者の説明を聞いてね」


 “お願い”と言いながら、有無を言わせない話の流れ、前世で嫌になるくらい味わった感覚だ。

 新人教育で“お客様は神様です”と習って、文字通り死ぬまで実践してきたが、死んだら“神様はお客様です”になるとは…


「一応聞きますが、選択の余地はないんですよね?」

「うん。そうだね。また適任者探すの大変だからさぁ。その代わり、記憶はそのまま引き継いでおくから。後は…チートは付けれないけど…特典くらいなら…マイナス20に…」


 いつの間にか俺から離れ、ブツブツ独り言を言いながら、何もない空中に向かって両手を細かく動かしている。キーボードにタイピングしてるような感じだ。


「これでよし、と」


 言い終わると同時に、青白く光る円陣が足元に現れた。そして、少しずつ光が強くなっていく…


「頼んだよ~」


 最初に見た時と同じ、ニヤニヤした顔で手を振るチャラ男(神)を見てると、ふと、確認したい大事な事を思い出したのでダメ元で聞いてみた。


「転生する前に1つ聞きたいのですが」


「なーに?時間がないから手短にね」


「俺が修正したシステムの遅延、ちゃんと改善したかわかりますか?」


「……は?」


 一瞬ポカーンとした顔をした後


「…ふっ…ふぅぁ…あはははは!!」


 と大爆笑されてしまった。ひとしきり笑った後「転生先の世界や依頼内容ではなく、まさか生前の仕事結果を気にするとは…」と、目尻の涙を拭いつつも、若干ぶ然とした表情の俺に向けて、ちゃんと答えくれた。


「大丈夫。改善してるよ」


 …そうか。うん。良かった良かった。


「ほんと、お人好しというか苦労人というか…でも、そんなキミなら転生先では、前世で得られなかった幸せをきっと掴めるよ」


 優しく柔らかい表情で、俺を見つめながらそう言った。そんな表情や顔の輪郭も、ますます強くなる光に飲み込まれ、光にリンクするように、意識が遠のいていく…


「働きすぎには気をつけるんだよ~」


 その言葉を最後に、俺の意識は途絶えた。

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