#007 【第二話 開始】
今回は導入部分ですが、ちょっと鬱な内容になりました。
何かこういう話題にしたかったのは確かですが、ちょっと重くなりました。
ごめんなさい。
次回からノリは戻るはずですので、見捨てずお付き合いください!
私の名前は、青空水月。
現在地元の中学校に通う中学2年生のはず。
はずというのは、本人にあまり実感がないから。
そう……私は絶賛引きこもりの不登校児だ。
小学校の頃は別に普通の女の子だった。
とりわけ目立っていたわけでもないし、悪かったわけでもない。良い子だったかというとそれはそれで疑問だが、少なくとも誰かに目をつけられるようなことはしていなかった。
無個性というのだろうか、あるようなないような自分が自分でよくわからなかった。
たぶんそのせいなのだろう。
中学校に上がり、他の小学校からも同じ学校に来るようになり、規模は倍以上になった。
数が増えればその分変な、というか、気難しいというか、私の中での普通の範疇から外れる人も増える。
さらに制服という代物は、中学1年生にとって、自分がものすごく大人に近づいたかのような錯覚を生むものであるようで、一部の生徒はちょっと悪ぶってみたくなる年頃でもある。
それは男の子でも女の子でも同じで、粋がって見た目から悪ぶるのが男の子、見た目よりも中身で悪ぶるのが女の子、そういう別れ方なだけ。
少し大人ぶったそういう子たちは、自分たちが大人であることを印象付けるように、あらゆる場面で上に立ちたがる。いや、学級委員をしたり、生徒会に立候補するとかそういうことではない。
大人というのは、自分よりも下層(だと思っている)の人間をとことん貶めることで、自分の優位性を認識したり、自分が優秀であると誤解したりすることなのだと、勘違いをすることである。
平たく言えば、『いじめ』を行うことである。ここで質が悪いのは、彼らは決して『いじめ』ているという認識を持っていない。あくまでも自分を守る、もしくは誇大に見せるための手段であり、自分なりの防衛策である。
『いじめ』による自殺者が後を絶たない日本では、そこそここの話題はニュースにも出る。
被害者は自らを害してしまっているので、彼・彼女の言葉は残された手紙・日記などからしかわからないが、だいがいの場合において加害者は当然ながら生きている。しかし、表には出てこない。学校側が完璧にかばうからだ。否、かばっているわけではない。
正しく表現するのであれば、「我が校にはそのような『いじめ』は確認できていない。」と目を背けているのだ。
それは、実態としてはその通りなのだろう。見て見ぬふりをしている、もしくは、それを『いじめ』ではなく、コミュニケーションの一環だと、本気で思っているのだから。
たまにマスコミや教育委員会に指摘されると、「アンケート」による調査をし、報告をする。世の中の人は「アンケート」は信頼に値する調査方法だと思っているのだろうか。それはわからないが、少なくとも当事者たちへのヒアリングが、通り一遍の「アンケート」やらで浮き彫りになるはずがない。
無記名だから安心して、正直に答えるように。
そう先生たちは言うが、そんなもの、筆跡でだいたいわかるじゃないか。生徒たちはそう思っている。だから本当のことは書かないし、書けない。
そんな結果が、マスコミや教育委員会が求めるものになろうはずがない。
それでも学校という組織は、それを根拠に、『いじめ』は確認できなかった、という。
茶番もいいところだ。
……少し一般論に熱くなりすぎてしまったようだ。
という訳で、私、青空水月は、入学した中学校のクラスにおいて、他校から上がってきた女の子グループに目をつけられ、新学期早々から『いじめ』を受けてきた。
このあたりの事情が私にはいまだにわからない。目立っていなかったし、先に言った通り無個性な感じのはずなのだ、私は。もしかすると、それが理由なのかもしれないと、最初に言った通りなのだが、おとなしそうで、文句を言いそうにない。自分たちに都合のよい『おもちゃ』になりそうだ。そんなところがターゲットになったのだろう、と今は思う。
女の子のいじめは一言でいえば陰湿だ。
無視する、事あるごとに馬鹿にする、ものを隠す(決して持ち帰らない)、嘘を教える……などなど。
つまり、ちょっと注意されても「ごめんね」の一言で済むようなものだ。悪気はなかった(いや、実際にはあるんだけど)、ちょっとからかっただけ、なんて言葉は日常茶飯事に口にされる。
しかし、相手の気持ちには全く斟酌しない。していたら『いじめ』にならないからだ。
適当にちょっかいを出していても、相手は何もしてこない。
それが続くと、自分たちのやっていることは、咎められるものではない、とさらに勘違いをし、正当な行為であるとさえ思ってくる。
そして、行為はエスカレートしていく。
トイレの個室にいると水をかけられる(掃除をしようと思ったと言い訳ができる場所である)、体操服が水浸しになっている、ロッカーにゴミが入っている(どちらも見つからなければどうということはない)。
そして、最後は肉体的いじめになる。
ある日、体育館近くを通っていたら、グループに囲まれ倉庫に連れ込まれた。
口をふさがれ、手を頭の上で縛られ、制服をまくり上げられた。スカートは降ろされ、パンツも取られた。胸辺りから下は靴下以外は履いていない状態だ。
そんな痴態を、スマホで何枚も撮影された。ポーズをとらせたり、足を開かせたり、やりたい放題だ。もちろん、顔を写すなんてへまはやらない。証拠が残るからだ。
この写真がばらまかれたくなかったら、言うことを聞け、という。つまりは金づるになれってことだ。
顔が映っていない裸の写真など、見つかったとしても自撮りしたと言い張れるレベルだし、仮に自分の身体でなかったとしても、友だちとふざけてやったと言い張れると思っているのだ。
彼女たちの軽い気持ちで取った行動とその結果に、私の心はぽきりと折れた。これ以上の恐怖を味わうのはごめんだ。恐怖が形になって表れている学校そのものが、怖くなった。
だから、学校に行かなくなった。
『いじめ』が発覚しにくい、もう一つの理由は、される側が大人に言わないからだ。言わないにはちゃんと理由がある。親や先生が真面目に自分の話を聞いてくれないという恐れがあるし、自分が報告し、発覚した場合のさらなる報復行為が怖いからだ。
概ね大人に言ったことがばれれば、報復行為はその前に行われていた行為よりも辛辣に、悪辣になる。大人は24時間子供と一緒にいるわけにはいかないのだ。守るとか言いながら、本当に守ってはくれない。
だから言えない。言って解決するとは思えない。
私の親は、私が学校に行かなくなった最初のころは、私の体調不良という主張を真に受けていてくれた。しかし、何日も続くとそれが嘘であることが分かってくる。すると、我が娘が何かしら学校で嫌なことがあったのだろうと推測する。
必死に私に学校に行くように、大変なことがあったら相談するように、と言ってくれた。
だが、私は言えなかったし、行けなかった。
私がパシリ&お財布にならなかったことで、彼女たちは写真をばら撒いているのではないか、それを見た誰かが、私にそれ以上の屈辱を求めてくるのではないか。脅迫に屈してお金を渡したりするのはナンセンスだ。でも脅されたくない。だから行かない。
今の私の処理能力を超えた事象・恐怖に、私は何もできないのだ。
親も、自分の子どもが世間から後ろ指さされる存在になることを良しとしない。だから必死に行かせようと、最初は優しくなだめ、諭すように話をし、それが効果がないとわかると最後は怒鳴り、そして……諦めた。
と、少し長くなったが、そうして私は無事、私の居場所で籠城することができるようになったのだ。
もちろん、このままではいけないと思っている。高校進学時には県外の全寮制の私立学校を受験し、そこで新しい人生をスタートさせるのだ。少なくとも今この学校に通っている生徒は受けることがない場所だ。幸い義務教育である中学校は、卒業くらいは何とかなるものだ。
あと、1年半、今の生活を耐えれば、新しい人生が待っている。それが、今の私の希望だ。
しかし、学校に行かない私が、満足に勉強できるわけがない。
文字は読めるから(当たり前だ)、勉強そのものができないわけではないのだが、いかんせん、知らないことを理解するのに、文字を読むだけでは難しいのだ。前提知識がある程度あれば、いろいろ解釈を組み合わせながら、新しいことでも吸収できるのだろうが、今の私にはそれが極端に少ない。
だから親は家庭教師を雇った。
家庭教師に来てくれる人は、近所の知り合いの大学生だ。昔はよく遊んでもらった人で、私も安心できる人だ。年齢は7つほど上。大学の3年生だそうだ。最近はあまり会わなかったのだけれど、その人はものすごく綺麗になっていた。女の子から女性になった、って感じなのかな。ちょっと憧れる。私もそんな感じになりたいなぁ。
週に3回、各2時間ほど来てもらって、主に5教科の勉強を見てもらっている。
もちろん、中学生内容なんて大学生からすれば大したことはない。それでも離れている科目などはわからないことも多いらしい。なので、教えてもらうというよりも、一緒に考えて一緒に解くという感じになっている。
それは楽しい作業であり、私の数少ない憩いの時間であった。
先生は、私に学校に行かないことの理由を一切聞かなかった。親から聞かないように言い含められているのでないかと思う。私も無理に嫌な話をするつもりもなった。
だから先生は、私の興味がありそうないろんな話をしてくれた。先生が来るようになって、私も少し明るさを取り戻してきたと、両親も満足そうだった。
先生と過ごす時間は、私に色々な気持ちを持たせてくれた。
先生みたいな大学生になれたらいいな、先生みたいに綺麗になれたらいいな、先生みたいに……。
引きこもり中学生の戯言なんだけれど、それは目標にすべき大事な存在だった。
先生がいてくれるから、新しい目標がもてた、とも言える。
その先生が、世間では夏休みも終わりに近づいてきたある日、一枚のチケットを持ってきた。
『FANTASY OF OWN LIFE 特別モニター参加チケット』
『FOOL』第二話の開始でした。
か、会話文がない……。
読みにくいかもしれませんね。
今回も6話構成。毎日更新予定です。
よろしくお願いいたします。