#005
「大賢者様、よくやってくれました。此度の勝利は貴方様のお力あってこそです。敵勢力は98%死亡または消滅。こちらの被害は極めて軽微。完勝です!向こう100年は王国も攻めてくることはないでしょう。本当によくやってくれました、ありがとうございました!」
最初にえらそうに説明していたおっさんが、全然偉そうじゃない感じで声をかけてきた。シャルロッテに聞いたところ、このおっさんは、マーシャル=フォン=ニーベルンゲン侯爵というお偉い(ほんとに偉かった)さんで、皇帝の懐刀なのだそうだ。
「皇帝陛下にはすでにご報告申し上げました。大賢者様には恩賞を賜われたいと仰せでございますので、ぜひ私と共にお越しください。」
「あ、一緒に連れていきたい者がいるんですが、いいですかね?」
「は、何なりとおっしゃってください。」
「そこのシャルロッテ隊長と、竜騎士隊にいるはずの聡ってやつを連れていきたいのです。」
「かしこまりました。竜騎士隊に確認を取ってまいりますので、このままでお待ちください。」
ニーベルンゲン侯爵は部下を呼び、竜騎士隊に向かわせた。
「大賢者様、よいのですか?私は何もしておりませんし、陛下の御前に参ります理由がないのですが。」
「え?そんなの、俺が来てほしいからに決まってるじゃないですか。」
頬を染めて驚くシャルロッテ……。ほんとにVR世界なんでしょうかね……萌えるわ。お持ち帰りしたい。
「だ、大賢者様がそうおっしゃるなら……。」
そう言って完全に俯いてしまったシャルロッテ。完落ちかな?よい、よいね。戦場の凛々しさとのギャップがまたよい。あれ?これって完全に親父じゃん。
ほどなくして、侯爵の部下が戻ってきた。少し慌てているようだね。
「ご報告いたします。竜騎士隊におられました聡様は、戦死なされました。」
「は?戦死?軽微な犠牲の中に入っちゃったの?」
「はい、部隊の者によりますと、戦闘開始直後に敵弓兵隊の一斉射に巻き込まれ、そのまま敵陣に墜落されたとのことです。その後、大賢者様の極大魔導が放たれましたので……。」
う、そ、そりゃそうなるわな……。
まさか、とどめを刺したのが俺とか言わないよな。盛大なフレンドリーファイヤじゃん。後で確認して謝っとこ。帰りにバーガーでも奢るか。
「聡様の件は残念でございます。しかし、戦争に犠牲はつきものでございます故、大賢者様にはあまりお気になさらないようにお願いしたく存じます。」
別に本当に死んだわけじゃないからいいよ。後で侯爵がそう言っていたと、聡に言っておこう。
「仕方ありません。皇帝陛下をお待たせするのもよくないですから、このままシャルロッテ隊長と一緒に御前にお伺いいたしましょう。」
「そうですな。ではこちらへ。シャルロッテ嬢もご一緒に。」
しばらく移動すると、とんでもないでかい城が見えてきた。
うん。お城だ。間違いない。スゲーなお城。でかすぎて表現できないぜ。
ヨーロッパ辺りには古城があって、観光地化しているが、そんなのよりもはるかに大きいんじゃないかな。いや、写真でしか見たことはないんだけどな。
しばらく大接間で待たされ、ようやく皇帝陛下への謁見の準備が整ったとのことで、玉座の間に通された。シャルロッテはずっとがちがちのままだ。きっと皇帝陛下に謁見なんて初めてなんだろう。貴族の位にもよるだろうけれど、令嬢はほいほい皇帝の前にはいかないものだろうしな。
玉座に続く赤毛氈を、案内がされるままに歩き、玉座の20mほどで跪く。両サイドには、ずらっと偉そうな感じの人が並んでいる。きっと帝国重鎮のお貴族様なんだろう。まぁ、知ることもないだろうからかぼちゃ扱いで十分。
「皇帝陛下のご入来です!」
近衛兵が大きな声で告げると、皇帝陛下が現れ、玉座についた。その間、俺たちも含めてみな頭を下げている。なかなかできない体験だよね~。
「皆の者、面を上げい。」
お、なかなか渋めの声だね。皇帝陛下ともなればこれくらいの渋い声を当てるわな……。そういえば、このゲームに出ている声優とか気になるな。シャルロッテの中の人はあまり聞いたことがない声だ。
言われた通り顔を上げる。
「そちが大賢者とやらか?」
「はい。巧と申します。」
「此度の戦争において、そちの働きは聞いた。王国軍が束になっても敵わないほどの活躍だったようだな。」
「そのようにおっしゃっていただき、至極光栄でございます。」
「話に聞くと神級の極大魔導で殲滅をしたとか……。帝国にこのような力を持った大賢者がいるとは、余も全く気が付かなった。これからも余のために力を貸してもらえぬだろうか。」
「は、この身が果てるまでこの国のためにお仕え申し上げます。」
いや、これが終わったら帰るけどね。ゲームだしそれくらいは言っておいてもいいんじゃないかな。
形式美って言うんだろ?こういうの。大人の対応ってやつだね。
「永らく続いていた王国との戦争も、大賢者巧殿の活躍により、ほぼ終わったと言ってよいだろう。帝国にとって一つの脅威が去った。これを皆で喜び、讃えたいと余は思う。」
おぉぉぉーーー!っと周囲のモブ貴族が声を上げる。まぁ、喜ぶ姿を見るのは良いよね。
「大賢者巧殿に、褒賞を与えよう。何か希望があればそれにするが、いかがだろうか。」
お、希望するものがもらえるのか。と言っても何があるかわかんないんだよ。ログアウトしたら何も残らないしな。
「特に希望する者はございませんが……。」
「大賢者殿は謙虚であるな。しかし、大功労者に何も褒賞なしでは格好もつかん。本当に欲しいものはないのか?」
「は……。モノではないのですが……。」
「なんじゃ?言ってみるがよい。」
せっかく希望を聞いてもらえるなら、欲望に忠実になってみようじゃないか。ゲームだもの、楽しまなきゃ。
勿体ぶって、ちらとシャルロッテを見る。
「では、申し上げます。ここにおりますシャルロッテ・フォン・ブラウン嬢を、私の嫁にしたく思いますので、陛下に認めていただければ幸いです。」
「はははは、何だ。女一人でいいのか。本当に謙虚だな、巧殿は。で、ブラウン伯爵令嬢シャルロッテよ、そちはどうなのだ?余としては無理はあまり好きではないのだが、大賢者殿がお望みだ。可能であれば認めてやりたいと思うのだが。」
伯爵令嬢だったのか!シャルロッテ!現場に出ててよかったのか?
「私のような者にはもったいないお話ではございますが、大賢者様がお望みであれば私の方は、ぜひもありません。不束者ではございますが、謹んでこのお話お受けしたいと思います。」
と、俺の(になるんだからいいだろ?)シャルロッテは頬を赤くしながらも、明確な意思表示をした。これでダメ出しされたら、ダメージが半端ないところだったので、一安心。やっぱりさっきので完落ちだったね。よかったよかった。
「では、巧殿とシャルロッテ嬢は、これにて夫婦の契りをしたものと余の名前で宣言する!城の近くに館を用意させるので、そこで暮らせばよい。生活に不自由は挿せないだけの金銭と、巧殿にはシュバイツァー公爵の爵位を与えよう。」
おぉぉぉーーーー!とまた周囲のモブ貴族が声を上げる。きっとモブ貴族はこれくらいのボイスしか用意されていないんだろうな。
と、マンガよりも安易な謁見はつつがなく終了した。
次回第一話終了です。7/13更新予定となっております。
お読みいただいた皆様、是非ともご感想などお願いいたします。