#003
気がついたら、大勢の人が集まる広場のようなところに来ていた。
ほう、これが最新の仮想世界か。何だかものすごくリアル。
頬に受ける風を感じるし、何だか街の匂いまでする。
どんなエンジン積んでんだろ。さすがNASAとかMITの手が入ってると噂されるだけはあるな!
「諸君、注目してくれ!」
広場の中央では、見るからに偉そうな感じのするおっさんが、高い所から俺達を見下ろしながら演説を始めるところだった。
「諸君、よくぞ集まってくれた。今、まさに今この時、我がロンバルディア帝国は未曾有の危機に晒されている。長年の仇敵である、アマダルガス王国が、我が帝国を滅ぼさんと、30万もの群勢を従えここまで行軍している。」
ゲーム開始後の大事件ってあるあるだな。まぁ、だいたいコテンパン……死語だな、これ……にされて、一度滅ぼされるか、占領されるかしたところで、主人公が色々な理由で立ち上がって旅に出るってとこだよな。
「おい、聡。何か壮大な物語のスタートって感じだが、こんなんで何時間かかるんだ?」
隣にログインしている聡に聞いてみた。聡は全身鎧で、槍を持っている。流石竜騎士、格好はすげーな。
「ん?そんなにかかんないぞ。基本的には殲滅戦だ。大仰におっさんが話しているが、前回もそうだったしな。」
何だ?帝国とやら、そんなに攻め込まれるのか?いや、そういう設定で繰り返しているだけだろう。日常に放り込まれても退屈で終わるからな……。体験するんなら、いきなり最終回的な感じの方がいいんだろうな。
「で、ここに集まってる俺達が、その敵国勢力を叩き潰すということだ。その時の色んな要素で得点化されるらしい。時間とかあんじゃないかな。」
とりあえずストーリーは無視の方向で。
「今回の戦いが、帝国全土の民の将来を担うことになる。被害を最小限に押さえ、生き残り、かつ王国に我が帝国の強さを思い知らせるのだ!」
おっさんはまだ暑苦しく演説していたが、そろそろ終わりのようだ。
「各員の奮闘に期待する。ハイル、ロンバルディア!」
「「「「「ハイル、ロンバルディア!」」」」」
何か帝国っぽいぞ。ちょっと楽しいかも、こういうノリ。
「さ、俺たちも行くぜ!巧、暴れてこいよ!別に死ぬこたぁねぇんだからさ!」
聡が竜騎士部隊が集まるところに駆け出して行った。
魔導士の俺は、同じく魔導士らしき集団のところに行ってみることにした。
そこでは、さっきのおっさんと同じく、少し高い所から俺達を見下ろすヤツがいた。今度は女性だ。
「聞け!先ほどマーシャル将軍がお話になった通り、我々は持てる最大戦力をこの戦いに投じている。この魔導士部隊も、もちろん全力で戦うことを期待する。今から隊列を組むので、各々の最大魔法順に並べ。」
女性魔導士の掛け声で、バラバラと動き出す魔導士達。さて、俺はどこなのかな。
脳内でメニューを開き、使える魔法を見てみる。
ファイヤーアロー(2秒)
アイスアロー(2秒)
ウィンドカッター(3秒)
……
と並ぶ。どうやら後ろの時間は、発動までの詠唱時間らしい。長い方が強そうな名前がついている。班分けは、詠唱時間が5秒以内、10秒以内、20秒以内、30秒以内、1分以内で分けられていっている。
俺は長いメニューを(どんだけ覚えてんだよ!このキャラ!使いこなせないだろうがっ!)めくり、漸く最後の項目にたどり着き、目を剥いた。いや、バーチャルなんでそこまでの表情変化はないだろうがな。
「そこの貴様、早く自分の持ち場に行かんか。」
軽くフリーズしていると、女性魔導士が近づいてきて声をかけてきた。いや、バーチャルなんだけど、ホントリアルだな。つか、無茶苦茶美人じゃん!後で連絡先を……、って聞いてどうすんだ?(笑)
「すみません。そこに入っていいものなのか、わからなくて……。」
「どういうことだ。最大魔法が何か分からない愚か者なのか?」
いや、愚か者はあっち(竜騎士隊)に行きましたし。
「いや、俺の持ってる最大魔法は詠唱時間が5分なんだ。1分グループでいいのか、気になって。」
「な、ご、5分だ……と!貴様、いえ、貴方様はもしかして大賢者様ですか?」
何か急に言葉遣いが変わった。これが世に言う手のひらクルーなのか?周囲からも、ざわざわとした空気が流れている。5分の詠唱時間魔法は珍しいのか?
「いや、そんなたいそうなものではないのだがな。」
「何をおっしゃるのですか。5分などという詠唱を用いる魔法なんて、お伽話の中位でしか、聞いたことがありません。1分でも戦術級なのです。5分なんて、ま、まさか、神級?」
「よくわからないですがねー。5分なんて長いだけで、使えないようなきがしませんか?あ、何か『大魔導秘伝書』ってのを使ったら半分の時間で行けるようですね。」
「ひっ、だ、大魔導ひ、秘伝書までお持ちなのですか?」
「あ、うん。持ってるようですな。」
女性魔導士は暫く目を見張って(ホントにVRなのか?何か表情豊かだな。)、目の前に跪き、漸く言葉を発した。
「貴方様がおいでなのでしたら、既に勝敗は決しているようなものです。神級魔導は広範囲殲滅魔法と伝えられます。30万程度の群勢なら、ほぼ瞬殺できるかと思います。」
ほう、そんなに凄いのか。でも2分半は長いよな。
「全軍に伝え、貴方様の魔導発動までの時間を稼ぎ、一気にこの戦いに決着を付けようと思います。貴方様は我が隊の最後方にて、こちらの合図でご準備をお願いします。申しくれましたが、私はこの隊を任されましたシャルロッテ・フォン・ブラウンと申します。シャルロッテと御呼びください。」
女性魔導士は貴族令嬢だったようだ。そりゃ綺麗だよね。ゲームで貴族令嬢が美人じゃなかったら炎上するわ。にしても、その後、なんか扱いがそれこそ神級になったかのようだ。人垣でリアル十戒とか、生まれて初めて見たわ。いや、ゲームなんだけどさ。
どうやら、全軍に対して伝令が飛んでいるようだ。さっきから飛龍が頭上を行き交っている。
「大賢者様の詠唱が終わるまでは、こちらに敵を近づけるな!」
流石に2分半位なら問題ないんじゃないかな。でも、どのタイミングで始めたらいいのだろうか。
その辺りをシャルロッテに聞くと、
「詠唱が終わった魔導は程なく放出されます。有効射程距離もありますので、その位置まで進軍してから詠唱を始めてください。残り10秒になったら全軍引きます」
こちとら初めてなんで、タイミングがわからないが、キュー出ししてくれるなら問題ないだろう。
空からの攻撃は聡達竜騎士隊が、地上の先兵は弓兵隊が、それらの撃ち漏らしを戦士とモンクが、中程から後方への攻撃は、召喚士がそれぞれ行うようだ。いや、そこまでやったらただの蹂躙でないのか?
魔導隊は俺のサポートに回ることになった。そりゃ、神級魔導があるんならそっちの方をメインにしたらいいよな。
何か全てが俺のために組まれてる作戦って、萌える……、いや、燃えるな!世界の中心でオレが叫ぶぜ!って感じ。やってやるぜっ!
次回は7/11投稿します。
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