#024 【第四話 了】
第四話 最終話です。
さて、残りの弾倉は2つ。そろそろ引き揚げも考慮しないと、剣だけで戦う羽目になる。
ゾンビに剣は結構危険だ……。いや、親父ギャグじゃないよ。
剣というのは究極的には相手に当たらないと、つまり触れないと切れない(当たり前だ)。しかし、相手に触れるということは距離が近くなるということで、その分こちらのリスクが増える。
一撃で首を吹っ飛ばせれば問題ないが、そうでない場合は、取り囲まれたときに厄介になる。
こちらのサイドは残り1か所。4名がいる。
戦闘を避ける必要があるか。何だかものたりないけれど。
とりあえず向かう。今度は最初と同じ一軒家だ。
中には母親、赤ん坊、娘・息子がいた。
父親らしき人が家の前で倒れていたから、囮になって家族を守ったのかもしれない。
しかし、赤ん坊か……。ゲームではついぞ出てこない年齢層だよね、そのあたり。
容赦ないな、このゲーム。乳児までターゲットに入れているとは。
赤ちゃんゾンビとか見たことないけれど、ハイハイしながら襲ってくるのか?想像すると少し可愛く思えるから不思議だ。いや、ゾンビなんだけど。
周囲に今のところゾンビの姿がないので、4名を連れて家を出た。
母親が赤ん坊を抱え、娘が息子を背負っている。
移動に時間がかかりそうだが、何とか誘導を終えた。
さて、残りは反対の方向の8名だ。
こちらは人数が少ないので、身軽に動けそうだ。もちろん今彼らは動いていないが。
どうでもいいのかもしれないけれど、30分ってとっくに過ぎてるよね。
いつになったら終わるかな。まぁ、順調だし別に構わないけれど。舞美がサービスしてくれているんだね、きっと。
さて、それはともかく状況確認だ。
スカウターのマップ上では、6班のうち、1の班が壊滅状態になっている。すぐに他の班と合流させ、5班体制に移行した。副官は俺と同じペースくらいで生存者の救出に当たっている。健在だ。
残りの8名も何とか探し出して、それぞれを集会場に誘導した。
この8名の中には心惹かれる対象者はいなかった。残念。
それよりも心もとないのは残弾だ。
途中戦闘もあって、残りの弾倉は今装着しているやつのみになった。
結構使ってしまったな。
班は4つにまで減った。当初の戦力の6割近くがなくなったことになる。ある意味惨敗であるが、目的は生存者の救出なので、そちらは9割方行けた感じだ。
一度戻って、最後の作戦を練ったほうがいいかもしれない。
「マミヤ、全員に集会場所に戻るよう指示してくれ。一度編成を見直す。」
『了解しました。なるべく早めにお戻りください。』
「了解だ。」
ふと、マップの端に、青い光点が集まっている場所を見つけた。
あれ?今までなかったと思うのだが……。
結構な人数がいる。しかし、赤い光点も多い。寧ろ今までで一番多いかもしれない。
100体はいるだろうか。
現状の装備では厳しい。というか、無理だ。
「マミヤ、先ほどの指示を訂正。新たな生存者を発見。至急2つ班及び副官を援護に寄越してくれ。こちらの弾倉予備がない。補給もお願いしたい。」
『わかりました。先ほどの指示を訂正。新たな生存者の存在を確認しました。副官と2班を援護に回します。補給は別途こちらから動けるもので手配します。ご無理をなさらないでください。』
「わかってる。死ぬつもりはない。」
しかし、援護が来るまでの時間によるな。結構調子に乗って遠くまで来てしまったから、かなりの距離がある。待っていると生存者の身が危なくなる。
仕方ない。剣での戦闘は危険だが、しばらくは耐えるしかないな。
最短ルートでできるだけ少ない弾数で倒せるだけ倒して、生存者の元にたどり着き、援護を待つということくらいしかできないか。
まぁ、ゲームだし、マミヤにはあぁ言ったけれど、別にゲームオーバーになっても仕方ないよね。
クリアはしたいけれど、無理ゲーになっちまったのでは、流石に俺でも諦める。いつかはゲームオーバーになるんだ。
ここは潔く突っ込んで、1体でも多く敵を倒す。それがゲーマー魂ってもんだろ!
違うって言うなよ。俺が今決めたんだ。
うぉぉぉぉぉーーーーっ!
とマシンガンを撃ちながら、100体のゾンビの集団に襲い掛かる。
最初の10体は難なく倒せたが、大勢になると狙いが絞りづらい。無駄弾も結構使ってしまったので、20体くらいでマシンガンは使い物にならなくなった。いよいよ剣の出番だ。
囲まれてしまう前に鞘から抜く。ものすごい存在感だ。剣。
自分で振り回したことはないが、この体は慣れているようだ。
とにかく頭部を狙いながら、首を撥ねていく。切り損なうとこっちがやばくなる。
しかし、剣だけに一度に処理できるゾンビの数には限界がある。
先頭集団は何とかしたけれど、流石に3・4体まとめてかかられるといかんともしがたい。
そのうち噛まれる。
「うわぁぁぁーーーー!」
痛みに声を上げる。この痛み本物か?ゲームではありえない。痛い。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイ!
ゾンビに噛まれた経験はないけれど、なんか体の中を這うような感覚がある。
もしかしてこれがゾンビウィルスなのか?俺、ゾンビになるのか?
い、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だーーーー!
最後にマミヤの声が聞こえた。
『ヨージ、ヨーーージーー!……。』
あ、やっぱり妻は心配してくれるんだ。もう一回会いたかったな。
と思った次の瞬間、俺の意識はなくなった……。
****************
ぴーーーーっ!
という音と共に、意識が戻った。
何だかボーっとしている。
ものすごく汗をかいている。びっしょりだ。夏場に外周りを延々とし続けた後みたいだ。
最後の方がすごい体験だったと思うんだが、いまいち覚えていない。
ただ、ゾンビを倒した感触とか、銃を撃った感触が残っている。
あれは凄かった。ゲームセンターは雲泥の差だ。
またやってみたいな、と思えるくらい、感動した。
あ、そういえば、舞美は……。
「神野様、お疲れ様でした。いかがでしたでしょうか。『FANTASY OF OWN LIFE』、楽しんでいただけましたでしょうか。神野様は今回、指定ミッションをクリアできませんでした。いいところまで行けたのですが、設定が厳しかったですね。でも次回また頑張りましょう。」
とアナウンスが入る。
あれ?舞美の声じゃない。
「えーと、舞美……宇多川さんはどうしたんですか?」
と、声をかけてみる。
「また宇多川の話ですか?いつも同じことをおっしゃいますね、神野さんは。」
いつも?え?俺初めてだと思うんだけど……。
舞美は?どこだ?
俺は確か、舞美と一緒にここで……。違ったのかな。なんか頭がぼんやりしていて良くわからなくなってきた。
「宇多川は、神野さんと結婚して、家にいるはずですよ。もうずいぶん前に退職してますから、今はいませんってば。」
はい?俺が?舞美と?結婚???
いやいやいやいや……。あれ?そうだっけ。
そういえば……と、少し記憶が戻ってきた。
俺は3年前に、道端で倒れていた舞美を見つけて、救急車で一緒に病院に行ったんだ。退院したその足で、一日デートしてその日に恋人同士になったんだ。
その後も、舞美はここ、アフロポリスで働いていて、職員特典で俺も『FOOL』を利用させてもらった。最初に利用した時に、いろいろと意見を言わせてもらったのだが、それがとても好評だったようで、今は報酬こそないものの、時間のある時に来て『FOOL』を利用し、改善案などを出している、いわば施設の改善提案係のようなものをしている。
そのたびにこうして、今担当のオペレータと同じやり取りをしている。
『FOOL』は面白いのだが、いろいろ負荷が大きいんだよな……。
舞美と付き合っているときは俺の仕事の方が早く終わるから、よく迎えに来て一緒に夕飯を食べて帰ったり、そのままお泊りとかして、過ごした。
出会ってからちょうど1年になる2年前結婚したんだった。
天涯孤独と言っていた舞美は、本当に幸せそうにしていて、結婚してよかったと思った。
会社の同僚からは、いつの間にこんな素敵な嫁さんをゲットしたんだ!と相当やっかみを受けた。
へへ、文字通り拾ったんだよ!なんて言えないので、そのあたりは内緒にしている。
結婚後舞美はしばらく働いていたが、昨年退職した。
舞美が退職してからも、俺はここで同じようなことを繰り返しているという訳だ。
特に今日はアフロポリス開店3周年記念で、いち早く新しいコンテンツの体験をしたわけだ。
なんか思い出すのに時間がかかったけれど、何だか懐かしいな。俺も30歳になったし、もうすぐ子どもも生まれる。きっと舞美に似て可愛い子に違いない。
あぁ、早く帰って舞美に会いたいなぁ。
とっとと意見言わせてもらって、帰るかー。
待っててくれ、舞美!
第四話 了
第四話終わりました。
第五話は少し先になるかと思います。
出来上がり次第UPしますので、気が向いたら覗いてください。
ご感想等お待ちしております。
もう1作品あります。こちらも併せてよろしくお願いいたします。
『異世界訪問は突然に』
http://ncode.syosetu.com/n0848dk/