#023
第四話 佳境です。
ちょうど路地あたりに隙間ができていて、何体かのゾンビが歩いてきた。だいたい10体くらいか?
マシンガンを構え、安全装置を外して、連射する。この辺りはキャラが勝手に動く。
お、意外に反動が大きい。リアルだな。実射はしたことないけれど。ゲームセンターの感触とは全然違うわ、これ。すげー。
胴体を中心に何発かずつ当たり、ゾンビは倒れる。手が吹き飛んだり足がちぎれたりしている個体もある。ホントにリアルだ。
しかし、ゆっくり起き上がって、再びこちらに来る。
この辺りもリアルだな。やっぱり頭を飛ばさないとダメか。
狙いを少し上にして、再び連射。
ほどなく、すべてのゾンビが倒れた。
よし、やれる。爽快感はゲームセンター以上だ。
ゲームと違う迫力、感触に俺は虜になりそうだ。というよりも、ゲームセンターのゲームじゃ物足りないだろう。
ここが、連日連夜長蛇の列になるのがわかったような気がする。これは反則だ。ゲーム業界の危機と言ってもいいかもしれない。
『FOOL』が量産されたら、既存のゲームセンターは駆逐されるだろう。
もしかすると家庭用ゲーム機市場も大きな転換を迫られるだろう。
そうなったら、逆に色々な需要が出るし、俺の仕事もまた潤うだろう。来週会社に行ったら、早速報告しておこう。今から『FOOL』と販売独占契約をしておくのだ。
おっと、そんな現実的な話をしている場合じゃない。まだまだゾンビは多い。10体くらいじゃ話にならないな。
スカウターを表示すると、赤の範囲は少し小さくなったかな、という程度であまり大きな変化は見られない。まだ作戦は始まったばかりなのだ。
ふと、一つの緑のグループに目が行く。光点が4つに減っている。誰かやられたのか。
比較的ここから近いところだし、援護に行くか。
少し走って光点を追う。
幸いあれから光点は減っていないので、被害は最小限に食い止められているようだ。
「大丈夫か!」
場所にたどり着いて、4名の兵士を見て叫んだ。
「は、ヨージ様。一人やられてしまいましたが、大丈夫です!」
と言って、班長らしきものは敬礼した。少し休息をとっていたようだ。
「命はかけていても粗末にするものではないからな。無理はするな。援護が必要な時は呼べ。」
「はっ!ありがたきお言葉です!」
「では俺は別の所の支援に行く。ここは頼んだぞ!」
と言い捨てて、俺は再び移動する。
スカウターで再度状況確認をする。他にも人数が欠けてているところが出始めている。
まずい。全体的に押されている。
俺は無線で指示を出す。
「人数が欠けたところは合流して、合同班を作成。生存者の救出を急げ!」
『了解。合同班の作成を指示します。』
マミヤの声が聞こえた。
いくつかの青い光点が、最初にいた集会場辺りに現れてきている。無事保護した生存者だ。
全体のマップで確認すると、だいたい全体の2割くらい、と言ったところか。
しかし、緑光点が欠けた付近の青光点が赤に変わっていく。
ゾンビに喰われて、ゾンビ化してしまった生存者だ。
そこまでのスピードではないが、着実に広がっている。まずい状況だ。
ゲームセンターのゲームはとにかく目の前に現れる、ゾンビやらゾンビ犬やらをなぎ倒せばいいが、今は生存者の確保も一つの要素になっている。
このままではゲームオーバーになりかねない。
先ほどの指示で緑光点が集まって、新たな集団をつくっている。
全部で6班。4つの班がなくなった計算だ。
当然カバーできる範囲も狭くなる。
しかし、ここはある意味自分の見せ場であるな。
このリアルな感触を思いっきり満喫するシーンだと思うのだ。
ヨージ無双ってやつかな。ちょっと滾るね。
集団がなくなったエリアに向けて疾走する。
この辺りはゲーム感覚でサクサク動ける。実体の神野洋二はそこまで体力はない。
途中はぐれゾンビに出会うが、ヘッドショットで切り抜ける。
何体か相手をしていたら、弾切れになった。
弾倉を取り替えて、走り続ける。青い光点が比較的多く存在するエリアに入る。
人数が固まっているところを優先で回ることにした。多くの人を助けるには多少の犠牲も要るだろう。
相手が美女なら一人でも助けに行くが、色だけではそれはわからない。
『今、邪なこと考えてたでしょ。ヨージ。』
いきなり耳元にマミヤの声が響いた。な、なんでわかるんだ、コイツ。エスパーか?
「い、いや、そんなことはない。それよりも副官に6集団のカバーを頼むと伝えてくれ。俺は孤立している生存者の救出に向かう。」
『そう言う事にしておきますね。後でみっちり話を聞かせてもらいますからっ!副官への伝言、了解しました。』
だんだん怖くなっていくよ、マミヤ……。戦場の中に綺麗な花があったらつい見ちゃうだろう?
改めて確認すると、右に5地点8名、左に4地点12名の生存光点が見える。
左に進路を取り、一番多い4名の光点に近づく。
「大丈夫か?助けに来たぞ!」
と入ったところは、ある一軒の家。
中には、家族と思われる人たちが身を寄せ合っていた。固まっているくらいならとっとと動けばいいものだが、本当の恐怖状態のときは簡単に体を動かすことができない。
彼らには、どこからゾンビが出るのかわからないのだから仕方がない。そういう時は身を寄せ合う生き物なのだ、人間は……というか、あまりのリアルさに忘れていたけれど、ここって仮想世界だよね。
兵士がプレイヤーなのはいいとして、他の生存者はNPCじゃないのかな。ここもやたらリアルだ。無駄に金かけてるよね、このシステム。
「あ、ありがとうございます。」
と父親らしき50絡みのおっさんが礼を言ってきた。
後は母親と娘、息子だ。
母親はストライクゾーンを大きく外れているが、娘の方は17・8といったところか。ぎりぎりセーフだな。って、またマミヤにどやされちまうし、俺には舞美がいる。まだ付き合ってもいないけれど、ほぼそこは既定路線になる確信がある。他の女の子に目移りしている場合ではない。
モニターされていて、見られて誤解されたら目も当てられない。
「さ、早く移動するぞ。」
と、家族を集会場の方向に誘導する。
少しビビっていたけれど、何とか動いてくれた。
さて、後16名だな。
次の場所は、ほどなく見つかった。
とある商店の中で、店主と思しきおっさん(またおっさんか)と、売り子さんと思われる女性(これまた綺麗どころだな。仮想世界ってのは美女の集まりなのかいな)を見つけた。こちらはさすがに身を寄せ合ってという感じではなかったが、カウンターの裏に隠れていた。
先ほどの家族と同じく、集会場の方向に誘導する。
少し腰が抜けているおっさんを、女性が何とか支えて移動を始める。
改めて、スカウターで状況確認する。全体の状況は膠着状態のようだ。班の再編が上手く機能したようでよかった。こちらの生存者も数が変わらない。しかし、赤い光点の範囲が徐々に広がっている。
次の光点はうまく隠れているのか、赤い光点に周囲を囲まれてしまっている。これでは身動きが取れない。
さて、無双タイムにしますか。
弾倉を確認し、マシンガンを構えながら、目的の場所に行く。
果たして、多くのゾンビが建物を取り囲んでいる状態だ。
ゲームや映画でも不思議に思うのだが、彼らはどうやって獲物(人間)を探しているのだろうか。
ゾンビは死体だから、脳は活動していないだろうし、五感が正しく機能しているかも怪しい。
なのに、確実に人間に襲い掛かるし、隠れていても場所を特定してくる。どういう設定なのかね……。人間が出す特殊な脳波とか、フェロモンみたいなものに惹かれるのか?
もちろんそんなことを考えても意味がない。ゲームなんだから、ゾンビは的確に襲ってくる設定になっているだけだ。
とりあえず雄たけびを上げながら、マシンガンを乱射して突っ込む。
その建物は3階建てで、屋上に2名の女性がいた。何とか扉を封鎖して凌いでいるようだ。
俺は彼女たちに声をかけた。
「今から下のゾンビを掃討するから、俺の合図で降りて来い!」
「は、はい!ありがとうございます!」
涙声で礼を言う二人。本当にリアルだな。くどいけれど。いや口説きたくなるくらいいい女だな。
え?親父ギャグは要らないって?うん。わかってる。
『くだらないこと考えていないで、早く救出してください。』
またマミヤが突っ込んできた。本当にエスパーじゃないのか、コイツ。
『後でみっちり聞くことがどんどん増えてますから、覚悟してくださいね。』
こ、怖いです、マミヤ様。
ゾンビのほうが可愛く思えますよ。
それにしてもこのヨージというキャラ。思いっきり尻に敷かれてるな……。
『何か言いましたか?ヨージ』
「いや、な、なんでもな……いえ、なんでもありません。」
思わず言い直してしまったじゃないか。
気を取り直して、掃討を開始。取り囲んでいたゾンビが50体はいたので、マシンガンの弾倉が2つなくなったが、何とか終わった。
屋上の女性たちが恐る恐る降りてきたので、先ほどと同じく集会場への誘導をする。
何度もお礼を述べて、彼女たちは走って行った。もちろんメモをそっと渡されるようなことはなかった。残念。
次回第四話最終話です。明日更新予定です。
臨場感って難しい。って難しいばかり言ってます。
まだまだ勉強です!皆さんのご意見もいただけると嬉しいです。
もう1作品あります。そちらもよろしくお願いいたします。
『異世界訪問は突然に』
http://ncode.syosetu.com/n0848dk/