#022
第四話折り返しです。
気が付いたら、どこかの集会場みたいなところにいた。
多くのキャラが目の前にいた。これはNPCなのだろうか。それとも他のログイン者なのだろうか。そんなことはわからない。
見渡すと窓が見える。
外はところどころで火災が起きている状態で、あたりは薄暗い。確かにゾンビ的なシチュエーションだな、これ。
それにしても、視覚だけではなく部屋の温度まで感じられる。よくよく確認すると、臭覚や触覚まである。何だかすえた匂いが充満している。俺は手に何かを持っているようだ。
少し腕を上げて手の中にあるものを見る。
銃だな、これ。腰には長剣もある。銃に長剣とか何だか盛りすぎてませんかね。
銃の方はマガジンがついてるから、マシンガンタイプか。ぶっちゃけ銃というのは、弾倉に弾がなくなったらそれで終わりだ。
あとはいいところ、殴るくらいしかできない。
実際は殴っちゃうと銃身が歪んでしまって役に立たなくなっちゃうだろうし、そのための剣なのだろうけれど、現代兵器と中世武器の組み合わせが何とも言えない。
全体の恰好は動きやすいように鎖帷子(たぶん噛まれ対策なんだろうな、これ)を着込んで、ガントレット、レッグアームと思しき装備品がある。
どちらも軽量な奴だ。鎧はない。もちろんゾンビ戦でフルプレートだと身動きが取れなくなるので、意味がない。軽装備で協力武器。これがベースだ。
かのバ○オハザー○でも軽装装備だったよな。あれは、ところどころで武器を拾いながらだったけれど、そんな都合よく街中に落ちているとは思えないし、この集会場がメインベースだったとしたら、倉庫にいろいろありそうだ。
一応腰には予備のマガジンが5つある。結構重いが、補給を受けられるスペースとか量を考えると、持てるものは持っておくに限る。
というか、ゲームだったらゲームセンターみたいに視界外でリロードって機能がほしいのだが、微妙に現実感があるというところなのか。
流石最新型VR。どこまでも現実的仕様だな。
で、そんなことを確認していると、俺の横に立っていたおっさんが、声を上げた。
「ハンター諸君、静粛に。今から作戦の説明をする。前のスクリーンに注目してくれ。」
おっと。俺の後ろに大きなスクリーンがあったわ。
え?ということは何?俺は説明する側っていうか、作戦本部的な位置づけなの?
「現在市街地の30%がゾンビに覆われてしまっている。10分ごとに1%その範囲が広がりつつあり、現実的な意味では、ほぼ壊滅状態だ。」
スクリーンでは市街地(ほぼ円形の街のようだ)の見取り図が表示され、赤く染まったところがいくつかある。これがゾンビエリアらしい。
おぉ、なんか酷い。舞美ちゃん、この設定はきつくないですか?
「しかし、このままおめおめとゾンビに喰われるのを待つわけにもいかない。ここに集まってくれた諸君を10班に分け、少しずつこの勢力を削っていく、それが作戦の概要だ。」
か、簡単だな、それ……。大丈夫なのか?
というか、戦力の分散は戦術上ではあまり効果が期待できないのだが。大火力を一点集中したほうがいいようにも思うのだが……。それには理由があるようだ。
「本作戦の優先順位は以下のとおりである。第一に生存者の確保、第二にゾンビの殲滅、第三に各居住区・施設の確保だ。自分の命は最後だ。生き残るより、一人でも多くの人を救え!」
なるほど。赤いエリアにも生存者がいるから、多くに分かれて少しずつ拾うと、そういう話だね。命を投げ出して活動する兵士か。なかなか感動的だが死にたくはないな。ゲームとはいえ。
「以上だ、何か質問はあるか。」
なるほど。生存者を確保するための小分けか。スピード優先だな。
集まっている人数は約50名。みんなそれぞれに獲物を持っている。
10班ということは5名ずつだな。その人数は悪くない。
特に質問が上がらなかったので、俺の横のおっさんが再び口を開く。
「では、最後に、総司令官ヨージ様より、諸君に一言いただく!ヨージ様、よろしくお願いします。」
ほうほう、司令官はヨージというのか……、ヨージ、ようじ、洋二……って俺かいっ!
「諸君、諸君のこれまでの働きは十分なものだった。多くの人民が我々の手によって、ゾンビの魔の手から救い出せた。確かに街はゾンビに覆われかけている。しかし、我々はまだまだ戦える。戦って、一人でも多くの人を救い、この街を救う。そのために集まっているのだ!そうだな!」
あれ?なんか勝手にこの口が話してる。しかも偉そうだ。これはゲームならではのシナリオ消化って感じだな。
こんな適当な演説でいいのかな、と思っていると、集会場のメンバーは口々に
「そうだ!そうだ!」
と叫んでいる。
それなりにカリスマあるのか?このキャラ。
「作戦に時間をかければかけるほど、被害が広がる。我々が我々の街を守るには、24時間以内に状況の改善が必要だというシミュレーション結果が出ている。
これから我々はゾンビどもに対し、全面戦争を行う。そうだ、これは戦争だ!生き残りたければ、一人でも多くの人を救え!ゾンビを一匹残らず消し去れ!
それが我々の目的であり、ゴールである!諸君の善戦を期待する!以上だ。」
「以上である。各班ごとに解散、作戦を開始する!」
おっさんの掛け声とともに、おおぉっ!と威勢の良い声が上がり、班ごとに散らばっていく。
なんかよくわかんないけれど、なかなか大がかりだ。
ゲームセンターでは一人で黙々とやるんだけれど、これはこれでマスゲーム要素が大きくて面白いな。で、司令官の俺は何をしたらいいんだ?
「では、ヨージ様、我々も行くとしますか。」
横のおっさんが声をかけてきた。
ん?人はほとんど残っていないけれど、俺たちはツーマンセルなの?
「いえ、我々は遊撃として、各班のフォローに回ります。私は東半分をカバーしますので、ヨージ様は西半分をお願いします。拠点には通信用のオペレーターを残し、一班がここの警護に当たります。」
司令官と副官が直接戦場とか、末期だなこれ。まぁ、座って戦火を眺めるよりは、暴れるほうが楽しいに決まっている。
「よし、東は任せたぞ。副官。生きて帰ってこい。お前に言える命令はそれだけだ。」
「アイアイサー!」
と敬礼をして、勢いよく飛び出していった。
「ヨージ様、これを。」
と誰かが何かを持ってきた。
持ってきた人物を見ると……舞美じゃん。
「ま、舞美さん?」
「?いいえ、私はマミヤですよ。誰かとお間違いになっているのですか?長年付き添っているのに、酷いですね。」
とマミヤと名乗る女性は文句を言いながら、スカウターらしきものを差し出して言った。
「これで、こちらとの通信及び地域の状況がわかります。赤がゾンビ、緑が隊員、青が生存者を表します。一人でも多くの人をこれで救ってください。」
舞美に似ている女性は、ヨージにスカウターを渡しながら少し背伸びをして、頬にキスをする。
恋人設定ですかね、これ。もしかして舞美ちゃんが自分でやってるのかな。ちょっと恥ずかしい。
「御武運を。」
すぐに離れて真剣な顔つきで敬礼して、ヨージを送り出すマミヤ。
「うむ。行ってくる。」
ヨージは集会場を後にした。
外に出ると、辺りには硝煙と血の匂いが充満し、ところどころの火災で熱も感じられる。
どこまでもリアルな環境に、俺は驚きを隠せない。
さて、早速スカウターを着用し、状況確認をする。
赤表示の点は、少しずつ移動をしている。ゾンビだけに早くはないようだ。
緑の点が5つ固まって、方々に散らばっている。緑の点の上には数字が表示されている。どうやら班名のようだ。
それらの光点は、時折止まり、しばらくしてまた動き出している。
そのたびに無線がちょこちょこ入ってくる。たぶん生存者の確認を行い、報告しているのだろう。
このスカウターは特別製なのだろうか、全員に持たせたら楽になるだろうに。
後でマミヤに言っておこう。
そういえばマミヤってどういう存在なのだろうか。
スカウターがヘルプ機能を持っているようで、この仮想世界の状況を確認できた。概ねブリーフィングで話されていた通りで、それ以上の不快設定はない。
マミヤについては、司令官ヨージの妻で、主任オペレータとして活躍する24歳だそうだ。
なるほど……頬にキスしてもおかしくない関係ってことか。流石に人前でマウストゥマウスはないか。
などと感慨深く思っていると、スカウターのマップ内で、緑の点が赤の点と交錯し始めた。戦闘が始まったのだ。
今のところ、順調に行っているようだ。
俺も突っ立っていても仕方がないので、緑の点が漏らしている場所のカバーに入ることにする。
副官が東と言っていたので、俺は西に進路を取った。
さぁ、戦闘開始だ!
次回明日更新予定です。
いや、ゾンビ話は難しいですね……。
何でも難しいんですけれど。
もう1作品あります。こちらもよろしくお願いいたします。
『異世界訪問は突然に』
http://ncode.syosetu.com/n0848dk/