#021
第四話 3話です。
「僕も、話題のアトラクションに興味があります。待ち時間が長いので、しばらく様子を見ようと思っていたのですが……。」
努めて平静を装い、何とかセリフを絞り出した。うん。がっついているようには見えないと思う。
「はぁ、よかったです。こういうのは好き嫌いがありますので、お気に召さなかったらどうしようかと思っていたのです。」
漸くほっとした笑顔を見せる舞美。
こっちもほっとした。
「もし、よろしければ、なのですが……。」
とさらに何かあるように言葉をつづける。
「アトラクションの後、私お休みをいただきましたので、お食事などお付き合いいただけると嬉しいのですが……。」
願ったり叶ったりです。断る理由は微塵もありません!
「僕でよかったら喜んで!」
「はい、ありがとうございます!」
やっほーい!今日は盆と正月とクリスマスと誕生日とボーナス支給日が一緒に来たような素晴らしい一日になりそうだ。
ここは退院したての舞美にあまり負担をかけたくないので、病院前からタクシーを飛ばしてアフロポリスに向かう。ここでも舞美は恐縮しきりだったが、別に何万円もかかる場所ではない。大人の余裕を見せて、料金を払った。
「こちらです。どうぞ。」
と関係者以外立入禁止という扉にある、セキュリティボックスに舞美は自分のカードを翳して、ロックを外す。
おぉ、本当に職員なんだ。すげー。初めて会ったよ。こういう関係の人。
中に入ると超未来形オフィスというか、すっきりしたところに入る。うちのオフィスと違いすぎるぜ。書類に埋もれて仕事するオフィスは時代遅れだよな、うん。
すぐに応接に通され、暫し待つ。
上司と思われる人物を連れて、舞美が戻ってきた。
「いやぁ、このたびはうちの職員がご迷惑をおかけしたようで、誠に申し訳ございませんでした。彼女はうちの貴重なオペレータでして、助けていただいたこと、本当に感謝しております。」
と深々と頭を下げられた。
「い、いえ、たまたま通りかかっただけでして、困っている人を助けるのは当然のことです。」
「いや、それでも意識が戻るまでお付き合いいただけたとか。なかなかそこまでしていただけることはないと思います。
ご存じだと思いますが、宇多川くんは身内と呼べる人がいません。一人で病院にいては心細かったでしょうし、神野さまのような方が傍にいていただいて、よかったと思います。」
おぉ、すでに名前まで把握している。報告早いね、舞美ちゃん。
「つきましては、ささやかなお礼として、当施設のアトラクション『FOOL』をお楽しみいただきたいと思います。巷では話題になっていると言いますが、この手のものは好き嫌いもありますので、こんなものでよいかと思ったのですが、幸い神野さまはご興味がおありということで、よかったです。」
さっき舞美も言っていたが、こんだけ話題で連日何時間待ちにもなるアトラクションを、嫌がる人がいるのだろうか。あり得ないと思うんだけどな。
「オペレータに宇多川くんを付けますので、存分に楽しんでくださいませ。」
「ちなみにオペレータというのは、どんなお仕事なのですか?機密事項でなければ教えてください。」
舞美の仕事内容に少し興味を持ったのだ。
どんな感じで仕事してるんだろうな、舞美ちゃん。
「はい、『FOOL』はちょっと特殊なVRマシンでして、画一のものを提供しているわけではないのです。その方の望む環境・シチュエーション・役割を適切に割出、かつ、仮想世界で十分楽しんでいただけるような調整を行わないといけないのです。結構デリケートなものでしてね。繊細なオペレーションが要るのです。」
ほぉ。流石に凝ってるな。それをどう適切に割り出すのかは企業秘密だという。もっともだ。そんなことがひょいひょいできたら嫌だ。
「宇多川くんはそのあたりの操作がとても上手でして、うちの中でも貴重な戦力なのです。」
へー。若いのに感心だ。もしかするとこういうのは若い方が習得が早いのかもしれないな。年を取ってくるといろいろ能力が落ちてくるし。
「では、お待たせするのもなんですので、早速ご案内しましょう。」
と、舞美の上司は先頭に立って、施設まで案内をしてくれた。VIP扱いだよね。
案内された部屋には、豪華そうな一人用チェアがあり、サイドテーブルにヘッドギアが置かれている。この椅子に座って、ヘッドギアを被るだけだそうだ。
今回は30分コースを体験させてくれるそうだ。
体験させてもらえると言っては何だが、終わったらきっちりご意見お聞かせください、と感想を求められた。
体のいいモニターだね、これ。
いや、でも舞美と一緒に楽しめるんならそんなものお安い御用だ。
「では早速、仮想世界内の洋二さんの職業を決めたいと思います。ヘッドギアを被っていただき、音声案内に従ってください。因みにその音声は私が担当しますね♪」
舞美もノリノリになってきたのか、楽しそうだ。というか、声だけでも可愛い。
今更思ったが、アニメ声という表現があるが、あんな造られた声よりも、心のこもった生声の方がいいよな。どんな声優も今の舞美には叶わないだろう。
というか、職業か……。確かパイロットだか、戦士だか、お姫様みたいな感じで選べるんだな。つか、お姫様の選択はさすがにないが。他にもあるのだろうか。
椅子に座り、ヘッドギアを被る。
目の前に何かしら表示がされ始めた。
「今回お選びいただける職業4種類です。洋二さんのご希望のものを選んでください。」
この辺りが、利用者の望むものの実現ってところか。だったら人によって全然違うのも頷ける。
俺の目に入ってきた職業は以下の4つだ。すべて舞美の音声解説付きだ。
ドラゴンハンター:危険度高 最強種であるドラゴンと戦い、勝利することを義務付けられた英雄
ベヒモスハンター:危険度中 いわゆる中ボスクラスのベヒモスを討伐する依頼を受けたハンター
ゾンビハンター:危険度中 街中に溢れたゾンビを一掃する依頼を受けたハンター
サイクロプロスハンター:危険度低 森に出現したはぐれサイクロプロスを討伐する依頼を受けたハンター
何だかえらく偏っている。すべて討伐系ミッションだ。でも確かに俺に合ってるな。ゲームセンターでも殲滅系とかそんなものしかしないし。
でもせっかく体験するなら、普段との比較は絶対必要だ。
ここはゾンビハンターで決まりだな。
「ゾンビハンターでお願いします。」
「はい、ゾンビハンターですね。設定を開始します。しばらくお待ちください。」
表示されているヘッドギア内のメモリがどんどん右に増えていく。
「本来は開始前にここまでの設定はしません。体験中に状況を鑑みて修正を行うんですよ。今回は特別ですからね、洋二さん♪」
おぉ、なんかすでに恋人同士のような雰囲気だ。
俺もたいがいやられていると思うが、舞美も結構やられてるんじゃないかな。
こういうのは公私混同結構だよね。お礼だし。
「では、『FANTASY OF OWN LIFE』開始します!Good Luck!」
舞美のその声を最後に、俺の意識は飛んだ……。
次回明日更新予定です。
もう1作品も書いていますので、そちらも併せてお願いいたします。
『異世界訪問は突然に』
http://ncode.syosetu.com/n0848dk/