#020
第四話 2話目です。
我ながら何で付き合い続けたかはわからない。
赤の他人であって、何の関係もありはしない。
確かに美人だがそれだけでここにいるのは、間違っている。
寝ている間に医者がやって来て、各種検査の結果を報告してくれた。
特に異常がなかったそうだ。
何だそりゃ。よくわからないな。
そして、漸く彼女は目を開けた。
暫く自分の状況がわからなかったのだろう。周囲を見渡し、ぼーっとした感じで横たわったままだったが、段々と目の焦点が合ってきて、意識がはっきりしたようだ。
「ここは……。」
と声を発した。
良かった。俺は安堵した。
「ここは病院です。路上で倒れこんでいたのを俺が見つけて、救急車で運んでもらいました。」
と簡単に状況説明をした。
「た……おれ……て? あ、あなたは……?」
「俺は偶さか通りかかった唯のサラリーマンです。」
「え……?そ、それはご迷惑をおかけしました。わざわざありがとうございます。」
少し不思議そうな顔をしながら、彼女はお礼を言った。
まぁそりゃそうだわなー。
気がついたら知らないベッドで寝ていて、知らない男が横にいたんだもんな。
騒がれなかっただけよしとするか。
とりあえず医者を呼んで、問診してもらう。
名前は、宇多川舞美といった。21歳。大学生ではなく社会人だそうだ。
特に既往症などはなく、原因がわからないままではあったが、一応様子見として、一泊していくことになった。
あんまり病院は泊まらせたくない所だと思っていたので、少し驚いた。
俺は一度退去し、明日また来ることにした。
舞美はその行為に恐縮しながらも、別に拒否することなく受け入れてくれた。
医者との問診のあと、少し話したところでは、舞美には親族と呼べる人がいなく、所謂天涯孤独的な状況ということがわかった。
それが、俺が明日も来ようという気にさせた。
舞美は俺が退出する際も何度もお礼をいい、また明日、と声をかけてくれた。
お?何だかいい感じ?
美女にそう言われて悪い気がする男はいないだろう。
そのまま自宅に帰ることにした。すぐにでも明日になって欲しいと思っているが、まだ夕方にもなっていない。
こっちがやられちゃったか?
明日は幸い土曜だ。元々休みだし、上手くいったら最高の週末になるかも知れない。
夜になるのももどかしいが、ゲームセンターで時間を潰すのも今日はやめとこう。何だかそんな気になれない。
考えるのは舞美のことばかりだった。
人生で付き合った女がいないとは言わない。年齢的にはそろそろ結婚というのもおかしくない。
それでも独身サラリーマンを楽しんでいたのは、偏に面倒だからだ。
何で自分の時間や稼ぎを女のために使わなければならない?何でいちいちご機嫌取りながら過ごさないといけない?
女は基本的に面倒だ。元々の思考回路・方向が男と違う。要は価値観が元々違うのだ。だからこちらの意図とは違う方向にすぐ行く。不満を言う。
そんな付き合いをしていると長く続くわけがない。3か月持った試しはないな、自慢じゃないが。いや、自慢することでもないが。
しかし、今のこの気持ちは何だろう。
ものすごく違う。うまく言えないが、違う。
何も知らない、何も話をしていない。単に運よく助けた。それだけの女のはずなのに、気が付いたら舞美の顔を思い出し、ニヤニヤしている自分がいる。正直自分がキモい。
そんなことを思っているうちに、いつしか寝たようだ。気が付いたら朝だった。
もしくは寝てなくてずっと思考ループしていただけかもしれないがな。そんなことはどうでもいい。
朝一で病院に行く。面会時間?知らんがな。朝食終わってたらいいだろ?
幸い、勝手に退院しておらず、舞美は昨日と同じベッドでそこにいた。待っていてくれたようだ。いや、自分が来るのが早すぎたのだ。
一応回診を待って、特に問題がないようだったら退院するのだという。
「また来てくれてありがとうございます。えーと、そういえば、お名前お伺いしてませんでしたね。」
おっと、俺としたことが舞い上がって舞美の名前を聞いただけで、自分の名前も言っていなかったとは。
「僕は、神野洋二。洋二と呼んでください。」
なんだ?僕って。そんな言い方しないし、普段は……。ダメだな俺。
「洋二さんですか、昨日はありがとうございました。ご迷惑をおかけしましたが、ご覧のとおり元気になりました。」
「そのようですね。良かったです。」
気の効いたセリフも言えない……。なんかすごく緊張しているぞ。
「洋二さん、この後のご予定は何かおありですか?よろしければお礼をしたいのですが。」
キタコレ!予想通りというか、希望通りの展開だ。
神様、ありがとう。
「いえ、特に今日は。土曜日で仕事も休みですし。」
「え?もしかして、昨日はわざわざお休みされたのですか?」
「え、えぇ。どうしても舞美さんの御側を離れることができなくて。」
「そんなご迷惑をおかけしていたとは……。本当にすいません。」
「いいえ、僕が自分で決めたことです。舞美さんは悪くありませんよ。」
それでも……と恐縮しながら何度も頭を下げる舞美。いい娘だね。21歳だったはずだが、社会人となるとしっかりするものだ。
「舞美さんこそ、お仕事とか大丈夫なんですか?」
「はい。とりあえず昨日のことは洋二さんがお帰りになった後、連絡をすることができましたので、何とかなりました。連絡できなかったので、ちょっと怒られちゃいましたけどね?」
てへって感じで、少しだけ舌を出しながら微笑む舞美。
これは、萌えですね!わかります。人生初萌えかもしれません!
俺の心臓は16ビートで動いているよ。ドキドキだ。
お互いに少し顔を赤らめて、俯く二人。いや、純愛小説展開ですよ、これ。絶対俺のキャラじゃないし。何がどうなっているんだ!
とそうこうしているうちに、医師がやってきて回診になった。
聴診もあるので、席を外し、院内の休憩室で缶コーヒーを飲んだ。
漸く落ち着いたぜ……。にしても破壊力のある笑顔だ。
性格もよさそうだし、これは俺にも春がやってきたのか?秋だけれど。期待しちゃうよ!舞美ちゃん。
回診も終わり、舞美は病院着から昨日の服に着替えて、病室で俺の戻りを待っていた。
「お待たせしました。退院できるとのことですので、参りましょうか。」
二人で会計を済ませ、病院を出た。
今日は昨日と違って、晴れやかな天気だ。秋らしく少し暖かいながら、風があって、過ごしやすい一日だ。
「さて、洋二さん。このたびは本当にありがとうございました。早速お礼をしたいのですが、この後お時間大丈夫ですか?」
「えぇ、今日の僕は舞美さんのためにすべての時間を空けてますよ。」
と顔を赤らめながら一生懸命気取って言ってみた。
「そ、そんな……。でもありがとうございます。嬉しいです。」
メガトン級の破壊力をもつ笑顔を向けられて、俺の心臓は32ビートの鼓動になる。いや、これじゃ俺の方が病院のお世話になってしまうぞ。
お、女の子のお礼って何だろうか。いやいや、邪な考えはいかん。だいたい退院直後で何を期待するんだ俺。野獣のような中高生ではないのだ。がっついてはいけないのだ。
普通に食事ってところだろうな。まだお昼には早いけれど。
しかし、舞美を見ると少し緊張した面持ちで何かを言おうとしている。これはもしかしてそういうフラグなのか?期待していいのか?俺。まだまだ32ビートの鼓動は続いている。
「実は私、アフロポリスで働いておりまして……。」
ん?今なんと?
「担当が、『FANTASY OF OWN LIFE』っていうアトラクションのオペレータなんですよ。」
えーーーー!今を時めくアフロポリス、しかも目玉の『FOOL』関係者とは!
も、もしかしてお礼というのは……。
「昨日上司に事情を話して、お礼をしたいと言いましたところ、ぜひ連れて来なさい、と言われまして……。『FOOL』にご興味はおありですか?」
ありますあります。もちろんあります!
舞美が言うには、特別に舞美のオペレーションで『FOOL』を体験させてもらえるらしい。今回の人助けは俺にとって一石二鳥、いや一石五鳥くらいの価値があるものになった。
次回明日更新予定です。
もう1作品ありますので、そちらも併せてお願いいたします。
『異世界訪問は突然に』
http://ncode.syosetu.com/n0848dk/