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FANTASY OF OWN LIFE  作者: 矢吹さやか
19/24

#019 【第四話 開始】

第四話です。


今回の主人公はサラリーマン金○郎……じゃなくて、神野洋二じんのようじ、27歳独身。


でございます。


今回も6話予定です。よろしくお願いいたします。

 文字通り残念そうな音を立てて、画面いっぱいに表示される「GAME OVER」の文字。

 100円の追加投入を促すコンティニューの数字がカウントダウンされている。


 ここはゲームセンターの一角。

 時刻的にはもう夜の11時だ。そろそろ閉店の時間だな。

 俺はボタン連打してカウントを0にし、席を立つ。

 

 いやぁ、今日も遊んだね。帰って寝るかー。


 俺は神野洋二じんのようじ

 商社に勤める27歳。もちろん独身だ。

 社会人になって5年目。仕事は順調そのもので、不満はない。


 今日も大きな商談が決まったので、上司と祝杯を上げてきた所だ。

 え?酔ってるのかって?

 バカ言え、上司と飲みに行ったって一滴も飲まないよ?俺は。

 会社では飲めないふりをしてるのさ。


 酒飲んで醜態晒して左遷されたり、閑職に回されたり、取引キャンセル喰らったりするのはごめんだ。

 そんな話は幾らでも聞いてきた。


 だから飲まない訳だが、場はしっかりと盛り上げてるから、飲み会でも肩身がせまいなんてことはない。

 もっとも、酒代負けするから飲み会もほとんど行かないけどね。


 なので、気分がいい時、悪い時、どちらの時もゲームセンターでスカっとするのさ。

 好きなのはゾンビのシューティング系だな。

 バッタバッタと倒れて得点が上がるのって、仕事で成果出すより簡単だし、最高スコアを出した時は楽しいなんてもんじゃないね。アドレナリン出まくってて、ハイになるわ。


 酒より安いし、いい気分が味わえる。いいこと尽くめだな。

 娯楽としては最高だよ、ゲームセンター。

 ギャンブルみたいにリターンはないけれど、下手に負ける位なら、喜びを買いたいね俺は。


 そんな俺が今一番やってみたいのが『FANTASY OF OWN LIFE』。

 数ヶ月前にオープンした、アフロポリスって施設にある、新型VRマシンだ。

 何でもこれまでの人生観が変わる位の衝撃っていうか、興奮っていうか、とにかく斬新な体験ができるらしい、と専らの評判だ。

 しかし、そのおかげで連日連夜超満員らしい。一体何処からそれだけ集まっているかわからないのだが、平日夜でも3時間、休日にもなれば4時間待ちはざらだとか。


 内容は新体感仮想世界ってだけで、ほとんど明らかにはなっていない、と言うより、人によって異なるらしい。

 頑張って行ってみた奴らの話も一貫性はない。

 パイロットになって空を飛び回ったとか、戦士になって魔物と戦ったとか、兵隊になって戦争に参加したとか、お姫様になって王族の暮らしをしてみたとか。

 ジャンルも内容も色々あり過ぎて、これが!というのはないのだ。


 本来アトラクションっていうのは、体験できる中身が決まってるから、それを体験しに行くもので、何が体験できるかわからないものは、普通人が来にくい。

 なのに、こんなに人気っていうのは、単に話題性だけではない、ワクワクするものがあるからだ、と俺は思う。


 しかし、何時間も並ぶのは流石に辛い。

 サラリーマンの自由時間なんて限られてるんだぞ。何時間も並ぶのは勘弁して欲しい。

 噂によると、ゴールドカードか特別優待券などがあれば、待たずにできるらしい。

 どっかに転がってないかねー、ってある訳がない。


 んー、どっかで覚悟決めて並ぶしかないか。


 と諦めていた俺に、素敵な女神が現れたのは、3日後のことだった。


 *****************


 その日は朝から薄曇りのパッとしない天気だった。

 10月も後半になると肌寒い日も増える。今日もそんな気温だ。

 スーツのジャケットを羽織り、出かける。

 通勤の駅までは歩いて20分。

 結構いい距離だ。しかし、多少駅から離れないと、居住条件が厳しくなる。

 これでも結構頑張った方だ。


 それに歩いていると街の色々な風景に出会える。

 同じ道ではなく、違う道を歩くことで、新しい発見もある。


 おや?こんな道あったかな。


 ふと目にとまった道は、この街に来て5年目の俺も記憶にない道だった。

 何だか得をした気になって、早速その道へ身体を向ける。

 住宅街の一角ではあるが、妙に大きな家が多い。


 ここにこんな邸宅街があるとは。


 俺が住んでいる街はよく言えば平均的な、悪く言えば特に特徴のないベッドタウンだ。

 間違っても高級住宅街ではない。

 それなのに、この風景は少しこの街にそぐわない。


 でも、金持ちなんてその辺でゴロゴロしてるからなぁ。こういう所もあっていいのか、別に。

 などと半ば感心しながら歩いていた。

 ふと、前に何やら人が倒れている。

 特に音もしなかったので、ひき逃げとかそういう訳ではなさそうだが、どうしたのだろうか。


「どうされましたか?」

 俺はその人の側に寄って声をかけた。

 女性だ。顔が下にあるので、風貌はわからないが、手の甲を見る限り若い。

 もしかすると大学生位か。


「どうされましたか?」

 再度声をかける。言語での返事はなく、うぐぐっという呻き声が返ってきた。

 何処か痛むか、気分が悪いのか、何れにしても放っておけない。

 近くに他の人影もなく、家は塀が高すぎて、直ぐに異変を感じて誰かが出てくるイメージでもない。


 仕方ない。会社は遅れるかも知れないが、後で連絡しよう。

 まずは119番だ。

 近くにあった電柱に、ここの住所が記載されたプレートがあったので、それを伝えた。

 自分のことを告げると、ここで待ってて欲しいと言われたので、そのまま待つ。

 無論放置するつもりもなかった。


 普段厄介ごとに首をつっこむことはないが、流石にこれを放置は人としてどうかと思うし。


 待つこと10分。救急車が到着し、ストレッチャーを降ろして隊員が女性に駆け寄る。

 何やら質問をいくつかしているが、まともに答えている項目はなさそうだ。


 直ぐにストレッチャーに担ぎ乗せ、救急車の中に入れる。


「あなたも一緒に来ていただけますか?」


 救急隊員が俺に話しかけて来た。

 えーと、知らない人ですがね、何か役に立つことがあるんですかね?

 と考えているうちに、あれよあれよという間に俺も救急車に乗せられた。


 人生初救急車だよ。

 見ることは多いけれど、乗るのはなかなかないよね。

 ストレッチャーを見ると女性は苦しそうに喘いでいる。

 顔を初めて見たが、なかなかの美人さんだ。

 はっきり言ってタイプだ。スタイルもなかなかよろしい。

 寝かされて毛布をかけられているのに、その存在感がある胸部装甲は、相当な逸物であることを物語っている。

 普段ナンパなんかしないが、これは上玉だし、意識が戻ったら、連絡先位は交換したい。

 なんて不謹慎なことを考えるのは間違っているか?


 走ること10分。

 この街の救急指定病院に到着。

 直ぐにストレッチャーは降ろされ、処置室に運び込まれた。


 俺はというと、駆けつけた警官と救急隊員に、通報した時の状況説明を要求され、話をしていた。

 もちろん見つけただけで触ってもいないぜ。いや、不審者として尋問されているわけではない。

 警官と救急隊員は何かあったら改めて連絡するように、と病院の関係者に告げ、返ってしまった。

 まぁ、本人の意識が戻ったら、また警官は来るんだろうけれどね。


 ここまで来たら何だか最後まで見届けたいと思い、会社に連絡しておく。

 ちょっと上司にぶちぶち言われたけれど、人命優先だよね。

 時間かかるかも知れないし、休みにしておいた。


 処置室に入って1時間ほど経過しただろうか。結構長かった。

 どんな処置がされたのかわからないけれど、病院の搬送ベッドに移され、彼女は姿を見せた。

 意識はないが、先ほどと違い、血色はよく、穏やかな顔付きだ。

 そのまま病室に連れられていった。俺も後を追い、病室までいった。


 一般病室で4人部屋だ。

 もちろん女性専用の病室でいるのは女性ばかり。

 少し居心地が悪いが、仕方ない。


 医師に呼ばれて、女性の状態について話をされた。

 正直状態は、詳しい検査をしなければわからないが、かなりの苦痛を伴っており、とりあえず鎮静剤と点滴を流し込んで、今は安定している。

 意識が戻ったら、既往症などを確認して必要があれば、大病院に移すとのことだった。


 まぁ、そういうこともあるのだろうな。

 流石に医者であったとしても、全てがわかるわけじゃないし。


 女性の身内の方ですか?と聞かれたので、ただの通りすがりです、と正直に答えた。

 それはご苦労様です、と労われた。

 意識が戻ったら、患者に連絡先を聞いて、家族なり、親族なりに来てもらうようにするから、帰ってもいいと言われた。

 しかし、今離れる気になれず、病室で目覚めるまでいることを告げる。


 結局女性は昼頃まで眠ったままだった。


次回明日更新予定です。


8/1から無駄にもう一本始まっています。

そちらも是非よろしくお願いいたします。


『異世界訪問は突然に』

http://ncode.syosetu.com/n0848dk/

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