#019 【第四話 開始】
第四話です。
今回の主人公はサラリーマン金○郎……じゃなくて、神野洋二、27歳独身。
でございます。
今回も6話予定です。よろしくお願いいたします。
文字通り残念そうな音を立てて、画面いっぱいに表示される「GAME OVER」の文字。
100円の追加投入を促すコンティニューの数字がカウントダウンされている。
ここはゲームセンターの一角。
時刻的にはもう夜の11時だ。そろそろ閉店の時間だな。
俺はボタン連打してカウントを0にし、席を立つ。
いやぁ、今日も遊んだね。帰って寝るかー。
俺は神野洋二。
商社に勤める27歳。もちろん独身だ。
社会人になって5年目。仕事は順調そのもので、不満はない。
今日も大きな商談が決まったので、上司と祝杯を上げてきた所だ。
え?酔ってるのかって?
バカ言え、上司と飲みに行ったって一滴も飲まないよ?俺は。
会社では飲めないふりをしてるのさ。
酒飲んで醜態晒して左遷されたり、閑職に回されたり、取引キャンセル喰らったりするのはごめんだ。
そんな話は幾らでも聞いてきた。
だから飲まない訳だが、場はしっかりと盛り上げてるから、飲み会でも肩身がせまいなんてことはない。
もっとも、酒代負けするから飲み会もほとんど行かないけどね。
なので、気分がいい時、悪い時、どちらの時もゲームセンターでスカっとするのさ。
好きなのはゾンビのシューティング系だな。
バッタバッタと倒れて得点が上がるのって、仕事で成果出すより簡単だし、最高スコアを出した時は楽しいなんてもんじゃないね。アドレナリン出まくってて、ハイになるわ。
酒より安いし、いい気分が味わえる。いいこと尽くめだな。
娯楽としては最高だよ、ゲームセンター。
ギャンブルみたいにリターンはないけれど、下手に負ける位なら、喜びを買いたいね俺は。
そんな俺が今一番やってみたいのが『FANTASY OF OWN LIFE』。
数ヶ月前にオープンした、アフロポリスって施設にある、新型VRマシンだ。
何でもこれまでの人生観が変わる位の衝撃っていうか、興奮っていうか、とにかく斬新な体験ができるらしい、と専らの評判だ。
しかし、そのおかげで連日連夜超満員らしい。一体何処からそれだけ集まっているかわからないのだが、平日夜でも3時間、休日にもなれば4時間待ちはざらだとか。
内容は新体感仮想世界ってだけで、ほとんど明らかにはなっていない、と言うより、人によって異なるらしい。
頑張って行ってみた奴らの話も一貫性はない。
パイロットになって空を飛び回ったとか、戦士になって魔物と戦ったとか、兵隊になって戦争に参加したとか、お姫様になって王族の暮らしをしてみたとか。
ジャンルも内容も色々あり過ぎて、これが!というのはないのだ。
本来アトラクションっていうのは、体験できる中身が決まってるから、それを体験しに行くもので、何が体験できるかわからないものは、普通人が来にくい。
なのに、こんなに人気っていうのは、単に話題性だけではない、ワクワクするものがあるからだ、と俺は思う。
しかし、何時間も並ぶのは流石に辛い。
サラリーマンの自由時間なんて限られてるんだぞ。何時間も並ぶのは勘弁して欲しい。
噂によると、ゴールドカードか特別優待券などがあれば、待たずにできるらしい。
どっかに転がってないかねー、ってある訳がない。
んー、どっかで覚悟決めて並ぶしかないか。
と諦めていた俺に、素敵な女神が現れたのは、3日後のことだった。
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その日は朝から薄曇りのパッとしない天気だった。
10月も後半になると肌寒い日も増える。今日もそんな気温だ。
スーツのジャケットを羽織り、出かける。
通勤の駅までは歩いて20分。
結構いい距離だ。しかし、多少駅から離れないと、居住条件が厳しくなる。
これでも結構頑張った方だ。
それに歩いていると街の色々な風景に出会える。
同じ道ではなく、違う道を歩くことで、新しい発見もある。
おや?こんな道あったかな。
ふと目にとまった道は、この街に来て5年目の俺も記憶にない道だった。
何だか得をした気になって、早速その道へ身体を向ける。
住宅街の一角ではあるが、妙に大きな家が多い。
ここにこんな邸宅街があるとは。
俺が住んでいる街はよく言えば平均的な、悪く言えば特に特徴のないベッドタウンだ。
間違っても高級住宅街ではない。
それなのに、この風景は少しこの街にそぐわない。
でも、金持ちなんてその辺でゴロゴロしてるからなぁ。こういう所もあっていいのか、別に。
などと半ば感心しながら歩いていた。
ふと、前に何やら人が倒れている。
特に音もしなかったので、ひき逃げとかそういう訳ではなさそうだが、どうしたのだろうか。
「どうされましたか?」
俺はその人の側に寄って声をかけた。
女性だ。顔が下にあるので、風貌はわからないが、手の甲を見る限り若い。
もしかすると大学生位か。
「どうされましたか?」
再度声をかける。言語での返事はなく、うぐぐっという呻き声が返ってきた。
何処か痛むか、気分が悪いのか、何れにしても放っておけない。
近くに他の人影もなく、家は塀が高すぎて、直ぐに異変を感じて誰かが出てくるイメージでもない。
仕方ない。会社は遅れるかも知れないが、後で連絡しよう。
まずは119番だ。
近くにあった電柱に、ここの住所が記載されたプレートがあったので、それを伝えた。
自分のことを告げると、ここで待ってて欲しいと言われたので、そのまま待つ。
無論放置するつもりもなかった。
普段厄介ごとに首をつっこむことはないが、流石にこれを放置は人としてどうかと思うし。
待つこと10分。救急車が到着し、ストレッチャーを降ろして隊員が女性に駆け寄る。
何やら質問をいくつかしているが、まともに答えている項目はなさそうだ。
直ぐにストレッチャーに担ぎ乗せ、救急車の中に入れる。
「あなたも一緒に来ていただけますか?」
救急隊員が俺に話しかけて来た。
えーと、知らない人ですがね、何か役に立つことがあるんですかね?
と考えているうちに、あれよあれよという間に俺も救急車に乗せられた。
人生初救急車だよ。
見ることは多いけれど、乗るのはなかなかないよね。
ストレッチャーを見ると女性は苦しそうに喘いでいる。
顔を初めて見たが、なかなかの美人さんだ。
はっきり言ってタイプだ。スタイルもなかなかよろしい。
寝かされて毛布をかけられているのに、その存在感がある胸部装甲は、相当な逸物であることを物語っている。
普段ナンパなんかしないが、これは上玉だし、意識が戻ったら、連絡先位は交換したい。
なんて不謹慎なことを考えるのは間違っているか?
走ること10分。
この街の救急指定病院に到着。
直ぐにストレッチャーは降ろされ、処置室に運び込まれた。
俺はというと、駆けつけた警官と救急隊員に、通報した時の状況説明を要求され、話をしていた。
もちろん見つけただけで触ってもいないぜ。いや、不審者として尋問されているわけではない。
警官と救急隊員は何かあったら改めて連絡するように、と病院の関係者に告げ、返ってしまった。
まぁ、本人の意識が戻ったら、また警官は来るんだろうけれどね。
ここまで来たら何だか最後まで見届けたいと思い、会社に連絡しておく。
ちょっと上司にぶちぶち言われたけれど、人命優先だよね。
時間かかるかも知れないし、休みにしておいた。
処置室に入って1時間ほど経過しただろうか。結構長かった。
どんな処置がされたのかわからないけれど、病院の搬送ベッドに移され、彼女は姿を見せた。
意識はないが、先ほどと違い、血色はよく、穏やかな顔付きだ。
そのまま病室に連れられていった。俺も後を追い、病室までいった。
一般病室で4人部屋だ。
もちろん女性専用の病室でいるのは女性ばかり。
少し居心地が悪いが、仕方ない。
医師に呼ばれて、女性の状態について話をされた。
正直状態は、詳しい検査をしなければわからないが、かなりの苦痛を伴っており、とりあえず鎮静剤と点滴を流し込んで、今は安定している。
意識が戻ったら、既往症などを確認して必要があれば、大病院に移すとのことだった。
まぁ、そういうこともあるのだろうな。
流石に医者であったとしても、全てがわかるわけじゃないし。
女性の身内の方ですか?と聞かれたので、ただの通りすがりです、と正直に答えた。
それはご苦労様です、と労われた。
意識が戻ったら、患者に連絡先を聞いて、家族なり、親族なりに来てもらうようにするから、帰ってもいいと言われた。
しかし、今離れる気になれず、病室で目覚めるまでいることを告げる。
結局女性は昼頃まで眠ったままだった。
次回明日更新予定です。
8/1から無駄にもう一本始まっています。
そちらも是非よろしくお願いいたします。
『異世界訪問は突然に』
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