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FANTASY OF OWN LIFE  作者: 矢吹さやか
17/24

#017

「で、今更何の用なの?」

 すっかり頭の隅から隼の存在を消していたのに、会った瞬間すべてが戻ってきて、私は少しお冠だ。

 つっけんどんに質問する。

 

「もしかして怒ってる?」

「当たり前でしょ!何年音沙汰がなかったと思ってるのよ!」

「それにはね、事情があってさ。」

 

 と彼は語り始めた。と言っても超ダイジェストですぐに終わるのだが。

「僕は翠が大好きで、家族みたいに思ってたし、ずっと一緒にいたいと思っていた。けれど、親父が頭堅くてさ。何も成していないお前が翠ちゃんと将来を考えるなんておこがましい、自分の力で何かを成し遂げてから考えろ、って言ってさ。」

 まぁ、確かに高校生風情でそんなこと考えても、ままごとの延長でしかないよね。

 それで?

「で、親父に認めてもらうために、自分の力だけで医者になることを決めたんだ。幸いそれくらいの学力はあったからさ。あとはお金だけだった。」

 

 そう、医者になるには学費を含めてかなりの高額出費を強いられる。

 貧乏人は医者にはなれない。

 

 隼の家も普通の家だった。多少は裕福だったのかもしれない。

 でも出してもらった学費は半分。後の半分と生活費は自分で何とかしろ、かつ一切そのことを私に伝えないように、と言われてむきになったらしい。つまり、本当にそうしたのだ。

 睡眠に当てる時間以外は、勉強とバイト。それも稼ぎの良い家庭教師を始め、3つくらいを掛け持ちしながら、6年間大学に通ったそうだ。

 無事に医師免許を取得し、研修を経て、今回この街の病院に雇われ戻ってきたらしい。

 本当はもう少し落ち着いたら連絡をしようとしていたそうだ。

 

「僕は親父との約束を果たして、戻ってきたんだ。やっと翠に会えると思って。」

 

 素直に嬉しい。だが、私の7年間半を返してほしい。


「連絡位できたでしょ?私がどれだけ泣いたと思ってるのよ!」

「それを言われると何も言えないのだけれど、それも親父の約束の中にあってね。」


 連絡を取り合っていれば、お互いに支え合うこともできるし、こっそり会うこともできる。

 電話、PCなど一切なかったそうだ。

 いや、徹底はしてるけど、何でそこまでさせる理由があるのかしら。


「あぁ見えても親父はロマンチストでな。大きな障害を乗り越えた絆は何事にも変えられない、と思い込んでるのさ。」


 呆れた。呆れてものが言えない。でも、普通に考えて無茶な要求を、私にために乗り越えてくれたのは感動的ですらある。久しぶりにきゅんとしたじゃないの。

 隼の父親は、翠が隼の事を忘れてしまったら、縁がなかったのだと思え、と言っていたらしい。

 う、まぁ、他の人ともお付き合いしちゃったので、強ち間違ってはいない発想ではある。


 その点は謝っておく。


「仕方ないさ。事情が分からないのだから、翠のせいじゃないよ。」


 それに……、と隼は続けた。


「合コンに来るってことは、決まった相手が今はいないって事でしょ?なら、先にちゃんとしとこうと思って。」


 で、ここに招待したと。まぁ、相手がいても人数合わせで呼ばれる早苗みたいな子もいるけどね。


「で、招待までしてこの状況はどういう事かしら?」

「僕は真剣にキミにプロポーズする。いや、今しているという設定だ。他にもいるけれどね。そこで君の出す選抜方法を乗り切って、見事に勝ち取るって予定だ。」


「そんなに都合良く行くの?」

「自信はあるよ。翠が僕との絆で大事にしていることが何なのか、それを試してくれたらいい。」


 と言った。

 え?な、何だろう。何もかもが大切で、でも何もかもが昔の事。

 試すって言っても、どうしたらいいんだろう。


「翠の好きにしたらいいよ。何でも答えてみせるさ。」

 男前なセリフで隼は締め括った。なんか高校生のときよりも大人になったな。当たり前か。


 長すぎる対面も問題なので、隼を部屋から退出させて、暫くのち翠も玉座の横に戻る。


「さて、各々のアピールは終わった。今から王女が選抜に関しての通達をする。4名はそれが何であれ、全力を尽くし、王女の伴侶になるために励むがよい。」


 おっと、もう言わないといけないのか。

 何も考えてないや。

 でも隼の気持ちを確認する事ができる方法だよね。

 ん。下手に他の人にできるものはまずいよね。


「4名の皆様、先ほどはありがとうございました。皆様のお気持ちはよくわかりました。今から申し上げます内容は、私の気持ちが一番分かってくれているかどうかを試す内容になります。」


 そう、私がこれまでで、一番隼にして貰って嬉しかったこと。

 それを隼が覚えていてくれたら、7年間のことは許してあげることにする。


「私の宝物を、ここにお持ちください。宝物と言っても、今私はそれを持っていません。いわば私の思い出の中にあるものです。

 それが何なのか、お考えいただき、ここまで持ってきてください。最も相応しいものをお持ちになられた方に、私は嫁がせていただきます。期限は一日とします。」


 あ、しまった。その間にログアウトしてしまったら、どうしよう。

 かなり時間が経ってるのに、まだ何の告知もないから安心してたけど、60分コースだよね、このコース。どうなってるんだろう。

 まぁ、その時は、隣室にいるであろう隼に答えを聞いて決めればいいか。


「とは言うものの、ヒントがなさ過ぎるのも、如何なものかと思いますので、城内の私の関係者に、何を聞いていただいても構わないことにします。よろしいでしょうか。」


「王女の言葉通りである。皆の者、十分に知恵を絞り、己が心が王女とともにあることを示すがよい。期限はあすの正午としよう。この間に再び参集し、王女に宝物を見せることとする。以上だ。」


 そうして、その場は解散となった。

 隼は大丈夫かな……。

 アレはもう15年以上前のことなんだけど。

 ダメでも隼を選べばよいから、いいんだけど、その時は7年分にペナルティを課してやるから、覚悟しておきなさいよね!


 私は午後から夜にかけて、やることがなかった。

 なんか貴族の娘たちが集まる茶会に参加した位だ。

 彼女たちは現代日本の私たちより、娯楽に飢えているのだろう。

 先ほどの婿選定で、誰が一番良いのか、それを議論している。


 意外に人気があったのは筆頭書記官のフェルナー卿だ。

 こういう世界って、マッチョな方が喜ばれるんじゃないのかな。

 ガストール皇子とマグダエル卿は、キャラが被ってるから分かれているのだろう。

 隼推しは少なかった。

 理由は地位の低さだ。


 元帥とはいえ、隼は庶民の出ということになっているので、王女とは釣り合わないのだという。

 まぁ、貴族社会だったらそんなものだよね。


 まぁ、私は隼一択なので、別に構わない。あなたたちに推してもらおうとは思わないわ。


 そんなこんなで夜を迎えた。

 夕食は珍しく(珍しいらしい)、王様、王妃様と第三王女が一緒だった。

 第三王女はリースレットというらしい。先月帝国の第二皇子とご婚約されたのだそうだ。

 しかし、第三王女が第二皇子と結婚して、私が第三皇子と結婚したら、妹が義姉になるとか、ややこしくないか?よくそんな状況で申し出てくるな。帝国。

 もしかして皇帝はおバカなのかしら。それを考えると帝国はまとまらなくても仕方がないと思っているかもしれないね。

 それにしても、料理は美味しい。王宮料理人なんだから腕は確かだけれど、味覚がここまで再現されるとは驚きだ。本当に仮想世界なのかしら……ここ。


「で、どの候補者がよいのだ?本当のところを聞かせてほしいな。」

 と王様が話題を振ってきた。


「そうですね、私も気になりますわ、お姉さま。」

 こちらはリースレット王女だ。


「それは私の口から申し上げるのはまずいかと思いますよ。課題を出したのは公平性を担保するためであって、誰か特定の人に有利にしたわけではないのですから。」


 内容を知っている三人は鷹揚に頷いた。


「それでも叶うのであれば、よりよい候補者に上がってきてほしいと思うのは自然だと思うのだけれど。どうなのかしら?」

 王妃様は気になるらしい。

 王様もそうはいってもやはり娘の幸せのことだから、気になるようだ。

「そうだな。わしはフェルナー卿がいいのではないかと思うぞ。」

 と、貴族の娘たちと同じ評価をされている。


「私は、ミドウ元帥は何だか、お姉さまに合うような気がするのです。」

 お、妹よ、よく姉のことを見ているな。


「しかしな、ミドウ元帥は今回の候補者の中で一番釣り合わないのではないか?庶民の出らしいではないか。元帥という地位は輝かしいが、元が庶民ではミドリが不満に思うのではないかね?」

 と王様は異議を唱えた。


「そうですよ。こちらは王族。身分が離れていてはお互いに気まずくなります。」

 王妃様も隼の見解としては同意見のようだ。

「私としてはマグダエル卿がいいのではないかと、思いますよ。」

 お、マグダエル派なのか、この人は。


「まぁまぁ、お父様もお母様も、リースレットも落ち着いてください。私の相手なのですから、私が決めたらいいと思うのです。それとも今のは私への命令なのでしょうか。」


「いや、そ、そこまでは言ってない。ただ、お前の幸せを考えるとだな……。」

 まぁ、王位継承は基本的に第一王女にあるし、現在のところ継承自体に問題はない。万が一何かあっても、帝国第二皇子と婚約している第三王女もいる。王位継承には支障がないのが、今の私の立場である。(と、先ほどヘルプで参照した。)


「そうですよ、お父様。私はお姉さまを応援いたします。どなたにお決めになられてもよいかと思いますわ。」


 既に嫁ぎ先の決まったリースレットは、余裕なのだね。


 まぁ、結局誰がいいという話は折り合いがつかなかった。もしかすると王様と王妃様の後ろで、糸を引いている人もいるのかもしれないね。政治と王位は一緒だから、欲が出る人もいるよね。


 どっちにしてもそんなことは私には関係ない。隼を信じて待つだけだ。

 出来レースと言われようが、私の選択は隼しかない。7年半も待ったんだよ(いや、待ってなかったけれど)。


次回、第三話完結です。明日更新予定です。


最後までお付き合いよろしくお願いいたします。

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