#016
後半開始です。
お姫様とか書くの難しですよね……。だってなったことないし(笑)
漸く辿り着いた謁見の間。扉がでかい。
最早門と言っても差し支えない。近衛兵が門、もとい、扉の前にいて、王女様であるか確認をする。形式ではあるけれど、大事だよね、発声確認は。
「ミドリ王女様の御入室でございます。」
大きいくせにあまり音が聞こえない扉だ。重そうではあるのだけれど。
赤毛氈を挟んで、両側には騎士っぽい人、貴族っぽい人が並び、胸の前の手をやり、頭を下げている。
中央の奥には王様と思しき人が座っている。
右側に王妃様だろう女性がいた。
左の椅子が空席なので、私がそこに座るのであろう。
セバスチャン(仮)に先導されて、王様の横の椅子まで来た。もちろん王様と王妃様への礼はしたよ。
私が着席したのを確認して、王様が口を開いた。
「皆の者、面を上げぃ。」
ざっ、と整列していた人達が顔を上げた。
「本日集まっていただいたのは他でもない。我が第二王女ミドリの婿選定を行うからだ。」
こんな大仰に行われるとは……。
集まった人も大変だ。
「現在、4名の者が名乗りを上げている。どの候補者も王女の婿足るに相応しい者だと、余は考えておる。」
ほう。そうなのか。甲乙つけがたいとはこのこと?どのあたりで迷っているのかわからないけれど、どうせ王様が最後はお決めになられるのでしょう?
すっかり忘れていたけれど、例の招待者はもしかして、候補者に混じっているのかしら。
「そこで、アマダスカル王家の習わしに従い、王女の望む選抜方法にて、決定をしたいと思う。異議のある者は、今この場で申し立てよ。」
と、王様はいうのだけれど……。え?私が決めるの?
自分で婿を選べるってことなのかしら。意外に自由なのね。
そして、そんな王様の言に、普通異議を申し立てることはしないわよね。と思っていたら、
「ほぉ、マグダエル卿、何かあるのか?」
何と異議を申し立てる人がいたよ。びっくりだわ。
マグダエル卿とやらが、前に出て、跪きながら話し始めた。
「大枠の方法については、異議はございません。王女殿下が方法を決められます前に、私どもに、自らをアピールする場を設けていただけませぬでしょうか。」
要は、王がどう思っていても決めるのが王女の考える方法である以上、確実性はない。だから、先にアピールタイムを設けて、自分の得意なことや、魅力を直に訴えたいとのことだ。
うん。これは使えるかも。招待者なら、炙り出せるかも知れないしね。
「どうじゃ、王女よ。」
王様がこちらに尋ねてくる。
「私は構いませんわ。但し、この場では公平さが損なわれる可能性があります。別室での個別アピールにしていただければ、と存じます。よろしゅうございますか?」
公衆の面前は公平さが担保されると思われるが、実はそうでもない。
順番ができる以上、前の候補者のやる事や言う事、それらに対する王女の反応を確認できるのだ。
普通に考えたら、後の方が、情報が多い分有利になるとも言えるし、ハードルが上がるとも言える。。
なので、別室での実施を提案してみたのだ。
純粋に本音を見たい場合はこの方法が手っ取り早いし、何より個別に聞かないと少し変な質問が混じることになるから、それを聞き咎められたくない。
招待者を見つけるのが目的なのだからね。
候補者にいればだけれど。
「よかろう。別室にて姫との対面。その後、選抜と致す。」
今から4名の候補者と順次対面だ。
最初はマグダエル卿に決まった。
マグダエル卿は20代後半の偉丈夫で、武人って感じの貴族様である。
王国の中でも上位の存在であったが、先の戦争でその上の位置にいた貴族当主が戦死したため、現在は筆頭である。
彼の話を一通り聞いた。なかなか情熱的ではある。ぐらっとも来ないけれどね。
彼の話が終わったので、私は質問をする。
「今度の週末は、何かご予定はありますか?」
マグダエル卿は一瞬何を聞かれているのか、わからない様子だったが、すぐに満面の笑みを浮かべて、
「当家主催のパーティを予定しております。王女殿下におかれましては、私どものパーティにお越しいただけるのですかな?」
と言った。もちろん行かないわよ。
「いいえ、残念ですが私も予定がございますので。」
しまった!という顔をしたマグダエル卿だが、どうでも良いので放置しておく。
まさか自分の予定がなかったら、こっちの予定に乗っかるつもりなのかしら。
まぁ、元の世界での合コンだから無理だけどね。
そう、週末に合コンをするという予定が言えれば、たぶんそいつが招待者だ。
だって、この世界に合コンとかないでしょうしね。
次は王国の筆頭書記官フェルナー卿。
先ほどの、マグダエル卿とは正反対の文人である。
少し日光浴をした方が良いのではないだろうか。
顔色が悪い気がする。
それでも彼は頭脳明晰で、国一番の博識家であり、王の懐刀なのだそうだ。
同じくフェルナー卿の話を聞いた後、マグダエル卿にしたのと同じ質問をする。
同じようにどうでも良い答えが返ってくる。
もちろん放置確定だ。
三番目は、隣国ロンバルディア帝国の第三皇子。
ガストール殿下である。
皇族なのに、私に惚れてるとか大丈夫なのかね。碌にあった事もないはずなんだけどね。
見た目はマグダエル卿に近い。が、圧倒的に若い。
その分野獣っぽく見えるし、皇族の割に粗野な感じも否めない。
彼の話は見かけどおり、若いというか幼いというか、単に自分の嫁になるのが一番だということを繰り返しただけで中身がなかった。
こんなどうでもよさそうな人が招待者だとは思えないが、他の二人と同じ質問をする。
週末はロンバルディア帝国の戦勝記念日に当たり、祭が開催されるとの事。
それに参加予定なのだそうだ。もしかすると戦勝記念日の手土産的に、王女を貰ってきたと報告したいのだろうかね。
それにしてもこんなところにいて間に合うのだろうか。いくらなんでもこちらの交通事情は現代日本とは違うでしょうに。と純粋に聞きたくて質問をしたら、飛竜で帰るので、大丈夫だとのこと。
ついでに飛竜での空中デートも誘われた。もちろんお誘いは丁重にお断りした。
さて、最後の一人だ。これでハズレなら、一体招待者は誰になるのか、という大事なところである。
4人目は、これまた隣国とは言っても、ロンバルディアとは逆にある国だが、スメラギ共和国の国軍指揮官、ミドウ元帥である。
帝国に惨敗した王国としては帝国の庇護下にあり、スメラギ共和国と事を構える余裕はない。少しでも仲良くしておきたいところなので、この話に乗っておこうという事らしい。
ミドウ……。名前に違和感がある。これはヒットか?
入ってきた軍人は、格好こそ軍人のそれであるが、顔立ちは日本人っぽい。
私と同じで、目の色、髪の色はこちら風だ。でも何処かで見たような顔だ。
「久しぶりだね、翠。」
いきなり名前を呼ばれた私は、つかの間フリーズする。
見たことがあるはずだ、この顔。大学に入るまでずっと一緒にいた幼馴染の御堂隼だ。確か地方の医科大学に進学したはずで、今は……。
「は、隼なの?ホントなの?う、嘘。」
「信じられないのはしょうがない。今回の趣向は楽しんで貰っているだろうか。」
その言葉に再度フリーズ。
今、なんとおっしゃいましたかね?隼は。
「午後7時にこの駅の改札を指定したのは僕だよ。」
「な、何ですって?」
どうやら、件の医師というのは、隼のことだったようだ。
「隼ってお医者さんになったんだ。医大だから当たり前か。」
ちょっと混乱している。
というのも、隼が大学に進学するまで、私たちはほとんどの時間を一緒に過ごしたのだ。学校も同じだったし、塾も同じだった。もちろん出来は隼の方が断然上だったわけだが。
家族同士も付き合いがある。母親同士が旧友なのだそうだ。
物心ついた時から一緒にいたので、ほとんど家族のような感じだった。
隼が私のことを異性として見始めた時期は、ちょうど高校に入ったころからだ。
私も満更ではなかった。というよりも、もう心に決めていた。
隼はとにかく「合う」のだ。自然というか、繰り返しになるが、本当に家族のようなものだったのだ。
私たちは、お互いに告白をすることはなかった。そんなことしなくても一緒にいられるのだ。
今更何を?という感じ。
そのうち時が来たら、二人で家庭を築くことになるのだろうとすら考えていた。それくらい違和感のない他人であり、家族だったのだ。確認していないのは身体の相性位だ。
しかし、その関係はあっけなく崩れた。と私は思っていた。そう、医大に進んだ隼は、入学から今まで一度のメールすらしてこなかったのだ。流石に私もこれには頭に来ていた。
なんだ。家族みたいな感じだったくせに、元気ですメールもないのか、コイツは。
と思っていたわけだ。
なのに、今回合コンに私が来ることを知った隼は、むしろ当日びっくりして場を白けさせるくらいなら、先に会って色々と話をしておこうと思ったらしい。手は込んでいるけど、まぁとりあえず会えたのは確かだ。
次回は明日更新です。
ご感想等よろしくお願いいたします。