#015
「状況説明を続けます。
今、王女様は多数の方から求婚されておられます。しかし、王女様には心にお決めになった方がおられて、そのすべての求婚をお断りしたいと考えておられます。」
ほうほう、モテるのだね、私。心に決めた人ね…確かにいましたよ。昔だけれど。
王女が何歳かはわからないけれど、20を超えて王女とかあり得ないから、ちょうど心に決めた人がいたころの自分かもしれないね。
「ところが、お国の色々な事情のために簡単に断れないので、お悩みになっておられます。」
悩める少女か……。私も罪な女なのね。
「隣国であるロンバルディア帝国は、先の戦争でこの国に打ち勝ち、不可侵条約と友好通商条約を結びました。条約の中に、帝国帝族と王国王族との結婚が含まれており、すでに第三王女はそれに従って婚約をお決めになられました。」
なるほど。政治の道具になるのか。仮想世界とはいえ、微妙な体験だね。
「帝国は第三皇子にあなた様を嫁がせるよう、王国に申し出ていますが、先ほども申し上げました通り、多くの方が求婚されておられますので、王様も首を縦に振りません。条約上は帝国皇子が優先ではありますが、すでに第三王女がお決めになられたので、そこまで強く言われているわけではないようです。」
つまり、第三皇子とやらも私に惚れたということかな。
「はい。そういうことになります。」
今日はこれから、その婚約者決めに関する話し合いが持たれるので、そろそろ準備をしなければいけないのだそうだ。
「長くなりましたが、以上で、状況説明を終わりにします。以後は、ログアウトするまで音声案内はありません。お時間になりましたら、自動でログアウトしますので、存分にお楽しみください。また、あなた様の選択・行動により付与される内部ポイントがあります。高ポイントをお取りになられますと、記念品他が贈呈されますので、ぜひチャレンジしてみてください。では、案内を終了します。」
あ、あれれ?最後にものすごい説明が入ったけれど、それはもうフォローしてくれないんだ。
選択・行動によるポイントって何だ……。チャレンジしようがないじゃないの。
何をしたらいいのか、わからないけれど、どうしようか。
と思っていたら、部屋をノックする音が聞こえた。
「王女様、お目覚めでしょうか。」
誰か来たようだ。比較的若そうな声だね。
「えぇ、起きていますわ。どうぞお入りなさい。」
とりあえず、王女っぽい言葉遣いにしてみたけど、変じゃないかな。
それよりも驚いたよ。私の声も若いそうに聞こえるよ。
「おはようございます。ミドリ王女様。お召し替えを致します。」
メイドだ。私はヲタクではないので、萌えないけれど、リアルメイドだ。
これはAIなのかな。
凄く自然で驚くばかりだよ。
メイドに案内されて、隣室に移動する。
寝室から直接行けるので、便利だ。こんな間取りの家に住みたいなぁ。維持が大変そうではあるけれど。
隣室はどうやら衣装室らしき、大きな姿見がある。
これは自分の容姿を確認するチャンスだね。手足の長さや身体の肉つき具合などはわかる。
イメージとしては、元の姿より少し痩せている。
だいたい高校生くらいの時の感じに似てるかな?
胸もそんな感じ。
鏡の前に立ち、全身を映すその鏡面に釘付けになる私。
「え?こ、これ、私だ……。」
錯乱しているわけではない。髪の毛の色や長さ、瞳の色、肌の色が違うが、顔の造りは自分そのものだ。
但し、高校生くらいの自分だ。若返ってる。
いや、仮想世界なのだから、若返っているわけじゃないね。だいたい説明受けてたから、年齢は想像していたけれど、高校生くらいの自分ってこんなに差があるんだ、と25の私は思うわけですよ。
あー、ビックリしたぁ。
「いかがなされましたか?王女様。」
メイドが訝しんで聞いてくる。
「い、いいえ、大した事ではありません。昨晩寝付きが悪かったので、少し顔色が悪いかな、と思いまして。」
咄嗟に適当な事を言って誤魔化す。
「ご安心くださいませ。今日もお美しゅうございます。とてもおっしゃるような感じではございませんよ。」
まぁ思ってても王族の前では言えないよねー。って、美しいとか言われたらちょっと嬉しいじゃない。そこまで美人だとは思ってないけれどね。
寝間着をするする脱がされ、下着を装着されていく。寝ているときは下着をつけない主義なのかしら。この王女。
ちょっと恥ずかしいけれど、王女様なので、ガマンガマン。
「本日は、正装となります。特にご希望がなければ、私の方で見繕わせていただきますが。何かご指定のお召し物はございますか?」
何の衣装を持っているのかわからないので、お任せする。
選ばれた服は、緑を基調としたドレスだ。
ウエストから下が、傘のように広がっている。中はもちろんワイヤーが……と思ったけど、なかった。この辺りは作り物って事なのかな。
胸元は結構開いている。
首から半径7cmくらいの円を描いているように、レースが散りばめられた飾りが付いている。
肩は見えない程度に覆われているが、袖はない。
指先から肘までは、長い手袋をするようだ。こちらは白だ。
ドレスを着せられてからは、髪の毛のセットだ。
何だか良い匂いのする整髪料っぽいものを、ふんだんに塗り込められてから、後ろで三つ編みである。そう、かなりのロングヘアなんだよね、この子。
多少の化粧を施し、最後にティアラを乗せて出来上り。
これだけでたっぷり30分はかかってる。
そういえば、仮想世界体験って60分だったような。
寝てた時間はカットされたとしても、いい時間だと思うのよね。
これで終わりかしら。
まだ、招待者にも会ってない。
まぁ、時間になったら自動でログアウトするらしいので、それまで付き合いますか。
支度が整った頃、また部屋をノックする音がする。
「どうぞ、お入りください。」
と言ってから、誰何するのを忘れたのに気がつく。
ちゃんと聞いた方がいいんだろうな。
失礼します、と入って来たのは正にザ・執事って感じの初老の男性だった。
多分セバスチャンとか言うに違いない(笑)
「王様がお呼びです。謁見の間までお越しください。」
この世界の人はせっかちなのかな。時間はかかったけれど、まだ午前も早いと思うのよね。
時間の流れ方が違うのかしら。
「かしこまりました。直ぐ参ります。そうお伝えください。」
さて、王様とのご対面だ。もしかすると、婿候補とやらもいるかもね。
メイドに付き添われて、城内をゆっくりと歩く。
広いから結構大変。移動だけでも時間かかるね。
何で早く呼びに来たのかわかったよ、セバスチャン(仮)。
次回明日更新です。
折り返し地点になりました。
明日もよろしくお願いいたします。