#011
王女様、登場の巻。
果たして、目覚めてみると、サラのベッドだった……。
いくらなんでも一晩は長いでしょう!
もしかしたら、眠ったと思っていただけで、RPGの宿屋のように、効果音と共に速攻で朝になったのかしら。それにしては目覚めがすっきり。
いつになったら、終わるのかしらこれ。
流石に30分以上は経過していると思うのですよね……。
大丈夫なのかな、『FANTASY OF OWN LIFE』……。
ロン皇子と約束したのは、午後。昼食会があるので、その後のお茶の時間に歌を披露してほしいとのことだった。先に準備もあるだろうから、昼前には来てほしいという要望だった。
どこに?もちろんお城だ。
このキャラは城の場所も知っているようで、自然と足がそこに向かう。
自転車とかないよね、ここ……。とか思いながら街中を見て歩く。
時々サラのことを知っている人から声をかけられた。もちろん私は知らない。適当にこんにちは、と声をかける。何だか昨日よりもサラの反応が悪いような気がする……。もちろん自動応答ってことだけれど。
楽器はメニューのストレージ内にあるので持っていない。
完全に手ぶらである。ゲームのキャラって、どこに行くでも武器以外はほとんど荷物ないよね。
暫く街を歩いて到着したのがお城……というか、お城の門。
遥か遠くに見えるのがお城の本体らしい。でかい。とにかくでかい。
荘厳すぎます。あっけにとられていると、門兵が声をかけてきた。近衛兵かな。
「吟遊詩人のサラ様ですね。いつもステージ拝見させていただいております。第二皇子よりお話は伺っておりましたが、本当にお越しになられるとは思えませんでした!光栄です!!」
あ、サラのファンらしい。
近衛兵でもあの酒場に行くんだ。結構場末感満載だったんだけどな……。意外な人たちがいるのかもね、あそこ。
その近衛兵に案内されて、私は控室に通される。
控室には大きな姿見があった。
お、これは自分の容姿を見るよい機会だ!サラの家には鏡がなかったんだよね……。
そこで、私は初めて自分の顔と対面した。
おぉっ!
自分視点のVRで、キャラの顔を見るのは難しいことだったが、自分の顔ってこんなのだったんだ。
長い髪で想像していたけれど、ものすごく美人だ。自分で言うのも何だが、自分の元の姿には全く似ていないので別に構わないだろう。
年齢が21ということだが、こういう世界のお約束は、15歳くらいで大人の範疇に入るということを考えれば、十分大人だ。大人の魅力だ、これ。うっすらだが化粧をしているようだね、うん。ナチュラルメイクが合っていると思う。
吟遊詩人だし、奇抜な化粧はする必要ないものね。
何かこれを見ているだけでも、自分は変われたんだ!って思えるから不思議。
ただのポリゴンのはずなんだけど。半日以上はこの世界にいるので、すでに感じていたけれど、この技術本当にすごい!
少し先生に似ているかな。髪の長さとか違うけれど。
先生みたいになりたかった私としては、かなりうれしい仕様だ。
ありがとう!『FANTASY OF OWN LIFE』!
なんてうっとり眺めていても仕方がない。
ナルシストになるつもりはない。
少し歌の練習でもしておこう、と思い、ストレージからギターを出す(もうギターでいいよね。なんかちゃんとした名前があるかもしれないけれど)。
軽い感じで、短めの曲をチョイスして、歌う。自動演奏の方は今日も順調だ。
あくまで練習なので、本番みたいに大きな声は出さない。確認だ。
ふと、部屋のドアが開いているのが見えた。締め忘れたのかしら。
いや、締めるのは近衛兵がしたので、確実だ。とすると、誰かが覗いているのかしら。
着替えているわけではないので、別に覗かれてもいいのだけれど、姿が見えないのは気になる。
「どちら様でしょうか。」
と思い切ってドアに声をかけた。
今の私はサラ。見た目も行動も十分な大人である。引きこもりの中学生とは違う。
「あ……。し、失礼しました。覗くようなことをしてしまい……。」
と扉から姿を現したのは、王女様風な美少女だった。年のころは16・17くらいかな。
豪奢な金髪が目に入るけれど、顔だちもそれに劣らずしっかりした感じ。まさに王女って……、
「もしかして、第三王女様ですか?」
皇族であることももちろん考えたが、ゲーム的にはあまり関係ない人物は登場させないだろうし、ここは思い切った選択をしてみた。
「は、はい。アマダスカル王国の第三王女、リースレットと申します。とんだご無礼をいたしました。お許しください。」
ロン皇子が一目ぼれするわけだ。これは上物ですよね、皇子。
「もしかして、吟遊詩人のサラ様ですか?」
「はい、おっしゃいますとおりでございます。」
私は一応王族の前なので、楽器を持ったまま跪き、礼をした。
「お顔を上げてくださいませ。サラ様。私の方がご無礼をしたのですから。」
おぉ、性格もよさそうだ。益々優良物件っぽいですね、皇子。
「サラ様のお噂はかねがね。王国でも評判なのですよ。」
「そうでございましたか。しかしながら私はただの吟遊詩人。恐れ多いことでございます。」
どこまで有名なんだ、サラ。そういう設定は書いてなかったからわかんないよ。
「ロンバート様が、本日サラ様のお歌をお聞かせいただけるとおっしゃっておられましたので、とても楽しみにしていたのですが、つい歌声が聞こえてしまったのもので、覗いてしまいました。申し訳ございません。」
丁重に謝るリース王女(また勝手に略した)。
「そういえば、このたびはロンバート皇子様とのご婚約が相成ったそうですね。謹んでお慶び申し上げます。」
「あら、ありがとうございます。まだ公表はしていないのですが、よくご存知でしたね。」
あら、しくじりましたわ、私……。周知の事実かと思っておりました。だって、ロイヤルウェディングですよ。ロイヤル。話題にならない方がおかしいかと思うのですが。
「いえ、先だって、本日のお茶会の依頼を皇子からお受けした時に事情を伺った次第です。」
「あ、なるほど……。それならわかります。」
ふぅ。危ない。酒場とか言わない方がいいんでしょうね……きっと。
「でも、この結婚はうまくいくのでしょうか。」
とリース王女は不安を口にする。やっぱりロン皇子はあまり好かれていないのでしょうか。
「いえ、ロンバート皇子様はとても素敵な方だと思います。しかし、私のことなど見てもくれていないのです。このお話が出たときから何回かお会いしたのですが、いつも斜め下を向いて、不機嫌そうなお顔をされているのです……。」
あ、なんとなく想像できます。それ。
きっと直視したら見とれてしまって何もできないから、必死に笑みを殺して下を向いているのですよ。思った以上に純だった、ロン皇子。
なんだ、二人にその気があるなら、問題ないじゃない。私がここに来た意味があるのかしら。
「あと、私の臣下たちも、ロンバート皇子の臣下たちも嫌々やっているような感じがして、お互いに気持ちが合わない人との結婚というは、正直気が滅入ります。私も王族ですからこれくらいのことは理解はしているのですが、それでも結婚ですから、女の子にとってはとても大切なことだと思うのです。」
うん。わかるわかる。私も今すぐ結婚とか(できないけれど)言われたら辛い。どうせなら好きな相手と大恋愛して結婚したい!憧れます!
って、ん、そこのような気がする。歌で何とかするのは当人同士ではなく、周囲だね。
きっとそういう感じの曲もあるだろう。吟遊詩人のスキルはそこだよ、そこ。
戦わなくても役に立つときが来たかもしれない。もしかしてこれをクリアしないとログアウトされないのかしら。まぁ、見てなさい。お茶会ではばっちりやっちゃいますよ!
「王女様、お茶会で、私が皆さんを何とかなるよう、微力ではございますが、お力添えいたします。」
私もこの王女様気に入ったし、ここはロン皇子と一緒になってもらいましょう。
長居してもアレなので、王女は少し話をして部屋から出て行った。
私は選曲をし直すためにメニューを再度めくる。
周囲の人間を祝福モードにする曲……。結構探すのに時間がかかるな。即興じゃなくてよかった。
これならいけそうな気がする、と思った曲を今回のお茶会演奏リストに入れておいた。今回も全3曲である。内容としては、男の人が女の人に惚れている歌、女の人が男の人に惚れている歌、周囲のみんなが二人を祝福したくなる歌。これでばっちりでしょう!
とりあえず昼食会が終わるまで待つ。皇族の昼食は長いっ。中学生の給食なんて30分もないよー。長いよー。
と待つことしばらく。ようやくお茶会の準備が始まった。
もちろんサラの出番は後半だ。隣室でさらに待つ。
何時間待っただろうか。途中でログアウトされなかっただけよかったのだろう。
隣室なので、話は全く聞こえない。しかし、盛り上がっている雰囲気ではない。
ロン皇子もきっと目が合わせられないくらい赤くなっているだろうし、リース王女も似たようなものだろう。だいたいが言葉少なすぎるよね、お互い。
でもって、周りは微妙に賛成していないとか、なんかもどかしい。
私はまだ人並みに恋愛経験が豊富という訳ではないから、よくはわからないのだけれど、好きな恋愛小説や漫画、映画などはよく見る。実際にあったら、本当にいらいらしそうな展開が多いけれど、あくまでフィクションだからのんびり見ていられる。だって、基本的にはハッピーエンドじゃない?アレ。それこそたまにはナニな展開もあるけれど、安心させてもらえる安心感があるから、見てしまうし、読んでしまう。
だからじゃないけれど、このイベントもきっちり成功させないと、二人のハッピーエンドはなくなってしまうかもしれない。そう考えたら結構責任重大だよね……。
次回第二話最終話、7/23投稿予定です。
よろしくお願いいたします。