Introduction ~ #001 【第一話 開始】
初投稿です。
思いついてすぐに書いてしまったので、いろいろ突っ込みどころはあると思いますが、生暖かく見守ってください。
Introduction
新世代実体感空間アフロポリスへ、ようこそ。
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#001
「なぁなぁ、FOOLって知ってっか?」
「あぁ、愚か者のことだろ?ん?むしろお前のことか?」
「愚か者はおめーだ、巧。『FANTASY OF OWN LIFE』、最新の体感VRアトラクションのことだ!」
俺の名は巧。南郷巧。高校3年生だ。
もちろん、受験生であり、目下志望大学目指して勉強に勤しんでいる健全な高校生だ。
話しかけてきた愚か者……、いや、友人は中川聡。この春から同じクラスになったヤツだが、出席番号も近いことや、趣味などが合うことから、いつの間にか連むようになった。
とは言え、前述の通りの受験生で、今は夏休み目前。『夏は受験の天王山である』ってなわけで、のんびり遊んでいる訳にはいかないので、こうして学校の休み時間にバカ話をするのが、専ら最近の交流である。
そんな聡が、登校早々物凄い勢いで、俺に話しかけてきたのが、冒頭の会話の内容だった。
FOOL。とあるアメリカの企業が、20年という歳月をかけて開発、リリースしたという最新型のVRアトラクションである。それ自体は大々的に報道でも取り上げられたし、テレビをつけてもネットを見ても耳にしない日はない位のフィーバー振りだ。開発には、NASAが関与したとか、マサチューセッツ工科大学の全面協力があったとか、盛り上げ要素は満載だ。
開発コストは国連全加盟国の国家予算平均を上回るとされ、そのコスト回収のためには、全世界の人々が一度は最高値コースを、正規料金を支払ってプレイしないといけない位らしい。
そのため、早晩運用が立ち行かなくなり、潰れるのではないか、と噂されている。しかし日本にオープンした一号店は、そんな噂を根底から覆すように、連日連夜盛況なのだという。リピーターも後を絶たないとか。
予約なしでも行けるらしいが、その場合は4時間待ちとか、ザラらしい。
ま、受験生には関係ない話だ。今の俺たちの身分でそんな話題を持ち出すことが、既にFOOLだとしか言いようがない。
「と、いう訳で、全くお呼びでない話題なんだが?聡。」
「何、メタ的な話の繋ぎ方してんだよ。あれな、スゲーらしいぜ!」
「あんなに大騒ぎしてんだ、凄くなければ大ブーイングだろうが。」
「知り合いで行ったヤツがいるんだが……。」
出た。必殺の知り合い話。こういう話題の振り方は、十中八九知り合いという名の本人であるのは周知の事実だ。コイツ、行って来やがったな。
こっちは脇目もふらずに勉強してんのに、呑気なヤツだな。優雅なこって。
「あのアトラクション経験するとな。凄くスッキリして集中力が上がったり、記憶力が良くなったりするらしいぜ!」
なんだ?その健康サプリや栄養ドリンクみたいな効能は。
「んな訳あるか。遊んでんだぞ。ストレス発散してそう思ってるだけだろうが。」
「ところがな、意外に真面目な話でな……。」
と、急に真剣な顔つきになり、話題を進める。
「その知り合いが言うには、行った翌日にあった模試でな……。」
進路を占う大事な模試の前日に行ったのか、お前!緊張感なさすぎんだろ!
「自己採点だがな、これまでにない高得点を叩き出したそうだ。試験中にな、これまで聞いた先生の話とか、参考書の注意書きとか鮮明に思い出して、どの問題もスラスラ答えられるようになったんだそうだ。」
そう言えばコイツ、この前の試験でアホみたいに早く答案を出してたな。難しすぎて早々に投げたのかと思っていたが。
「へー、そいつは凄いな。ゲームならまさにチート能力ってとこだな。」
「だろ?んでもって、その知り合いってのがな……。」
「お前だろ?愚か者。」
「何でわかったんだ!お前はエスパーかっ」
と、正解を言ったら、オーバーリアクションしやがった。よほど嬉しかったらしいが、なぜわからないと思ったんだ?
「で?俺にも一度行け、と。」
「あぁ、そうだ。騙されたと思って行ってみろよ。」
「でもよ、すんごい時間かかんだろ?並ぶだけで4時間とか、時間勿体なさ過ぎだろ。お前の話が本当だとしても、俺にまで当てはまるとも思えんしな。」
「そんなお前にな、……じゃじゃ~ん!」
と勿体ぶって一枚のカードを渡してきた。今時、じゃじゃ~ん、なんていうヤツいねーよ、聡。ある意味恥ずかしいだろ。
カードを見ると、『FANTASY OF OWN LIFE 会員専用ゴールドカード』と書いてある。下地もご丁寧にゴールドだ。多分この上に、プラチナ、ブラック、レインボー、ミスリル、ヒヒイロカネ、アダマンタイト、オリハルコンとかあるんじゃないかな。カードの仕様というのはインフレしていくのだよ、聡くん。
裏面を見ると、有効期限や注意書きが書いてある。
○本券の有効期限は、20XX年12月31日までです。
○本券は、表面記載の氏名の方ご本人、及びご本人のご紹介者一名がご利用いただけます。
○本券を受付にて御呈示いただきましたら、最優先でご案内させていただきます。万が一5分以上お待たせした場合は、当日の利用料を全額お返しします。
○本券はご本人が紛失された段階で失効します。その際の再発行はいたしません。
○ご本人様及びそのご紹介者以外の方がご利用になることはできません。万が一ご利用になられた場合は、当社規程に従い使用者の処分を行います。
○本券は第三者への譲渡はできません。第三者への譲渡が確認できた場合は、ご本人様及び譲渡された方を、当社規程に従い処分いたします。
と、書いてあった。何か物騒過ぎないか?後半二つが……。
メリットも大きいようだけど、デメリットの大きさが恐ろしい。
「どうやって手に入れたんだ?これ。」
「優待券を親父が会社で手に入れてな、行って来たんだ。アトラクションのスコアでな、物凄い記録を、出したらしいんだ、俺。それで、記念品と、このカードが貰えたんだ。」
ん?今、何かコイツ変なこと言ったぞ。
「出した……らしい?らしいって、自分じゃわかんないのか?」
「あぁ、アトラクション中はスコアとか出ないんだ。だから点数はさっぱりわからん。でも係の人がわざわざ出てきてクラッカー鳴らしていったんだぜ?ログアウトしてすぐだったからびびったぜ!」
がはがは、と思い出して大笑いする聡。
それは良かったな、と言いながら、テストのことと何か関係あるのか?それ。
「でな、スコアのこともそうなんだが、終わった時にさ、何か上手く言えないけど、自分の不思議
な能力が目覚めたっていうか、力が湧いてきたっていうか、そんな感じがしてな。」
それで、日曜日のテストも自信満々で受けた、ということだった。
聞けば聞くほどマユツバものだが、話題のアトラクションに興味がないわけじゃない。特に縁もないのに、並んでまで行くのは、受験生の身たる我が状況には相応しくないと思っていただけだ。
いや、楽しそうに皆んなが楽しんでいるのを、う、羨ましく思っていた訳じゃないんだからね!
にしても、能力に目覚めたとか、厨二か?高校3年生だぞ、俺たち。選挙の投票も行ける立派な大人だぞ。いつまでマンガやアニメみたいなことを言ってるんだコイツ。大丈夫か?
それはともかく、早速放課後に行ってみることにした。元々興味はあった訳で、いそいそと誘いに乗った訳だ。テヘペロ。
次回7/9公開予定です。
全6部でこの話は完結します。
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