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第八話

朝起きてから俺は街をぶらぶらしていた。

宿屋の主人に聞いたところによると、ここの街は「エイム」といって昔から魔法使いが魔術を学ぶために様々な地域からやってくることで有名な都市らしい。高名な魔法使いを自負するものなら一度はここに来たことがある、というから驚きだ。

因みに五つの王国でそれぞれ主要な職業が決まっていて、アンドラスは戦士、セラティエルは魔導師(エイムもこの大陸にあるらしい)ニスロクは冒険者、マシュイトは狩人、タグリヌスは盗賊ということだそうだ。

盗賊が人気な職業というのも変な話だが、宿の親父はこの国だけは王家の力が弱く、「ブルー・ワイルドエンジェル」という盗賊団が事実上国を支配しているため、と言っていた。


これからどうしよう。


朝起きたばかりだからか、あまり働かない頭を回転させる。


・・・そうだ、まず金を手にいれて宿代払わなけりゃならんな。

方法はもう考えていた。五つの国は全て魔物に頭を悩ませている、という話だから「魔物退治」の名目で王家にスポンサーになってもらえばいい。そうすれば魔物殺しもスムーズにいって一石二鳥だ。

俺は王城(幸いなことにエイムのすぐ近くにある)への道を急いだ。




定期的に体に伝わる振動。

私は目を覚ました。

一瞬、宿の部屋かと思ったが、違った。大きさは同じぐらいだが、バラが活けてある高そうな花瓶、見るからにふかふかなソファ、大理石のテーブルとまるで貴族の寝室と言った感じだ。

私はどうしてこんなところにいるんだっけ・・・?

そこまで考えが至った私ははっとしてドアへと飛びつく。

ドアには鍵が掛かっていた。

・・・私をどうするつもりなのかしら。

衣服に乱れは無い、ということは身代金目的の誘拐?見るからに旅人の私を誘拐するわけもない。

私は少しでも手がかりを見つけようと感覚を研ぎ澄ませた。

そして・・・微かな揺れを感じ取った。

船の上・・・ということ・・・?

少ない情報で考え続ける私の思考を、ノックの音が中断させた。




「陛下、麗しきご尊顔を拝し光栄です。」

「そなたが魔物退治を生業としておるものか。それにしては随分と若く見えるが・・・?」

「14です。確かに陛下、魔物退治は多くの経験を積んでこその職業ですが、私にはそれを補ってなお余りある才能がございます。」

「はっはっは、そこまで自信があるのかそなたは。」

王の間。両側には兵士(黒いローブを着ている魔導師が多い)がずらっと並び、すごい大風呂敷を広げる俺を呆れたような目で見ていた。ベルフェを襲った兵士とは服装がかなり違っていたので、あいつらはゴロツキか他国の兵士だったのだろう。

そして肝心のセラティエル王は緑のローブだけで特に装飾品の類はつけていない、初老の男だった。王冠がなくて玉座に座っていなければ王と気づかないかもしれないぐらい、その格好は質素だ。

「最近は新たな魔物が増えてきておる。その魔物を退治するには力だけでなく臨機応変に対応しうる発想が必要であろうが、それがそなたにあるか?」

「無論です、陛下。」

「・・・1つ試験を課そう。これにクリアしたら資金を提供する。存分に魔物退治に専念してくれ。」

そこでセラティエル王は言葉を切り、2m程の杖で床をたたいた。

「我に忠実なる下僕よ、今己の力を示さんとする若者に試練を与えよ。」

その言葉が終わると、俺の両側の床から2体の人形が沸いて出てきた。透明だからおそらくガラスか氷で出来ているのだろう。

「その人形を倒せ。それが試験だ。」

こんなとこでやるんですか、と思ったがよくよく見回してみると兵士が後ろに下がったために十分な戦闘スペースが確保されていた。

「始めよ。」

その言葉と同時に、等身大の人形が殴りかかってきた。




「入っていいですかぁ〜?」

身構える私が思わずへたり込んでしまいそうになる気の抜けた声。

「いいも何もないでしょう」

ぶっきら棒に答える私だが、相手はどうやらそれを肯定の返事と受け取ったらしい。

ドアを開けた。

第1印象・・・黒い。

その人物は私やイワキリさんと同年代ぐらいだろう、黒いドレスを着て緑の髪をツインテールにした、女の子だった。

端正に整った顔立ちだったが、何か不吉なものを感じさせる違和感があった。

一瞬後にそれが言葉になる。この少女は瞳が赤かった。

魔物・・・?

「私はベルフェゴール、あなたは?」

「ベラドンナ。あなたをここに連れてきた人達の首領、といったところかしら。」

ますます魔物臭い。

「なぜこんなことを?」

「フフフ、ちょっとイワキリ君とお話したいと思ってね〜、まずお友達のあなたから招待したわけよ。」

私をえさにおびき寄せようというのか。

私は舌を噛み切ろうとした。

「!!、ちょ、何やってるのよ!」

不吉な少女も私の自傷行為には驚いたらしく、私を突き飛ばした。

「イワキリさんに迷惑かけるわけにはいかないわ。」

知り合って1日そこらの人になぜそこまで出来るのか、私自身よく分からなかった。でも気づいたらそうしようとしていた。

「あらあら・・・・正直あなたにはあんまり興味無かったんだけど、あなたって結構面白いわね〜。でも・・・」ふと少女は真顔になって言った。

「あなたの命の価値はそんなもんじゃないでしょ?」

・・・・。

命の価値?

そんなこと、考えたことも無かった。

「今イワキリ君を呼んでるから、ゆっくりしてってね〜。何か必要なものがあったらドアの近くで大声出してもらえれば部下が持ってくるから。じゃあね〜。」

言いたいだけ言うと、少女はさっさとドアから出て行ってしまった。

私はソファに座った。

ふと、取りとめもないことを考える。

私が死んだら、イワキリさんは悲しんでくれるかしら?




人形は強かった。しかし俺はもっと強かった。

格闘技のお手本のような突き、蹴りを繰り返す2体、互いに間違ってぶつかるなんてことは無い見事な連係プレー。

普通の人間なら避けられないような攻撃を、俺は刀を出さず体裁きだけでかわしている。

剣道部のエースだとしても不自然なくらい完璧に対応しきる俺。


レリウーリアの言っていた俺の「才能」。

おそらく「視力」のことだろう。

俺の優れた静止視力と動体視力は、1km先の看板の文字を読んだり銃弾を見切ったりすることを可能にしていた。

無論、見切れるから体が反応できるというわけではない。しかし俺はこの異常な視力に対応できるように凄まじい筋力トレーニングを重ねた。

俺は才能を「生かす」ことも知っていた。ということだ。

今ではどんなスポーツでも花形。

(そして今も役に立っている、と・・・)

俺は避け続けながらこの2体をどう倒すか思案した。

そして考えがまとまると、俺は2体から大きく間合いを取った。

正直あんまりやりたくないのだが、背に腹は代えられない。

俺は刀を「背中から抜いた」

そう、王城に入ってから今まで、俺は刀を出したまま背中に紐で縛り付けておいたのだ。

出したり消したりできることを知られないようにするための小細工。

しかし時に、小細工が大仕掛けよりも有効に働くことがある。

俺は2体に刀を投げつける。

ブーメランのように回転しながら飛んでいく刀、人形は簡単にかわす。

そしてチャンスとばかりに近づくと「同時に」殴りかかろうとした。

機会は一度きり、2体同時に倒さなければもうこの小細工は通用しなくなる。

今まで交互に連係プレーを行ってきた人形。そのままでは2体同時に倒すことが出来ない、故につくり出した見せかけの隙。

人形はそれに乗った。

射程に入った瞬間に、俺の手に戻った刀は2体の頭を粉々にした。

さらに念を入れて胴もたたっ切る。

「そこまで」

王の言葉にそれまで騒然としていた兵士が静かになった。

「人形を同時に葬るその知略、まさかこれほどとはな・・・・そなた、魔物退治もよいが我が軍の教練係にはなってもらえぬか?あまりに、惜しい人材だ。」

あれ、刀が一瞬にして手に戻ったことにはツッコミ無しですか。

まあ魔法使いの国ではありますが・・・

教練係っていったって俺読み書きできないしね〜。

「身に余る光栄です、が、私は一介のハンターに過ぎません。私の能は魔物を狩ることだけですから。」

俺はやんわりと辞退した。

「そうか、それなら仕方ない。」

王は手を差し伸べると、空中から一枚の紙を取り出した。

「これがハンターの証明書だ。国内であればこれでどこへでも行けるぞ。」

「ありがたき幸せ。」

「・・・そういえばそなた、1人で狩りをしておるのか?もしそうなら優秀な魔導師を1人つけてもよいが・・・」

これは破格の待遇だな。

俺は考えた。

国の人間がついているのは、正直あまり嬉しくない。国外に行くとき何かと邪魔になるからだ。しかしエウリノームのこともある。もしかするとその優秀な魔導師っていうのが新しい仲間なのかも知れない。どちらにせよベルフェゴールの欠けた今、戦力はなるべく欲しい。

俺は肯定の返事を返した。

「ローグはおるか?」

「は、ただいま。」

よく響くバリトン。

ベージュ色のローブをまとった男が前に出た。

顔は・・・フードを被っているためよく見えない。

「そなたにハンター、『イワキリ』の補助を命ずる。」

「御意。」

男はフードを取った。

・・・・・。

この世界には色々と驚かされてきた。

しかしどれもこの比ではない。

知的な風貌。常に周りの状況を正確に把握する冷徹な眼差し。

補助の魔導師は文芸愛好会会長、鬼怒川 龍一だった。








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