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第六話

ベルフェゴールの案内で3時間程歩きようやく森をぬける事が出来た。

森をぬけたところは大草原といった感じの平地で、そよ風に草がなびいていた。

地平線付近に街の門らしきものが見える。

俺は森の中で隣の相棒に教えてもらったことを思い返す。

まずこの世界には五つの大陸があり、それぞれアンドラス、セラティエル、ニスロク、

マシュイト、タグリヌスという王家が納めているらしい。一応国交があり大陸間の移動は

そう難しくなく、この五つの大陸全体をまとめて「レバーレンス」と呼んでるということだ。

そう聞くと捻くれてる俺は「じゃあ海を越えた向こう側には何があるのかな〜」とか思ったり

するが、彼女の話によるとこの世界ではあまり航海技術が発達しておらず、せいぜい近い大陸

間の移動ぐらいしかできないそうだ。まあ俺をこの世界に放り込んだ女の言葉を信用すれば、

(信用したく無いのだが)この五つの大陸を巡ればいいわけだから、あんまり関係ないだろう。

ずーっと海を渡ってけば日本についたりして、なんてくだらないことを考えてると、

「イワキリさん。」と緊張した声が聞こえた。なんじゃ?と思うまもなく俺の視界には現実と

認識したくないような映像が映った。

なんと形容したら良いか、牛の頭に腕が四本ある人間の胴体がくっついていて、背中に

たてがみがある生き物と言えばよいのだろうか。そんなのがいた。しかも二匹ほど。

これは・・・ファンタジーでお約束の魔物ってやつかね。

「どうします?イワキリさん」

「俺は良く知らないんだけど・・・こいつらって強いのかな。」

と思わずいつもの口調で返してしまう。しまった、と思ったがベルフェゴールは特に気にして

ないようだ。

「私は魔物を狩ったことは無いので分かりませんが・・・」

ってベルフェゴールが言うってことは魔物なんだな。

普通出くわしたら、俺なら逃げる、が・・・

あの女は「魔物を倒せ」と言った。と言うことはこいつがその中の2匹かもしれない。

「俺が倒すから、ベルフェは・・・」

「もちろん戦いますよ。」

有無を言わさず、と言った感じだ。

やるか。

やりましょう。

そう言った俺達は横に跳び、魔物の頭上からの一撃を避けた。

さて、殺し合いを始めますか。

不思議と恐怖は無い、緊張はしているがそれが良い方向に働いているのを全身で感じる。

俺は刀を出すと、正眼に構えた。




やっと名前を呼んでもらえた。

彼が「やるか」と言ってくれたとき、私は嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。

信頼されている。

それは両親が死んでから1人で過ごしてきた私にとって、砂に水が染み込むように心が潤う

出来事だった。

高揚感に身を任せつつ私は一気に化け物と距離を取り、クロスボウを出し矢をつがえる。

距離は大体10m。

どうやらこの生き物、見た目ほど頭が悪くないようで、私のクロスボウに警戒してか距離を

つめてこない。

一発外した隙を突くつもりかしら。

迷わず私は胴体に撃つ。

予想通り魔物は矢をかわすと、私に襲い掛かってきた。

残り7m。

私はクロスボウを捨てると、腰に差していた狩猟用ナイフを投げつける。

「私の武器はクロスボウだけじゃないわ」

魔物は距離が近かったためか、今度は腕で払い落とした。

残り4m。

魔物の勝ち誇った顔が視界に入る。

私は思わず笑ってしまう。

ああこの魔物、頭はまあまあみたいだけど完全に経験不足ね。

残り1m

魔物は振り上げた腕を私の頭上に・・・・振り下ろさなかった。

「グ・・オオオオオオオオ?!!」

雄たけびを上げつつ胸をかきむしり、地面をのた打ち回る。がそれも程なくして止まる。

僅かな切り傷で死に至らしめる激毒。

それが私の真の武器。

結局見かけ倒しだったわね、この生き物。

私は矢とナイフを取りに行った。




「オラァッ!」

「フゴォォ!」

ぶつかり合う刀と拳。

やはり化け物は一味違う。いつもあくび交じりに剣道部の奴らと相手している俺も今は久しぶりに本気を出している。

魔物の腕は後3本。1本は初太刀で切った、というか切れてしまった。

この刀、まるでバターを切るみたいに丸太みたいな腕を切っちゃうからね。

俺もこの化け物も一瞬呆気に取られちゃったよ。

腕は残り3本だが、相手も俺を強敵と認識したらしい。刀の刃の部分に触れないように内側から俺の斬撃を弾いている。

しばらくは一進一退だったが、徐々に体力の差によってか俺のスピードが鈍ってきている。

・・・そろそろ決めないとな。

俺は拳のラッシュを避けつつ、じりじりと距離を取る。

拳の射程から外れたため、魔物は拳を止めると一歩近寄った。

・・・それが死への一歩だぜ、化け物ちゃんよぉ。

俺は刀を地面に突き刺すと、そのまま跳ね上げるようにして土くれを相手の顔に浴びせる。

「ムゴォ!」

不意を突かれた魔物は顔に掛かった土のために目をつぶってしまう。

間髪入れず、俺は胴を深々と切り裂いた。

静寂。

魔物は断末魔の悲鳴すら上げずに倒れた。既に絶命している。

辺りを魔物の血が染める・・・かと思いきや、血は一切流れず、切り口から煙のようなものが

上がり、やがて全身が灰になって消滅してしまった。

魔物の最期を見届けると、俺は周囲を見回す。

どうやらベルフェゴールは既に敵を片付けて矢を取りに行っているようだ。もう1体の魔物の死骸も灰になっていた。

取り敢えず身の安全が確保されたことを知った俺は、その場にへたり込んだ。

あ〜疲れた〜。

ベルフェゴールの家を出たのが昼頃、今はもう夕方になってしまっている。

早いとこ街入って寝たいな〜。

と布団の寝心地について妄想していると、

「イワキリさん、やりましたね!」と嬉しそうな相棒の声が聞こえてくる。

「ああ・・・ベルフェ、お前ってやっぱり強いんだな。」

「フフ・・・イワキリさんだって。」

輝くような笑顔に、俺の疲れもちょっと癒える。

つかの間の休息。俺とベルフェはともに、程なくして街へと急ぐつもりであった。

しかしその甘い考えは、突然の闖入者によって打ち砕かれる。

「おーやっぱり強いねー二人ともー」

俺らは振り返った。

そこには夕日をバックに、赤と白の縞々のスーツというこれまたぶっ飛んだ服装の男がいた。

顔は美形だが、逆光のためなのだろうか、非人間的な妖気を漂わせているように見えた。

「今のは僕の部下だよ。力試しも兼ねてかなり強いの当てて適当にあしらわせるつもりだったんだけど、まさか倒しちゃうとはね〜。」

なんだと?

「君達はイワキリ君にベルフェゴールさんだね。初めまして、エウリノームといいます。以後

お見知りおきを。」

「誰・・・あなた?それに部下って・・・」

「まあ簡単に言ってしまえば、ここら辺一帯の魔物の親玉かな。」

その言葉に、俺は疲れた体に鞭打って切りかかる。

が、その刀は素手で受け止められてしまった。

「駄目駄目、今の力じゃ僕は倒せないよ。取り敢えず街でゆっくり休みな。これから君達は新しい仲間にも出会うだろうしさ。」

「な・・・なんでそんなこと・・・」

「ん?『何でそんなこと分かるのか』っていうのと『何でそんなことわざわざ言うのか』っていうののどっちを聞いたのかな?まあどっちも答えてあげるよ。最初の質問、それはそうなる運命だから。」

「なめやがって・・・」

「いや、真面目な話。僕に分かって君には分からない。それだけさ。あと2つ目、僕は自分と釣り合わない相手とは戦わないことにしてる。つまんないし、死に行く相手の『これじゃ死んでも仕方ない』っていう諦めの表情見るのがそれこそ死ぬほど嫌なのさ。最後の最後まであがくことを忘れて死に逃げる、そんな奴らの始末は手先にやらせりゃいい。僕が相手するのは君達みたいな精神的にも肉体的にも強い相手だけ。名誉なことだと思うよこれは。だから、君達には万全の体制で臨んでほしい。そしたら・・・・」

突然、その微笑がまるで口裂け女のそれのようにキューっとつり上がった。

楽しくて楽しくて仕方が無い、といった子供じみた、しかし人間らしくない笑顔。

隣のベルフェゴールを見ると、さっきまでの冷静な態度が嘘のように、震えていた。

おそらく俺と同じ・・・あの笑顔に恐怖しているのだろう。

「殺してあげるよ・・・・・・ウフフフフフフ。」

俺とベルフェゴールが我にかえったのは、男が消え、今にも沈もうとしている夕日が目を刺してからだった。

この物語始まって初の戦闘シーンでした。

今後も戦いの緊迫感等、うまく伝えられるよう精進していきます。

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