表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/29

第五話

歩き始めて10分、美少女の家は森の中でも開けた場所にあった。

「ここが私の家です。」

その指の先、がっしりした感じのログハウスが建っていた。

あ〜これなら確かに泥棒とか不審者とか入ってこないだろうな〜

「どうぞお入りください。」

「お邪魔します。」

家に入った俺はまず自分の目が正常に機能しているか疑った。

年頃の女の子の家ということでファンシーなものを考えていた俺は、目の前に置かれている

熊の剥製に目を奪われた。

「こ・・・これって・・」

「あ、剥製なんで大丈夫ですよ」

いやそんなことは分かっていますよ。

容姿と家の玄関のギャップに驚きつつ、俺は家のリビングへと案内された。

リビングがこれまたすごい。一言で言うなら「猟師の家」だ。壁には弓やら斧やら掛けられ、

俺の頭上には何かの肉っぽいものが紐で下げられている。小物の類は一切置いてない。

今少女がお茶を淹れているキッチンはここから見えない。が見てみようとも思わなかった。

俺がいろいろな感想を抱いていると少女がお茶を運んできた。

「お待たせしました。」

「どうもありがとうございます」

俺の前に置かれるカップ。荒削りな木製だ。

味は・・・まあ普通、かな。

「これからどちらへ行かれるんですか?」

少女の問いに、俺は茶を吹きそうになった。

・・・まずい、俺はこの世界のことを「ほとんど何一つ」知らない。

旅人なのにどこ行くか知らない、なんて答えたらイカれてると思われるだろう。

やべえ、相手が首かしげて不思議そうにしてるぞ、どうする俺・・・

「・・・特に目的地があるわけではありません。色々な場所に行って見識を深めるというか、

自分探しの旅、見たいなものですかね。」

我ながらうまくもない誤魔化しだな。

「そうですか・・・」

どこ出身ですか?なんて聞かれる前に俺は急いで話題を変えた。

「そうだ、もし良ければ水と食料を少しばかり分けていただけませんか?丁度尽きてしまったもので・・・」

「え?ええ、いいですよ。」

少女がキッチンの方へ向かうのを見つつ、後地図を見せてもらったら早いとこ切り上げよう、と考えていた。


しばらくすると少女が戻ってきた。不思議なことに包みを二つ持っている。

「あの・・・」

「何でしょうか?」

「さっき私、両親と離れて暮らしている、って言いましたよね、あれ嘘だったんです。

もう両親はこの世にいません。2年前に死んでからずっと一人暮らしなんです。」

・・・何が言いたい?

「そうだったんですか・・・」

「私、内気な性格なんで、森の外に出たことないんですよね。

水や食料は全部森で手に入りますし・・・でもあなたのお話を聞いて、

このままじゃ駄目だって思ったんです。町がどういうところか知りたいですし、

怖がってばかりじゃ何もできないって・・・」

まさか・・・?

「あなたの旅に、ご一緒させていただけませんか?」

きた〜この展開。

さて、どうしたもんだろう?

普通に考えれば、ここは断るべきだ。俺の旅の目的は魔物をじゃんじゃんぶっ殺して武器を

奪ってくることだ。お世辞にも安全とは言いがたい。

しかし・・・ここで熟慮しなければならない二つの要因があった。

一つは地図のこと。ここで断って地図だけ見せてもらう、というわけにもいかないだろう。

もう一つのこと。さっき俺はお茶を待ってる時に本棚が視界に入り、こっそりと一冊抜いて

読んだ、いや読もうとした。

わけわからん文字で書かれてさえいなければ。

どーして言葉は通じるのに読めるようにしてくれないんだよ・・・

この先、どうしても文字を読み書きしなければならない状況に出会うだろう。

この少女は2年前まで両親と暮らしていたのなら、おそらく両方ともできる。

こんなチャンスこの先来ないかもしれない。さてどうするか・・・


「是非ご一緒に、と言いたい所ですが、私はあなたをお守りできるほど強くありません。

残念ですが・・・」


俺は断ることにした。読み書きなんて町に行けば誰かに頼めるだろう。

しかし少女の返答は俺の想像を遥かに上回った。

「それなら大丈夫です!自分の身は自分で守れます。」

しょんぼりするかと思いきや顔に満面の笑みを浮かべてこれだもんな。

少女は壁に掛けられている武器の中からごついクロスボウ(洋弓銃)を取った。

「斧とか剣はうまく扱えませんが・・・これなら自信があります。玄関に熊の剥製がありましたよね?あれも私が仕留めたんですよ。」

え?

あれご両親の形見じゃなかったんですか?

普通に俺より戦闘能力高いんじゃないんですかひょっとして。

「どうかご一緒させてください」

やれやれ。これで俺が断る理由が無くなっちまったな。

「分かりました。いつ終わるとも知れない旅ですがこれからよろしく。」

「ええ。よろしくお願いします。」

「・・・そういえばまだ名乗っていませんでしたね。イワキリ、と申します。」

「ベルフェゴールです。ベルフェ、と読んでください。」

少女―ベルフェゴールは微笑んだ。

その顔を見た俺は、ああ、これだけでこの異世界に来た価値あったな〜と密かに思ったりした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「英雄になろう」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ