第二十六話
渦巻く火炎が逃げ遅れた人々を包む。
そしてその中で牛の頭を持つ怪物が住民を手当たり次第に殺していた。
それを眺めるエウリノームは、しかし楽しんでいると言うよりも何かに待ち焦がれているようだった。
「早く来い・・・私はこんな自分が何もしない復讐には飽きてしまったんだよ・・・」
普通の人体では、彼の膂力は満足できなくなっていた。
これは大掛かりなフェイク。
これを知った英雄は駆けつけなくてはならない。
自分の妹を倒した連中ということは、少なくとも瞬時に勝負が決まってしまうような雑魚ではない。
やはり、私の目に狂いは無かった。
「抗って私を満足させろ。そして死ね。」
大火事の中、彼の高笑いが響く。
「あーあ。本当にお前の能力は便利だよなぁ。」
「うるせぇ黙れ!」
「静かにしなくちゃならねえのはお前の方だろペヨーテよぉ。」
悔しそうな舌打ちが響く。
エイムのある狭い路地に二人の男が身を潜めていた。
「ダイスの目」構成員のペヨーテとコブラである。
三人組が生きていると知ったペヨーテが近くにいた彼と合流、追跡を続けようとしたところで魔物の襲撃にあったのである。
「・・・なあ、真面目な話本当にお前のペットちゃん達は呼べないのか?」
「コウモリにとって魔物は天敵だからな。俺とあいつらは主従って言うより協力関係だからさ。不利益を強いることはできない。」
やれやれ、とばかりに大げさな身振りで肩をすくめるコブラ。
ペヨーテはイライラしつつも突っかかることが出来ない。
「ま、エウリノームと英雄の始末は俺がやっとくから、お前はどっちかがエイムから逃げないように入り口で見張ってろよ。」
分かった。としぶしぶ頷き、魔物に見つからないようこっそりと街の入り口へ向かうペヨーテ。
その姿を「ざまー見ろ」とニヤニヤ笑って見送っていたコブラだが、煙に姿が隠れると表情を引き締め、自分の愛刀を抜いた。
炎に照らされ純白の輝きに磨きがかかっている。
こいつを血で染めれば、どんな宝玉でも叶わない美しさが宿る。
奇しくもエウリノームと同じ危うい笑顔を浮かべながら、コブラは手始めにこちらに接近してくる魔物をただ一太刀で両断した。
「さーて、エウリノームとやらはどこにいるんだ。」
コブラは考える。
エイムの放火の目的はおそらく人間への「復讐」
それならどこかでこの様子を眺めているのではないか?
上空を見回すと案の定、尖塔の頂点に黒い影が見えた。
コブラは最短距離を突っ切るために丁度横切っている魔物の群れへと突っ込んだ。
彼にとって手先の魔物は障害物以下の存在でしかなかった。
スナイパーであるローズは漁夫の利を狙った戦法を取ったが、接近戦主体のコブラはそれと正反対であった。
ターゲットはお互い、死闘の「準備」を整えている状態。
ならばそれが始まる前に両方叩けばいい。
それより何より、彼は待つということが苦手であった。
「斬って斬って、斬りまくるぜ・・・」
彼の耳には魔物の怒号が観客の声援のように聞こえている。
魔物の死体は瞬時に灰になり、コブラへと降りかかる。
第三者から見れば死闘なそれも、当の本人には肩慣らし同然であった。
「結局よ、人間っていうのは積極的に行動を起こそうとしなければ何にもできねーんだよ。待ちなんて糞食らえだぜ。なあ魔物さん共よおおおお」
ローズがその「待ち」が出来なかったために敗北したことなど、彼は知る由も無かった。
すいません今回も更新遅&文量少で・・・
4月入ったらなんとかしますんで、どうか暖かい目で見守ってやってください。