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第十九話

ギースは腰の細身剣を抜くと、一番近くにいた鬼怒川を切りつけた。

対して3人は突然の侵入者を敵と認識するのに、若干の時間を要したため反応が遅れた。

「っと。」

鬼怒川は反射的に義手である左腕で剣を受け止めた。

彼自身意識しての行動ではなかったが、結果的にただ受け流す以上の効果が表れた。

「・・・!?」

手袋をしている鬼怒川の手は外見上は義手と見えず、一見しただけだと生身の腕で剣を防いだように見える。それがギースの意識を混濁させた。

人間は自分の想定外の出来事が起きると一瞬、思考が停止する。そして戦闘においてその隙は致命的となる。

鬼怒川は関節をたくみに捻って義手を剣に巻きつけると、一気に力を込めた。

バキンと小気味いい音が響くと、細身剣は3つ以上のパーツに別れてしまった。

そこで止まらずすぐに右足をフルスイング。目標はギースの左頬。

「うげがっ」

うずくまるギースに対し、鬼怒川は興味をなくしたというように左腕をしげしげと眺めた。

「なるほど・・・盾として使用することにより相手の意表をつく・・・か。これはいいな。」

「さてさてさて、ちょっくら話を聞かせてもらいましょうかね〜」

左腕を眺めブツブツ言い出した鬼怒川を見て、しょうがないとばかりにイワキリが口を挟んだ。

ゆっくり顔を近づけるイワキリ。第三者が見れば隙だらけな動作。

ギースもまた引っかかった。

しゃがんだ態勢から、短くなってしまった剣をイワキリの喉へと突き出す。

「喧嘩は相手を見てから売るものだよ。」

イワキリは慌てず騒がず、右手でピースサインを作り、その真ん中で器用に剣を受け止める。

そのおどけたような仕草で避けられたギースは、今度こそ自分の敗北を悟った。





「人間って、結局自分が可愛いんだよね。いやそれを否定するわけじゃないけどもうちょっと粘って欲しかったな〜」

時を同じくして、「ダイスの目」構成員である髑髏模様の麗人は2kmほど離れた建物の屋上にいた。

自分の愛杖をまるで銃のように構え、先端をイワキリ達に向けて。

「ある程度抵抗してたら、捕虜になった失態には目をつぶってあげたのに、情報話しちゃったら殺すしかないじゃんね〜」

麗人は心の中で独り言を言いながら、杖の空洞部分に静かに、魔力を込めていく。

近くには誰もいないと分かっていても、決して気を抜かない。体内に水を取り込み魔法によって酸素を取り出すことで呼吸音を消したり、血流を操って心音も極限まで抑えたりするなど、彼女は考え付く限りの方法で気配を消しきっていた。

必要最低限の動作で、杖の太さに合うよう加工した氷を先に詰める。

周りの水蒸気の動きを魔法で読み、2km先のターゲットの位置を割り出す。

そして2km先の鬼怒川に正確に狙いをつけた。

「まずは、彼からよね。じゃあね。」

氷の玉を発射しようとして・・・動きを止めた。

そして魔法を解放する。

「そうだった。ネレイドからセラティエルに移動するまでは攻撃しちゃいけないんだっけね。」

海に潜んでいるかもしれない「五つの座」をターゲットを使って探るため。そう彼女は言われていた。

少しの間麗人は考え、当座の行動方針を決めた。

もし3人が魔物に倒されたら。

その時は戦いで消耗した魔物を倒そう。どこら辺に出現するかは分からないが、私の索敵能力ならばセラティエル海岸ぎりぎりまで射程に捕らえられるだろう。

もし3人が魔物を倒したら。

同じように撃ち殺せばいい。

どちらにしてもいつも通り、最終的には氷の玉をぶち込むことになるのだ。

それまでのんびりしていよう。

彼女は構えをとくと、杖の手入れを始めた。




「何を言ってるのか理解できないんだが・・・」

「だから早く殺せと言ってるんだ。俺は何も話さん。一思いにやればいいだろう?さっきみたいによ!」

「さっきみたいにって・・・いや、別に殺すつもりじゃなかったんだが・・・」

「俺をなめてるのか!?もう何でもいいから殺せ!」

3人は噛み合わない会話に内心頭を抱えていた。

因みにギースの言っている「さっきみたいに」はレオナール殺しのつもりであったのに対し、3人は鬼怒川がギースを蹴り飛ばした事をさしているのだと勘違いしている。

「あーんもう!あなたを殺すかどうかは別にして!あなたは結局何なの?」

業を煮やしたベルフェゴールが言った。

「分かりきっていること。盗賊だよ盗賊。」

3人は顔を見合わせた。

「この死んでる人の仲間?」

「そうさ、お前達が殺した奴の仲間だよ。」

その言葉に、それまで眉間に皺を寄せて考えていた鬼怒川が目を開けた。

「分かった。要するにお前は俺達が殺したって思っているんだろ?でも違うんだよ。」

「・・・何?」

「この死体の傷、血が一滴も出ていない。まるで元からあったみたいに、な。お前が信じるか信じないかは自由だが、私達じゃこういった殺し方はできない。何か特殊な魔法で『狙撃』でもしない限りこんな風にならない。」

「そ、それじゃ・・・一体・・・」

「捕虜になったから情報話してしまう前にバラされた。そんなとこだろう。」

「そんな・・・馬鹿な・・・こいつは仲間に殺されたっていうのか・・・」

その間、イワキリはギースの一挙一動、顔の表情まで細かく観察した。

自分達が殺したのでない以上、一番怪しいのは進入してきたこの男である。

しかし鬼怒川の言葉に動揺しているところを見ると、どうやら本当に殺された奴の仲間だったらしい。

そして同時に、重大な事実に気づく。

「外から撃たれたってことなら、こんなところに立ってたら俺達も危ないじゃないですか!」

「私も4秒前にその結論に達したが、今まで撃たれてないところを考えると、どうやら今私達を

どうこうするつもりは無いみたいだな。だから今重要なのは『気づいていない』振りをすることだ。」

「そんな事後承諾的な・・・それにもし狙撃されたんじゃなかったら・・・」

「おいおいイワキリ君、魔導師の私が狙撃と言ったんだから狙撃だよ。」

じろりとイワキリを睨む鬼怒川。

「流派の一つにあるんだよ。杖を空洞にして中に魔力をこめて、弾丸を発射するっていうのが。当たった相手は魔力を帯びた弾丸に精神力を奪われて衰弱死するらしいが、特徴として血が流れないっていうのがある。そしてそれはこの状況と完全に一致する。」

鬼怒川は言い終わるや否や、床に縛られて転がっているギースを蹴り飛ばした。

うめくギースと、豹変した鬼怒川に驚くイワキリとベルフェゴール。

そして彼はそのままギースの胸倉を掴んだ。

「最後に一つ質問をしよう。すごく簡単な質問だ。答えたら解放してやるが、答えられない場合は俺の考え付く限り最高に残酷な方法でお前を殺す。」

鬼怒川の言葉にしんとなる室内。

「質問だ。ネレイドのどこに行けば船が手に入る?」

「ま、待て。俺は知らないんだ。」

「3秒以内だ。3、」

「俺は幹部だぞ!?これ以上盗賊団の怒りを買うつもりか!?」

「お前を殺すにしても、それはこちらの覚悟を示すことになる。どちらにしても損はないんだよ。2・・・」

「ほ・・・本当に知らないんだ・・・」

「じゃあ死ぬんだな。盗賊なんてやってるんだからそれぐらいの覚悟は出来てるだろ?1・・」

「分かった、分かった。言うから、どうか命だけは・・・」

「嘘じゃなければ、な。どこだ?」

「教会の・・・近くだ。ここから300mぐらいのところに船の格納庫がある。今は使われてないから古くなってるかもしれないが・・・赤い屋根の建物だ。」

「イワキリ君。」

「はい先輩。」

イワキリは自分に何が求められているのかを一瞬で理解した。

窓から教会の尖塔を目印に、赤い屋根を探す。

そして見つかると、さらに目を凝らし、中に船があることを確認した。

「ありました。」

「む、そうか。」

「俺の言ったことはあってただろ?だから解放してく・・・」

そこで突然ギースは押し黙った。

目の前の敵が、いつの間にか取り出した鉄棒を振りかぶってたからだ。

「じゃあこれで、お前とはさよならだな。」

「おい、まて、約束が違うぞ!」

それに対して、鬼怒川は全く表情を変えなかった。

冷たい殺気を放つその姿は、まるで氷の彫像である。

ギースは戦慄し、そして自分の認識が甘かったことに気づかされた。

最初の印象はただの調子乗っているガキ共。

次は敵を殺す覚悟のある奴ら。

しかしどちらの認識も、目の前の男には当てはまらなかった。

その雰囲気はそんなに生易しくなかった。

彼は縛られていたから恐怖しているのではない。もっと違う次元の恐ろしさ。

それは丁度、神々しいものに対して思わずひれ伏してしまうような畏怖の感情。そして死への恐怖。

そんな思いにとらわれたギースは思わず呟いてしまう。

「鬼・・・」

彼の言葉と同時に、鉄棒は振り下ろされた。


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