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第一話

まずい、マズイ、不味い、mazui・・・

文芸愛好会部員、俺こと岩切 勉いわきりつとむは絶望的な状況に陥っていた。

場所は文芸愛好会の部室。中央に長方形のテーブルがあり、周りには部員全員が座っている。

上座(と俺が勝手に呼んでいる)では部長が「人気の出る小説とは」というテーマで部員に書かせたレポートをパラパラ読んでいた。

いたって普通の風景、しかし俺にとってこの状態はやばかった。

とくに「部長がレポートをパラパラ読んでいた」の部分が。

(ったく、落書きとレポートを間違えて持ってくるなんて、どーかしてるぜ・・・)

別にそれだけならどうということは無い。そう、ただ間違ただけなら「明日レポートを持ってきます」と断ってから提出しなければ済むことなのだが、俺はあろうことか落書きと勘違いした清書を学校に行く際ゴミ捨て場に捨ててしまったのだ。

しかも勘違いに気づいたのが部長がレポートを読み出してから、

そしてその内容が致命的だった。

「・・・岩切君、君のレポートなんだが、なぜ二枚しかなく全て箇条書きで『18禁な官能小説が人気に決まってんだろばーか』とか『部長の書く原稿用紙の無駄遣いとしか考えられない小説以外』などと書いてあるのだろうか?根拠が書いてないようだから聞かせてもらいたいんだが・・・」

「あーっと、特に無・・・」

「答えろって言ってんだよこの糞が!!レポートは客観的事実に基づいて書けって、何度いわせりゃ理解できんだオラッ!!貴様なんぞに鉛筆持つ資格ないこのパープリンのポンチ野郎!!」


部室がビリビリ振動するような怒号。まだ日の浅い新入部員は部長の知的な風貌と想像を絶する罵詈雑言とのギャップで、ドン引きするか青くなっている。


「す・・・すんません・・・」


鬼怒川 龍一きぬがわりゅういち、15歳。剣道部と文芸愛好会を掛け持ちする優等生。普段は誰に対しても物腰柔らかな態度で警戒心を与えない・・・そして、軽い二重人格。

その罵声は一般的に怖いとされる生活指導の教師を遥かに超越し、部長を務めている剣道部と文芸愛好会の部員からは「冷静に凶暴」と称されていた。

しかしその指摘はいちいち最もで、優等生タイプの後輩に慕われている。

ま、部長に論説文とか小論文書かせれば右に出る奴はいないけど、小説はどれも難解過ぎて不評だったから、俺のこの指摘だけはそんなに的外れなものでも無いだろう。


しーんと部室が静まり返るきっかけを作ったのが部長であれば、それを破ったのもまたこの人だった。

「・・・・それはさておき、このレポートの二枚目、三行目であるが・・・」

般若っぽい顔が元の知的なそれに戻ったので、部員は全員安堵の表情を浮かべている。

それを知ってか知らずか、部長は続けた。

「この『美少女と少年(容姿は問わず)との純愛物語+ファンタジーがいいんじゃネーノ?』というのは全く同感だ。」

「・・・!?」

「書店を調査した限り、この純愛物語というのは実はなかなか需要が高い。またインターネット上の「ブログ小説」も圧倒的にこのジャンルが多い。そしてファンタジーというのも年齢問わず人気がある。事実私の調べた小説投稿サイトでも人気上位はこの分野のものが多かった。18禁の小説というものは読者層が限られてしまうために人気が出るといっても万人受けするものは当然、ない。我が文芸愛好会は需要に合った小説も書けなければならない。このレポートを次号の部誌のテーマの参考にする、ということは前に言ったと思う、そこで・・・・」

部長は一旦言葉を切り、部員を見回した。

「『美少女が出てくるファンタジー小説』を、次回のテーマとしたいと思う。全員、1ヶ月後の会合までに書いてきてくれ。今回の会合はこれで終わりだ。」

・・・これはひょっとしてギャグで言っているのか?

この部長は本気で部誌にファンタジーラブを載せようと言ってるのか・・・・?

先ほどとはまた違った意味で引いていた部員は我に帰り、

筆記用具を持って部室を出て行った。

「ちょっと、岩切君」

帰りがけに部長に声をかけられた俺はダッシュで逃げたかったが、

無視すると後がもっと怖いので

「な、何ですか?」と声が震えないように気をつけて返答した。

「さっきはかっとなってすまなかったな」

「いえ、気にしてませんから大丈夫です。」

「そうか、それなら良かった。次号の君の小説、楽しみにしてるよ。」

「・・・・は?」

「君、自分でレポートに書いたのだから、当然すごいものが書けるんだろうね?」

レポートのテーマは「万人受けする小説」だから別に自分が書けなくても何も問題ないのだが

蛇ににらまれた蛙状態だった俺にはそこまで考える余裕が無かった。

「はあ・・・まあ」

「私を失望させないでくれよ?」

分かる者には分かる、部長の絶対的脅迫。俺が嵌められた、と気づいた頃にはもう手遅れ

だった。



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