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第十八話

「つかまっちゃったよ〜どうするよ〜」

青年、レオナールはぐるぐる巻きに縛られた縄の中、頭の中でもぐるぐると独り言を繰り返した。

もう先ほどの恐慌状態からは回復している。

彼は天井を見上げた。

建物の感じから言っておそらくまだネレイドの近くだ。ギースさんは助けに来てくれるだろうか・・・いや、彼に頼ってばかりじゃ駄目だ。自分でなんとかしなければ・・・って言っても魔導師は杖ないと何にも出来ないんだよね・・・はあ、これなら毒なんて不確実な方法とらずにギースさんと戦っていれば・・・ってかそれ以前に戦わずに連絡だけしてれば良かったんだよな・・・

いつになっても答えの出てこない自問自答は、ドアを開ける音で中断された。

こげ茶色のロングヘアーに水色のワンピース。

宿屋からさらったベルフェゴールとかいうやつだ。

「十分休息はとれたかしら?」

「・・・休息。俺達盗賊団はこういう状態を『監禁』って呼んでいる。ボキャブラリー少ないとこの先苦労するぜ?」

「もしかして自分の置かれている状況が分かってない?」

「よぉーく分かってるぜ。盗賊団の秘密喋れと、あんたらはそう言いたい訳だ。」

「そういうこと。話して。あ、後嘘つこうとしてもすぐ分かるから。」

後半のセリフに若干疑問を覚えながらも、青年は答えた。

「口が堅くないと出世できない組織に所属してるものでね」

ふう、とため息をつき、レオナールを冷めた目でみるベルフェゴール。

数秒後、彼女はポケットから小瓶を取り出した。

「あのね、私もこんなことあんまりしたくないんだけど・・・いや、本当はすごくやりたいんだけどイメージが崩れちゃうから敢えてそう言うだけなんだけど・・・」

「なんだ、拷問にでもかけるってか?やってみなよ。」

せせら笑うレオナールだが、次のセリフを聞いて口を開けたまま固まってしまう。

「『導き手』って薬知ってる?」

「・・・は?」

レオナールは耳を疑った。

導き手。レバーレンスの後継者争いの大戦時使われた自白剤である。

正確さに著しく欠く拷問の代わりとして、初代セラティエル国王が自ら開発、使用された。

その強すぎる効力から、他国に漏れ無いよう誰にも調合方法が伝えられることなく、歴史の闇へと消えていったとされる伝説の薬である。

薬学に関して深く研究している者でもなければ知りえない名が、目の前の少女の口から出された。

それは彼を再び驚愕させるのに十分であった。

「これがその薬ではない・・・っていう保障はどこにもないわよね?」

「馬鹿な!有り得ない!この俺がどうしても作れなかった薬を、お前みたいなガキが作れるわけがない!」

「うん。多分完璧じゃあないでしょうね。きっと不純物とかもいっぱい入ってるでしょうね。一度飲んだら廃人になっちゃうかもね。そしたらあなたの研究とか知識とか、誰にも知られること無くこの世から葬られちゃうわよね〜」

「はなせこのやろおおおおおお!」

「野郎?見ての通り私は女なんだけど。ボキャブラリー少ないとこの先苦労するわよ?」

第三者が見れば彫刻のように整っている、と感じるであろう天使の微笑を浮かべるベルフェゴール。しかしレオナールには悪魔の嘲笑にしか見えなかった。

「・・・分かったよ。負けだ。負けだよ。」

「分かってもらってうれしいわ。」

もうどうにでもなれ。

自暴自棄を顔中で表現しているレオナールは、やがて情報を話すために口を開いた。




「イワキリさんもローグさんも、ほんとにすごいです!」

「いやベルフェの演技の方がすごいと思うよ。」

「イワキリ君に同じ。私達はちょっとばかしこういうのに慣れてるだけさ。」

どの程度骨のある奴か分からない以上、最初から拷問にかけるのは得策ではない。何よりそれは英雄のすることではない。だから自白剤を飲ませると脅して情報を引き出すのはどうか。それがイワキリの見解。

イワキリ君に付け足しとして、魔導師は知識を重んずる傾向が強いから、痛めつける拷問より「廃人になる」と言って知識が失われると脅すと効果的ではないか。それが鬼怒川の意見。

「伝説の自白剤」がありますからその名を出しましょう。毒で私達を殺そうとしたぐらいだからきっと相手は知っています。というのがベルフェゴールの案。

こうして3人は相手を全く傷つけることなく、情報を引き出すことに成功したのであった。

「さて、と。あいつこの後どうします?」

「解放してやっても構わないだろう。イワキリ君を殺そうとしたのは独断みたいだったから追っ手が来るとも考えにくい。」

「私も賛成です。命を取ってしまうのは可哀想ですから。」

やっぱり2人とも考え方が全然違うな、とイワキリは密かに苦笑した。

鬼怒川の考えは要約すれば「必要が無いから殺さない」。つまり必要があれば殺すと言っているのに等しい。

それに対しベルフェゴールは「殺したくないから殺さない」、感情を根拠としている。

この違いが今後の旅にどのように影響していくか、少し不安だとイワキリは感じた。

しかしすぐに考えを改める。逆に言えばバランスが取れているということかもしれない、と。

理性で判断する部長、感情で見るベルフェゴール、そしてニュートラルポジションで直感で進む俺。悪くないな。

イワキリの楽観的で前向きな考えが、吉と出るか凶とでるかはまだ誰も知らない。




時を同じくして、イワキリとは反対に超ネガティブになっている人間が一人。

「くっそ・・・いっそのこと見捨てちまうか・・・」

ギースは細身剣をいつでも抜けるよう注意を払いながら、相棒のレオナールがいないか辺りを見回した。

ギースは部下思いの上司であったが、任務のためなら切り捨てる厳しさも併せ持っている。それでもまだレオナールを探しているのは。彼一人では水晶玉に魔力がこめられないためであった。

ネレイドの港町はかつて繁栄していたこともあり規模が大きく、探し物にはあまり適していない都市だった。

「これやると隙ができちまうが仕方ねえ・・・」

ギースは全身を脱力させ眼を瞑ると、耳に意識を集中させた。

しんと静まり返る周囲、常人ならそれ以上の感想を抱かないであろうがギースは違った。

「近いな。」

僅かな空気の振動を彼は捉えていた。

慎重に二階建ての民家に近づき、ドアに耳を当てる。

十数秒後、ギースの顔は吐き気を催したようになった。

「あの野郎、捕まっちまってるのかよ・・・」

しかも会話の内容からして少なからず盗賊団の情報を話してしまっている。

考えうる限り最悪の状況。

これで3人組を殺さなければならなくなった。

「とりあえず助け出す、か」

そんなに広くないこの家のこと、監禁するのなら二階だろう。

腰のナイフを二本取り出すと壁の隙間に差し込み、それを足場として飛び上がり、そのまま窓を突き破る。

「ったく、手間かけさせやがって!」

当然憎まれ口に反応してくるだろうとギースは思ったが、またしても予想は裏切られた。

椅子に腰掛けさせらているレオナールは俯いたままピクリとも動かない。

元アンドラスの突撃部隊隊長の勘が、一つの事実を示した。

素早く近寄ると手首を握り、呼吸音を確かめる。

そして彼は確信した。

「死んでやがる・・・」

もっとよく見れば、おそらく死因であろう小さい穴が胸にあいているのが分かる。

ちょっと強いからって調子に乗っているガキだと思っていたが、まさか用済みになったら大事を取って殺すような奴らだとは・・・

同時に背後の扉が開き、当の3人が現れた。

そしてレオナールが死んでいるのを認めた。

ベルフェゴールが息を呑む。

奇妙な沈黙は、イワキリとギースの全く同じセリフに破られた。

片や部下を守りきれなかった自分に怒り、片や突然の侵入者に対し疑問を抱きつつ。

「てめえが、やったのか!?」







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