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第十七話

「ほんとに来るんですかね〜」

ふーっ、と煙草をふかす青年に、中年一歩手前といった男が腕組みしながら答える。

「さあな、まあ来てもおかしくないとは思うが・・・」

「俺・・・なんかこの街嫌いなんですよね〜。」

「そうか?俺は煩わしい奴が一人もいないから好感を持っているが・・・」

「煩わしいも何も人っ子一人いませんけどね〜」

「そんなことより、お前はどうして変だと感じるんだ?」

「え?別に、そんな大したことじゃないですよ。」

「いや、魔導師の勘は良く当たるからな。具体的に言ってくれないか?」

「・・・魔力、みたいなのが感ぜられない、こともないような・・・」

顎に手を当てながら曖昧に言う青年。

「他国で会った魔物の気配に、どことなく似てるんですよね」

「・・・ふむ、もしかすると噂ってのは本当かもな。」

「噂ですか?」

「この港町の近くの海で船が消えるって話、聞いたことあるだろ?」

「あーありますね〜」

「あれが魔物の仕業じゃないか、っていう話だ。」

「・・・海に棲む魔物っすか。今まで考えたことも無かったですけど、確かに有り得ますね。・・・って俺達危なくないですか?」

「港町から人がいなくなったのは皆気味悪がってだ。実際に被害が出たわけじゃない。だから大丈夫だろう。」

普通そういった廃墟群は犯罪の温床となるのだが、これ以上治安を悪化させたくないベラドンナの策で、「港町でも人が消える」という流言がはやったため今ではチンピラも近寄らなくなっていた。

二人の男は廃墟の中でも一番しっかりしていた教会の二階、バルコニーから窓越しに街の出入り口を監視していた。

「にしても見張るだけって言うのもなんていうかなんていうか・・・・」

「俺だってそりゃ不満だよ。でもあの飛行船から逃げたっていうんだから俺達の手には負えないだろう」

「あんな小娘がいても、ですか?」

「もちろん俺達が、セラティエルから拉致した娘は大したことない。だが後の二人が・・・」

「・・・そうですよね。」

専属ハンターと虐殺堕天使。

特に後者のおかげで盗賊団の指揮に影響が出ていることを、それなりに高い地位にいる二人は知っていた。

退屈だなーと漏らす青年と無言の男。

二人が次に動いたのは大分経ってからだった

「誰か来たようだな・・・」

ポツリと呟かれる言葉を聞き、青年は寝転んでいた床から飛び起きた。

流れるような動作で傍らの杖を引き寄せる。

「奴らですか?」

「多分、そうだな。さて連絡連絡・・・」

男は懐から水晶玉を取り出した。

盗賊団の幹部クラスのみが持つことを許される魔具。

魔力をこめる事により、水晶玉同士をつなげ、周囲の映像、音声を伝達する。

主に連絡手段として使用されていた。

「おいレオナール、これに魔力こめてくれ。」

はいはい分かりましたよ〜と返事がくるものと思っていた男は、シーンと静まり返る教会を不審に思った。

そして周りを見渡す。

杖を握った青年の姿など影も形も無かった。

「あの馬鹿やろおおおおおお!」

あれ程戦うなと言われているのに、あいつは行ってしまった。

水晶玉を戻すと、壁に立てかけていた細身剣を引っつかみ、階段を使うのももどかしいとばかりに窓から飛び降りた。




「着いた。予想通り妨害はなかったな。」

「せ、先輩、水・・・」

「この前来たときはどっかに井戸があったはずだ。」

「・・・は?」

「砂漠ならまだしも、もう着いたんだし、あんまり私も魔力を使いたくない。」

「・・・先輩これで俺が死んだら化けて出ますからね。」

「そんな大袈裟な。」

探してきます。と一声叫ぶとイワキリは走っていってしまった。

待ってください〜と後を追いかけるベルフェゴール。

後二回頼んだら、出してあげたのに。

私も飛行術を使おうとして・・・やめておいた。

これで飛んでいるのをイワキリに見られたら、魔力うんぬんの話に差し障る。

私も走ることにした。




「軽装の旅人がこの街に来たら一番初めに何するか、ずばり水分補給だ。」

民家の一室、その窓から青年は井戸を見ていた。

距離にして15m。

そしてその井戸の中には毒薬が投げ込まれていた。

「熟睡している赤子のように安らかな死・・・正直ハンターなんて危険な仕事やって、こういう死に方が出来る人間は多くないぜ。」

ビンの中の白い粉を揺らし、青年は不敵に笑った。

「・・・来た」

案の定、専属ハンターが井戸へと歩いてきている。他の二人の姿は見えない。

まとめて始末できないのは残念だが、一人だけでも十分な功績だろう。

「さあ飲めよ・・・そしてしっかり味わうんだぜ・・・」

つるべを手繰り寄せ、桶を手に持ち水を口に・・・含んだ。

そして苦しむことなく、ぱったりとその場に倒れてしまった。

「うふははははは。案外、大したことなかったな。簡単簡単。」

声を押し殺して笑う青年。

そのまま倒れているハンターに近づき、愛おしそうに耳打ちする。

「俺の出世の足がかりになってくれてありがとよ。」

「いや礼を言うのはこちらの方だ。」

「・・・はぇ?」

青年は視界から入る情報を脳で処理するのに、多少の時間を要した。

腕によりをかけて作った毒を飲んだハンターが、何事も無かったかのように立ち上がったのだ。

「なんてったって『案内』してもらえるんだからよ〜」

青年は立ち上がる動作、口を開く動きが全てスローモーションに見えた。

「ありえない・・・そんな、ありえない・・・」

もう自分が何を口走っているのかも分からない。

結局青年は、ハンターの当身が鳩尾に決まり、意識がブラックアウトするまでの間ろくに抵抗することも出来なかった。




「やっぱり毒、入ってたんですね。」

「ああ。死んだ振りっていうのも意外と難しいな。にしても良くこの距離で『匂い』が分かったな。」

イワキリは引きずっている男を一瞥する。

華奢な体つきと杖が、その男の職業を示していた。

井戸まであと10m、といったところでベルフェゴールが追いつき、「毒のにおいがするから井戸の水を飲んではいけない」と言ってくれなければ命を落としていた。

「どこかで見たような・・・あ、私を飛行船にさらった男です!」

「ほんとか?ならこいつは盗賊団の一員ってことで間違いないな。」

これが意味する事はなんだ?

部長の推測が間違っていた、ということだろうか、いや俺達を殺すつもりならこんな杜撰な計画であるはずが無い。よってこいつが「ダイスの目」とかいう暗殺グループの一員だとは考えづらい。

となると・・・構成員の一人が俺達を偶然見かけてあわよくば殺そうとした、といったところか・・・

「まあ詳しいことはこいつ自身に聞きゃいいよな。」

盗賊団や魔物の巣窟に関して、絞れるだけ絞ってやろう。

俺はこの時、「仲間がいるかもしれない」ということをすっかり失念していた。


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