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第十六話

-五つの座の伝説-

かつて「レバーレンス」は一つの大陸として存在し、レバーレンス王家が支配していた。

絶大な権力の元、戦は起きず、庶民は平和な生活を享受していた。

しかしレバーレンス暦113年、転機が訪れる。

7代目レオナール・レバーレンスの子供である5人の兄弟が王位継承の座を奪いあったのだ。

長男は言う。

「年上である私が、世界の民を正しき方向へと導くに足る。」

次男は言う。

「英知に長けた私が、世界の民に更なる繁栄をもたらすに足る。」

三男は言う。

「全てにおいて偽らない私が、世界の民の信仰心を養うに足る。」

四男は言う。

「勇猛たる私が、世界の民の安寧を守るに足る。」

五男は言う。

「何も語るまい。凡人たる私の兄弟と比べれば、王は私をおいて他にいない。」

王族、諸侯は五つに割れ、王座を巡って戦いの日々を送るようになった。

世は乱れに乱れ、荒廃の一途を辿った。

神はこの様子を嘆き、五人の兄弟に呪いをかけ、人間であることをやめさせたのであった。

神は言う。

「団結を知らぬ人間が、人の世を治めるには足らぬ。」

後には旗頭を無くした配下が残され、戦は自然消滅。話し合いの結果、国は五つに分断されることとなった。

この様子を見た兄弟は口々に叫んだ。

「皆、忠誠を私に誓うと言ったではないか!」

人でなくなった途端、その誓いは砂のように崩れ去ったのだ。

やがて魔物となった兄弟を退治するお触れが、各国で出された。

兄弟の怒りは頂点に達した。

その怨念は大陸を五つに割り、その怨恨は民に災厄をもたらし、その執念は魔物となった兄弟達に超常の力を与えた。

そして兄弟はそれぞれの大陸で復讐を果たすべく、今度こそ自らに忠実な魔物を作り出し、民を苦しませているのである。

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「それが五つの座・・・ですか。」

「あくまで伝説だ。だが各国に魔物の首領がいるというのはほぼ間違いないみたいだな。」

「それをこれから狩る・・・と」

「そうなるな」

「・・・・・無理じゃ」

「馬鹿言ってんじゃねえぞイワキリ!俺らはこいつらブチ殺さないと元の世界に帰れねえんだぞ!?最初から諦めてどうすんだこのアホが!」

「・・・・すんません。」

ちらりと横目でベルフェゴールを見ると、部長の変貌に驚くことも無く、ギドー氏に借りたらしい「レバーレンス毒物百科」という本を読みふけっている。

どうやら自分の世界に没頭すると周りが見えなくなるタイプらしい。

時々浮かべる怪しげな笑みも彼女の魅力を引き立ててはいるが、正直怖い。


俺達はとりあえずセラティエル国に戻ろうと、タグリヌス国の港「ネレイド」に向かうため、延々と続く砂漠を歩いていた。

「先輩・・・本当に無理なんですか?」

砂漠は熱されやすく冷めやすい。

俺は額に滴る汗を拳で拭った。

「何度も言わせないでくれ。私の飛行術は3人一度に飛ばすことは出来ない。せいぜいパラシュートみたいにゆっくり下降するぐらいだ。それに師匠の『結界』がある以上徒歩の方が安全だ。」

ギドー氏は「研究を邪魔されないように」という理由で広大な砂漠に魔法をかけ、砂漠を歩く者が『見られたくない』と願う限り発見されないようになっていた。

虐殺堕天使と呼ばれた先輩が、今まで盗賊に見つからなかったのはここに理由があるらしい。

「う〜そうですか。」

安全も何も現在進行形で水なくて死にそうだけどね。

よし、ここは気を紛らわせることにしよう。

「先輩、タグリヌスには悪名高き盗賊はたーくさんいますけど、魔物はどうなんです?」

「まったく見ない。私が倒したのもセラティエル国でだしな。」

「ほんとですか!?」

「治安が悪いことも災いしてか『魔物も寄らぬタグリヌス』と言われているみたいだ。」

それは・・・いや、変だ。

レリウーリアは「五匹魔物を倒せ」と言ったわけではない。「5つの大国に潜む魔物を倒し」だ。だから最低一匹はいないとおかしい。

まあもっと厳密に言ってしまえば「五つの座」が倒すべき魔物ではない、という可能性もあるがそこは深く考えないようにしよう。考えても無駄だ。

「さて、今度は盗賊団どもについて私の知っている情報を教えてあげよう。いずれ戦うことになるしな。」

「え?本当ですか?」

ベルフェゴールが顔を上げる。この子は聞いてないようでちゃんと聞いているらしい。

「私はてっきり、イワキリさんを放っておくものだと思っていましたが・・・」

俺と同じ意見を言うベルフェゴール。

ブルーワイルドエンジェルもそんなに暇じゃないはずだ。ベラドンナの目的が魔物の巣窟荒らしであるなら、マシュイト国にでも行って狩人を引っこ抜いてくりゃいい。

そんな俺らに対し、いやいやいやと苦笑する部長。

「理屈で言えばそうなる、が、あの女は理屈で動いていないんだよ。いわゆる物欲の権化と言う奴かな。自分の持ち物を大切にして、欲しいと思ったものは自分の物にするかこの世から抹消するか、といった感じだ。実際ベラドンナの私物を盗もうとしたり、盗賊団から抜けようとして死んだ人間が何人もいる。」

それにだ、と部長は人差し指を立てる。

「あいつは夢で啓示を受けたそうだな。だから余計私達の存在が大切に思えるのだろう。殺す動機を確固たるものにするにはこれで十分だ。」

「・・・なんか、怖いですね。」

この暑いのにブルッと震えるベルフェゴール。流れるような黒髪が風にたなびく。

そんな姿がたまらなく可愛く、思わず抱きしめてしまいたくなる。

「さて、そこで重要なのが盗賊団専属の『ダイスの目』と呼ばれる暗殺部隊の存在だ。私達の戦闘力に匹敵するのはそいつらとベラドンナぐらいしかいない。後は何人集まっても同じ雑魚だ。」

「暗殺部隊ですか・・・」

伝説の魔物に殺人集団、全く泣きたくなってくる。

「メンバーは6名。能力は私も知らないが、おそらくタイマンに真価を発揮するかこっそり殺すのに適しているかのどちらかだろう。そうじゃなきゃ魔物の巣窟襲っているはずだからな。」

「どこにあるのか分かってないから襲ってないだけ、とは限りませんか?」

「有り得なくはないが・・・ベラドンナは君に『魔物を狩れ』と言ったんだろう?普通場所が分からなければ探せと言うと思うんだ。だから私は場所を大体把握していると考えた。」

部長の分析能力には全く頭が下がる。

「もう一つ分かることは、そのグループが『魔導師』『魔具使い』『妖術師』で構成されているということかな。」

何?それって全部違うの?

「と言ってもイワキリ君は分からないだろうから、ちゃんと説明しておこう。」

そこで言葉を切ると、杖を出してぶつぶつ呟いた。

何が始まるのかと期待していたら、部長は魔法で水を出して喉を潤しただけだった。

「・・・先輩水出せるんですか」

「そりゃそうさ、そうじゃなきゃこんな砂漠越えられるわけがない。」

「・・・あの、俺にも」

「いよいよヤバくなったらちゃんと飲ませてあげるよ。それまで我慢だ。」

鬼だねこの人。

「ベルフェゴールさんは飲む?」

ますます酷い。

「いえ、イワキリさんが飲まないんだったら私も我慢します。」

再び本の世界に入っていたベルフェゴールは顔を伏せたまま返事した。

よく言った、それでこそ俺のベルフェゴール!

・・・ただ単に本読むの邪魔されたくなかっただけかもしれないけど。

「む・・・そうか。」

結局飲んだのは一人だけだった、という気まずさからか、部長はわざとらしい咳払いをして話を続けた。

「まず魔導師。これは私や師匠を想像してもらえれば分かりやすいだろう。精神力を鍛えて4大元素を操る術者だ。色々組み合わせることによってバリエーションが増えるが、魔力が尽きたら自然回復するのを待たなければならないからあまり持久力がない。4つの元素全てを使いこなすのも難しい。」

「次に魔具使い。彼らは魔導師のような修行をすることなく、魔法の掛かった道具『魔具』を用いて超常の力を振るう。彼ら自身の精神力は関係ないから魔導師と違って能力が持続するのが最大の特徴だが、その代わりレパートリーに欠け、一度ネタがバレれば確実に対策が練られてしまう弱みがある。あ、あと魔具と呼ばれるものは大体意思を持つから、道具に選ばれなければならないな。」

「最後に妖術師。生まれつき4大元素に縛られないような超能力を持った人間だ。おそらく魔導師と同じで精神力を消費するのだろうが、正直こいつらに関しては良く分からない。あまりに数が少ないからな。」

なるほどなるほど。

要するに・・・めんどくさい相手だということだ。そういう奴らと戦うぐらいならどう考えてもベラドンナに協力する方が簡単である。

思わずため息をついてしまう俺。英雄らしい行動を取らなければならないという制約が無く、ベルフェゴールが止めていなければ正直そっちを選んでいただろう。

まあ今から考えても遅い・・・か。盗賊団は俺らを殺そうとしている。もう後には引けない。

待てよ、そういえば・・・

「先輩、砂漠の上に港があるんですか?」

「いや、砂漠の終わりから5分くらい歩いたところにあるが。」

「・・・え、じゃあギドーさんの魔法、効かないじゃないですか」

「うむ、効かないな。」

効かないって先輩・・・

港といえば人がたくさんいるに決まっている。

そんなところを突っ切るのは見つかってくださいと言ってるようなものだ。

それは無謀を通り越して自殺行為。

ベルフェゴールも怪訝な顔をして部長の顔を見つめている。

「先輩、・・・それは無茶ですよ。向こうは俺達の事血眼で捜してるんですよ!?」

「いや、あの港に限っては大丈夫。盗賊団もあそこを利用するとは思わないさ。」

自信ありげな部長の顔。

俺は考えてみた。

「あの港に限って」他の港だと駄目。それはつまり船舶による渡航自体が安全、というわけではないということだ。

次に浮上してくるのは先輩、あるいはセラティエル国の息のかかった港である可能性。しかしこれは「盗賊団もあそこを利用するとは思わないさ。」と矛盾しているから駄目。盗賊団は真っ先にそういった港に目を付けるはずだ。

となると・・・

「・・・そんな難しい顔して考えなくても、聞けば理由くらい教えるよ?」

俺の様子を見かねた部長が声をかけてくる。

・・・む、なんか負けたみたいで悔しいな。

しかし好奇心が勝った。

「教えてください。」

「さっき『タグリヌスでは魔物を見ない』と言ったが、実は予想はついているんだ。レリウーリアの言葉をよくよく考えたら、分かったんだよ。居所がね。」

5つの国に潜む・・・

「・・・そう、か。国にいても大陸にはいない、つまり魔物は海か空に・・・」

「その通りだ。後者の空は探索済みだから残るは海しかない。というわけで調べてみたら、興味深い情報が入手出来た。」

漁師から聞いた話しなんだけどね、と部長は続ける。

「ネレイド港はタグリヌス国の全盛期、だから今から100年くらい前かな、その時期に出来た港で当時は活気があったらしいんだが、ある時を境にネレイドから出航した船が目的地に着かず行方不明になるようになった。漁船も貿易船も、事件を調査させるために派遣した軍艦も一つ残らず、だ。それ以来ネレイド港とその近く一帯の海には誰も近づかなくなったんだよ。だから私はそこが怪しいと思っているんだ。」

なーるほど。だから盗賊達も俺達が使うとは思わない・・・ということか?

「・・・裏の裏まで考えて、その港で待ち伏せしているかもしれませんよ?」

「万一、イワキリ君の言う通りだったとしても向こうは邪魔しないだろう。なぜならあいつらの目的は、あくまで俺達を『この世から消す』ということだからだ。『自分の手で殺すこと』じゃあない。つまり向こうにしてみれば俺達がネレイド港から出航して勝手に死んでくれればそれでOKなんだよ。セラティエルとの関係を悪化させずに私達を消せればそれに越したことはないからね。対して私達はいつかは魔物を殺さなくちゃいけないからネレイド一帯の海を探さなくちゃいけない。」

最も船消滅の事件が、魔物の仕業ではないという可能性もあるけどね。

そう言って部長は話を締めくくった。

「・・・頭いいですね、ローグさん」

さっきから聞いてばかりだったベルフェゴールが口を開いた。

毒物百科はもうカバンの中にしまわれている。

もう読んじゃったのだろうか?まさかね。

「既に存在する条件を考察しただけさ。港にしても魔物にしても、私の力で何か状況を変えたわけではない。」

その考察が常人にはできないんだけどね・・・

「・・・・と、おしゃべりしている間に港の近くまで来たようだな。」

言われて視線を上げた。

地平線付近に海が見える。

その周辺には石造りの建造物が立ち並び、太陽の光を受けて白っぽく光っていた。

雑誌に載っていそうな、美しい風景。

だが俺にはその美しさがどこか薄っぺらく見えた。

例えるなら、中身の無い剥製。

俺の「視力」は目に映る全ての建物が、人の住んでいない廃墟であることを知らせてくれた。

美しいのに、不自然。亡骸のようなその姿からは負の瘴気が感じられる。

ここ、夜は怖そうだな・・・

俺は珍しく、実体を伴わない漠然とした恐怖を感じた。


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