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第十五話

「ベラドンナ様!」

「皆集まってくれたわね。」

答えるのとほぼ同時に、ソテツがドアを開けて入ってきた。

ベラドンナと「ダイスの目」。

盗賊団旗揚げ時のメンバーが、一堂に会した。

「ベラドンナ様、今回の仕事は・・・?」

ベラドンナを除くその場にいた全員が抱いていた疑問を、銀髪の老人が口にした。


盗賊団直属の暗殺グループ。

タグリヌス国の諸侯を震撼させたこのチームは、他の四カ国が都市伝説ではないかと疑うほど、その存在が隠されてきた。

よって構成員が二人以上同じ任務につくことは珍しく、ましてや全員集まることなど皆無だった。

これが意味するのは、この任務が総力を尽くさなければ遂行できない困難な物だということだ。

「今回のターゲットは・・・・」

ベラドンナが大きく手を広げ目を閉じた。

すると彼女の影が大きく揺らぎ、まるで実体を持っているかのようにゆっくりと立ち上がった。

影の柱はしばらく波打っていたが、やがて3体の人型を形作った。

イワキリ、ベルフェゴール、鬼怒川の3人の姿である。

産毛から爪の先まで、黒一色でなければ見分けがつかないくらい精巧であった。


ベラドンナの「異能」

それは影を操る術である。

能力の及ぶ範囲内であれば、そっくりの人型を作り出すことから大人三人を一度に絞め殺すことまで、ほぼ自在に操作できた。

「虐殺堕天使、ですか。して他の者達は・・・?」

「セラティエル直属のハンター。魔物の巣窟を攻略するのを手伝わそうと思ったら拒否してしかも飛行船まで見られちゃったから、消さなくちゃいけないと思ってね。」

「随分と若いですね。」

「ってか3人ともガキじゃん。虐殺堕天使はまだいいにしても、セラティエル国って意外と人材不足なんだな。」

青白い少年が、自分も他人をガキと呼べるような歳ではないことを棚に上げて言った。

「ペヨーテ!口を挟むな。」

「へーへ。分かりましたよ爺様。」

仕切り直し、と言わんばかりに咳払いをして老人は続けた。

「しかしベラドンナ様。セラティエル国専属ともなれば、殺せば向こうも黙ってはおりますまい。このご命令はいかがなものかと・・・」

「なに言ってんだじじい。だから俺らが『気づかれないように』殺すんだろうが。死因を偽装するなんて、そんなの簡単だろ?」

包帯を巻いた男が、自分の足に乗った刀を撫でながら言った。

「・・・む、確かに。今のは失言であったな。申し訳ありません、ベラドンナ様。」

「気にしないで。それに万が一、ブルーワイルドエンジェルの仕業だと分かってもあの国の弱みは握っているから、クレイムルに交渉を任せれば大丈夫よ。」

「・・・分かりました。この3人を見つけ出して殺せば良いのですね?」

「そ。あんまり認めたくないけど、こいつら結構強いからがんばってね〜。」

自分の主が強いと言うからには相当な実力を持っているのだろう。

全員がかつてない難易度の任務に身も心も緊張させた・・・・約一名を除いて。

「ベラドンナ様、俺はこの任務受けらんねぇ。」

青白い少年が頬をかきながら言った。

そしてベラドンナが口を開く前に、彼の耳すれすれのところにフォークが突き刺さった。

彼女がやったのではない。包帯男が投げたのだ。

「ペヨーテよぉ、おめー何様のつもりだ?主の命令には絶対服従だろうがボケェ!」

顔の下半分しか露出していないにも関わらず、その表情からは凄まじい怒りがほとばしっているのが分かる。

しかし少年、ペヨーテは慌てず騒がず、こうなることを予測していたように落ち着いた口調で言った。

「主の命令が大切なことは俺だって分かっている。だが俺には『女を殺さない』という信念がある。信念を無くしたら人は人でなくなる。だから俺は受けられないと言ったんだ。」

「それが分かってないってことなんだよ!そんな信念なんて捨てろ!」

その言葉がペヨーテに届いた途端、彼の雰囲気から柔和なものが消し飛んだ。

「お前ちょっと血の気が多いんじゃないかコブラ?一度『枯れて』みなよ。」

そう言って腰掛けていた窓から、外へと右手を伸ばした途端、闇夜を無数の羽音が埋め尽くした。

鳥でも虫でもない。

彼の右手に集まってきたのは『吸血コウモリ』だった。

包帯男-コブラはその様子を「耳」で感じ取り、足元に置いてある刀を抜いた。

室内灯に照らされた刀身は純白で、あたかも鮮血で染められるのを待ち望んでいるかのようだった。

「その小汚ねえペットちゃん達に、お前の血を吸わせたら喜ぶんじゃねえのか?」

ペヨーテは答えない。

双方ともに裂帛の気合をもって、相手を威圧していた。

その緊張感が体を突き動かす寸前、ベラドンナが割って入った。

「ほらほら、二人とも喧嘩しないの。」

その雰囲気は到底喧嘩と呼べるようなレベルではなかったが、二人にはその一言で十分だった。

ペヨーテはコウモリを闇夜へと解き放ち、コブラは刀を鞘に納めた。

「失礼しました、ベラドンナ様」

同時に発せられる声。

「ペヨーテ、あなたの信念に反すると言うのなら、男二人だけでもいいわ。任務、受けてくれないかしら。」

「分かりました。」

ペヨーテはおとなしく引き下がった。

「さて、皆早速取り掛かって頂戴、と言いたいところだけど、ソテツから皆にお土産があるわよ〜」

声も発さない無愛想な娘がお土産?

全員が興味津々といった様子で彼女を見つめた。

視線の浴びたソテツは、無造作に上着の内ポケットから『左腕』を机に投げ出した。

「・・・・・」

いくら人の死を見慣れている人間でも、いきなり仲間から土産だと言って腕を出されたら反応に困ってもおかしくないだろう。

「ソテツ・・・それは誰の腕だ?」

一番最初に硬化から解けたシルクハットの男が、返事をもらえないことも忘れて言った。

当然彼女は答えない。

しかしその代わりに、投げ出された左腕の手首を皆に見えるように掲げた。

「・・・あ、その機械は・・・!」

左腕には腕時計が巻かれていた。

レバーレンスにはないその便利な道具。そして下級盗賊達に恐れられている人物の象徴。

「それ・・・虐殺堕天使の腕か・・・!?」

こくこくとうなずくソテツ。

「お前が・・・やったのか?」

同意の仕草を示す彼女。

「すごい・・・すごいぞ!これはすごい。」

シルクハットの男は腕を抱えると、頬ずりせんばかりにそれを撫で回した。

「素晴らしい・・・腕だけなのに強力な魔力が感じられる。これを『材料』とすれば最高の人形ができるぞ!」

「お土産」に感動して狂喜乱舞している男以外は、皆全く同じ感情を抱いていた。

「なかなかやるじゃない。ソテツ。」

「そうだな・・・俺もがんばんなきゃ。」

「喧嘩なんかしてる場合じゃねーな。」

「わしも負けておれんわい。」

腕のお土産。それはシルクハットの男の材料として使われるだけではなく、しばらく顔を合わせることのなかったメンバーを、「負けられない」という感情でつなぎ合わせるのに一役買ったのだった。

そしてベラドンナが高らかに言った。

「さあ、宴を始めましょう。鮮やかで美しく、そしてとびっきり『血なまぐさい』宴をね!」





「準備はいいか?イワキリ君」

「あい大丈夫です。」

先輩の左腕が代わってから3日目。部長が全快したので俺達3人はギドー氏の家を後にすることにした。

「おい弟子、『あれ』いるだろ?玄関に運んでおいてくれないか?」

「『あれ』・・・ああ、はい。分かりました。」

「後ベルフェゴール君はどこにいるか分かるか?」

「へ?部屋で荷造りしていると思いますけど。」

「分かった。」

部長が玄関の方に消えたのを確認してから、ギドー氏が小声で言った。

「・・・さて、イワキリ君。ちょっと来てくれか。」

そして家の裏手、倉庫の方へ歩いていった。

俺はそんなギドー氏に内心で首を傾げた。

部長に言えない何か、か?・・・

あの師弟関係からしてそれは無さそうだが・・・

考えながら俺も後に続く。

倉庫の入り口で、ギドー氏は振り返った。

「君に言いたいことがある。他でもない弟子のことなんだが・・・」

「ローグさんがどうかしたんですか?」

「彼、少し二重人格っぽいところがあるんだが、気づいているかい?」

「えーっと・・・」

表面的には、部長と俺とはあくまで仕事上のパートナーでしかない。となると「知らない」と答えるのが自然なのかもしれない。

しかし相手はあの部長の師匠だ。すぐに見破られそうな気がする。

ここは正直に答えるべきだろうか・・・?

「・・・まあ、心当たりは・・・」

「だろう?まあ人間というのは多かれ少なかれ二面性を持っているものだが、彼の場合はそれだけじゃ片付けられないんだ。」

一息ついて、ギドー氏は続ける。

「魔法を教えているときに気づいたんだが、戦闘中みたいな常とは違う心理状態のとき、彼の魔力が飛躍的に上がる時があるんだ。」

「・・・え?俺魔法のことって良く知らないですけど、それって普通じゃないですか?『火事場の馬鹿力』的なものが働くんじゃ・・・」

ギドー氏はため息をつかんばかりに呆れた顔をした。

「・・・君、アンドラス国の脳筋馬鹿みたいなこと言うね・・・」

「の、脳筋・・・」

「ま、いいや。あのね、魔法の原動力となる精神力っていうのは状況や環境で大きく変化すると思われているけど、違うんだ。本当は肉体以上に融通が利かないものでね、常に鍛錬を怠らず徐々に力を上げていくしかないんだ。そのかわり、肉体のようにトレーニングを持続しなくても衰えたりはしない。が、弟子の場合は精神力の上限が激しく変動するんだよ。こんなことは普通有り得ない。」

「・・・だから『違う人格を持っている』とでも考えないと説明がつかない。ってことですか?」

「私のセラティエル国での経験と独自の研究の成果を照らし合わせて、それしかない。」

「分かりました。でも、それと俺と、どういう関係があるんですか?」

「君と弟子はただの仕事上の仲間、というわけではないだろう?友人とか、深い関係であるはずだ。」

俺は息を呑んだ。この男の洞察力はあの部長をも超えているだろう。

「・・・・なんで分かったんです?」

「決定的だったのは彼がここに君達を連れてきたことかな。あいつは自分が信用している相手以外は自分との間に『壁』を作って接するから、もし君たちが浅い関係なら、まずセラティエル国に連絡とって後続の魔導師を頼んで君との関係を絶ってから、ここに来ただろうな。そういうわけで弟子の面倒をよろしく頼む。特に二重人格のところとか、ね。彼は強いようで意外と・・・弱い。」

俺にとっての部長は完璧主義な畏怖すべき人物でしかなかったが、よくよく考えれば俺達は剣道部と文芸愛好会を掛け持ちしていたから、顔を合わせる機会が多かった。

部長が俺のことを『信頼できる』と思ってくれているのなら、それに応えない道理はない。

「やれる限りやってみます。」

「頼むぞ。」

そう言うギドー氏は、まるで面倒見の良い父親のようだった。





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