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第十四話

「やっとついたわね」

タグリヌス国裏街道の一角。刑務所のような近寄りがたさが滲み出る一軒家を、ベラドンナとソテツは見上げていた。

入り口のドアに提げられている看板だけが、そこが酒場である事を示している。

バー「盗人の昼寝」

タグリヌス国で城の次に大きいこの建造物は、盗賊団「ブルー・ワイルドエンジェル」の隠れ家である。

ベラドンナは五大陸に散らばる団員を召集する時、ここを使っていた。

「ここに来るのも久しぶりね。ずーっと飛行船乗ってたし。」

彼女は故郷の家に帰ってきたような軽い足取りで中へと入っていった。

「盗人の昼寝」はマスターが神経質なためいつもピカピカということで有名で、他の国に負けていない唯一の飲食店だった。

無論客層はひどいが。

二人は酔っ払いに絡まれないよう視線を固定しながら、カウンターへと近づいた。

「こんばんは、マスター」

マスターと呼ばれた老いた小男は、二人をじろりと睨んだ。

「ここは子供のくるとこじゃねえ。けえってくんな!」

「『緑髪小悪魔が呼んでるぞ』」

酒場のマスターは、ベラドンナの不可解なセリフに何と答えるわけでもなく、他の店員に「しばらく抜けるぞ」と言うと、背後の酒蔵への階段を上っていった。

二人も後に続く。

かなり上まで続いている螺旋階段の途中でマスターは立ち止まり、壁の燭台の一つを思いっきり捻った。

まるでそれがドアノブであるかのように。

するとレンガの壁が二つに割れ、奥へと続く通路が表れた。

行き止まりのドアが燭台の明かりに照らされて、黒くぼんやりと光っている。

「お久しぶりです、ベラドンナ様。お会いできる日を心待ちにしておりました。」

マスターがそれまでの態度とは打って変わって、深々と頭を下げた。

「そんな大げさな、2年ぶりぐらいでしょ。」

「明日とも知れぬ寿命の私にとっては、一日千秋の思いでした。」

心の底から嬉しそうに笑う彼の笑顔は、盗賊団のメンバーしか見ることが出来ない。

「ソテツも、久しぶりだな。調子はどうだ?」

呼びかけられた少女は、親指を上に向けてビシッと腕を伸ばした。

「ははは、そいつぁ良かった。」

「マスター、皆は来てる?」

「ええ。暗殺グループのメンバー全員が奥の部屋でベラドンナ様を待っております。もっとも・・・」彼はニガイ顔で続けた。

「酒盛りを始めておるかもしれませんが・・・」

「ふふふ、皆リラックスしてくれてるのね。」

奥の通路へと足を踏み入れながら、彼女は楽しそうに言った。





「おう、弟子。気分はどうだ?」

私は居間へと入った途端、師匠に声を掛けられた。

「・・・悪くは、ありません。食事もちゃんと取れましたから。」

私は視線を合わせられない。

命の恩人にして魔法の師匠であるこの人に、また助けてもらってしまったのだ。

面目ないというか、自分の無力さをまざまざと見せつけられたような、胃がむかつく気分。

剣道の試合に負けたときでも、ここまで悔しいと思ったことは無かった。

「ほんとに、すいません。義手まで作ってもらって・・・」

「ん〜まあ大変だったけど、可愛い弟子のためだ。私も一肌脱がせて貰ったよ。」

朗らかに笑う師匠。しかしベルフェゴールとイワキリは困ったように顔を見合わせている。

仕草や表情から、私の負の感情に気づいたのだろう。

「・・・おいローグ!!」

「は、はい。なんですか?」

普段師匠は私のことを「弟子」と呼ぶ。名前(と言っても偽名だが)で言う時は怒っているときだけだ。

それも、かなり。

「てめぇ命の恩人に対してその態度はなんだ。あぁ?。感謝しろと言ってるわけじゃないがそんな暗い顔される覚えは無いぜ。」

一泊入れて、師匠は続ける。

「お前が何考えてんだか、俺には良く分かる。大方情けないとかそんな事考えてんだろ?別に

反省するのは悪くないがお前はただ、沈んでるだけだ。」

「そう、でしたね。すいません。腕を盗賊ごときに落とされたのが、悔しくて。」

「だったら強くなれ。一喜一憂している暇は無いぜ。」

客観的に聞けば、腕をなくした人間にこの激励は厳しすぎるだろう。

現にイワキリとベルフェゴールは眉をひそめている。

しかし私には分かっていた。

「ええ、次は負けません。」

「そーだ、そのいきだぜ弟子。それに、人に頼ることは恥ずかしいことじゃあない。困ったとき助けてもらえるように、いつも人を助けりゃそれでいいのさ。」

叱責を糧に出来る。師匠は私のことをそう思って言ってくれているのだろう。

会話する相手によって最適な話し方を選択する。それが師匠のスタイルだった。

到底私には、真似できない。感情が雰囲気に出てしまってさえいる私には。

精進しなければならないな。

私は新しくなった左腕で頭をかきながら「分かりました。」と明るく言った。




「はやくこねーかな〜」

誰ともなしに呟かれる声。

「盗人の昼寝」秘密の宴会室には中央にテーブルが置かれ、5人の男女が談笑しあっていた。

長い銀髪とあごひげをなびかせている翁。

窓枠に腰掛けている血色の悪い少年。

目元まで包帯をぐるぐるに巻いている男。

髪飾り、ドレス、ネックレスと全てが髑髏模様の麗人。

目深に紫のシルクハットを被った巨漢。

盗賊団の暗殺グループ「ダイスの目」の構成員である。

「ソテツはベラドンナ様と一緒に来るんだっけ?」

少年が翁に聞いた。

「そうじゃ。あの娘も、少しは話すようになったかのう・・・?」

「そりゃ無理だ爺様。ってか、あいつ喋れないんじゃないかな。あいつの声聞いたことある?」

「それは、ないな。」

「だろ?喋ってくれたらいい線いってるんだけどな〜」

「・・・・は?何がいい線行っておるんじゃ?」

「あいつ顔は地味だけど悪くないし、あのショートカットがすごい似合ってるんだよな〜。ふふふ。会えるの楽しみだな〜」

「私は、ベラドンナ様の方が良いと思うけどね・・・」

イヤリングをいじりながら、美女がポツリと言った。

マントの少年が、ムキになって突っかかった。

「例えば?具体的な説明を要求する!」

「例えばって、全部よ。」

「あら、それは嬉しいわね〜」

部屋の中の誰のものでもない、よく通る声が返答した。

美女が振り返った。

ドアに触れることなく部屋に入れる人物。

その容姿とカリスマ性で、10代にして盗賊団をまとめ上げる天才。

ベラドンナが、壁に寄りかかって微笑んでいた。

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