表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/29

第十一話

船の甲板、船首付近にたどり着いた俺は一息ついてベルフェゴールを下ろす。

今まで抱き上げられていたためか、ベルフェゴールは顔を真っ赤にして俯いている。

「あの・・・イワキリさん・・・その、さっきは無茶言ってごめんなさい。私・・・恥ずかしいです。」

・・・顔赤くしてたのはそれが原因ですか。

俺は無言でワイヤーを取り去る。絡まっているところは無理やり刀で切断した。

そして深呼吸して、言った。

「よく聞いてくれベルフェ、知ってのとおりこの船は浮いている。」

「え!!そ、そうなんですか!?」

下を覗き込んで驚きの声を上げるベルフェゴール。

・・・もしかして知らなかった?

海だと思っててここから泳いで逃げるつもりだったの彼女?

だからあんな強気な発言したのか・・・

そりゃ、何人いるかも分からない盗賊全員倒すよりそっちの方が楽だもんね〜

「・・・まあ、そういうわけで、逃げられない。」

「じゃ、じゃあ・・・・」

「そう、敵を全員倒して船を乗っ取るしかない。」

「私はどうすれば・・・」

「ベルフェ、君は俺を信頼してるかい?」

「そりゃもちろん。」

「ならここは俺に任せてくれ。後俺から離れるなよ。」

「・・・分かりました。」

一緒に戦えないのが不満な様子だったが、武器が無い以上彼女にはそうしてもらうしかない。

「作戦会議はもうお終い?」

黒い少女の勝ち誇ったような声が響く。

見回すと今まで働いていた盗賊が、武器を片手に俺達を取り囲んでいた。

包囲網は距離にして約10m。

数は・・・300、といったところだろうか。

きついぜこれは。

俺は舌打ちした。




「さてと・・・何か言い残すことある?」

私は取り敢えず聞いた。

私は別に楽観主義者というわけではないが、300対1ではどう考えても勝つだろう。


魔物の巣窟に攻め入らないのは、力が無くて落とせないからではない。

あまり犠牲者を出したくないからだ。

盗賊と言うのは隙を突いて盗み出すのが本分。戦士のような戦闘屋ではない。

といっても無論、見つかったら戦闘になるわけだからちゃんと訓練はしている。

しかしそれは人間相手の訓練である。魔物と戦う訓練はしていない。苦戦必須。

中には暗殺を得意とする戦闘に長けた「異能持ち」がいるのだが、悲しいことに全員が対多数戦闘には不得手な能力だった。

隣の赤いジャケット着たソテツちゃんもそう。

ワイヤーを操る技術はほとんど神域に達しているが、突っ込んでいくような戦闘スタイルではない。

と、私が思考していると、向こうから返答があった。

「もっとさ、面白いセリフ無いわけ?それじゃあ月並みすぎると思うよ。うん。」

あくまでペースを崩さないか。

私は唇を吊り上げる。

「あなた達は絶望の淵に立たされているわ。例え私達全員を殺せたところで、決して逃げ切れない。さっきあなたがセラティエルに仕官したのを、どうして私が知っていると思う?」

そう問いかけるとイワキリははっとしたような表情になった。

そう、仕官の話は私が知りうるはずの無い情報。

それを私が知っている、というのはつまり・・・

「王宮に内通者がいたのか・・・?」

「よくできました。私達盗賊団はあらゆるところに仲間がいるの。いつかはあなた達を見つけ出して殺すわ。」

私は言葉を切り、続けた。

「今からでも遅くない。ベルフェゴールを差し出して私達の仲間になりなさい。」

もう、この男は断れない。

船を乗っ取っても逃げ切れないと分かれば、選択肢は1つしかない。

私はとっておきの笑顔を・・・向けようとした。

『あれ』がイワキリの背後の上空に浮かんでいるのを認めるまでは。

「そんな・・・・どうして、どうしてこんな時に限って・・・」

思わず呟いてしまう。

本当に、今だけは来て欲しくなかった存在。

それが来てしまった。





「なんだ・・・?どうしたんだ?」

今まで戦闘態勢を取っていた盗賊たちが突然動揺し出したからだ。

俺は後ろを振り返った。

「ここぞ、という時に助けに来る・・・英雄ヒーローの王道、というやつだな」

「なんで先輩がここにいるんですか・・・」

盗賊を動揺の原因は、俺の背後の空中に浮かんでいる部長だった。

鉄の杖の上に乗ってサーファーの様に船に追いすがっていた。

ベルフェゴールが事の展開についていけずに部長に問いかける。

「あ、あの、あなたは・・・?」

「話は後だ、とりあえずこの杖に飛び移れ。」

「わ、分かりました。」

「っ、あの男を殺りなさい!!」

その言葉に我に返った盗賊たちが、部長に向けて矢を放ったりナイフを投げつけたりした。

「邪魔だおめぇらあひゃひゃひゃひゃ」

戦闘状態という異常な心理の中で、部長も「凶暴」な一面を見せ始めた。

部長の目の前を横殴りの突風が吹いて、盗賊の攻撃を全て吹っ飛ばしてしまった。

「てめえら俺を殺そうとするって事はよ、自分の死ぬ覚悟もできてるって事だよなぁぁぁぁ!」

部長は今まで自分の背後に回していた右手を掲げた。

その手にはバスケットボール程の火の玉が乗せられていた。

そして、盗賊の方に投げた。

「俺からのプレゼントだぜぇぇぇぇえ!」

・・・今後絶対に部長は敵に回さないようにしよう。

火球は拡散し、あわてふためく盗賊達を、まるで抱きしめるかのように包んだ。

「早く飛び移るんだ!」

その声に我に返り、ベルフェゴールを促して自分も杖に飛び乗る。

3人を乗せた鉄杖は方向転換し、一気に戦場から離脱した。





「まったく、最悪ね、ほんと、最悪。」

3人が飛び去った方角を見ながら、私はため息混じりに言った。

3人が視界から消えた時点で手下を包んでいた火炎は消失していた。全員軽症。

無論そんな事じゃ私の心は晴れない。

さっき「逃げ切れない」と言ったのはハッタリ。仲間は各地に多くいるが、あの3人を相手に出来るのは正直少ない。

イワキリを動揺させて、仲間に引き込めるようにと言っただけ。

でもその小細工も「虐殺堕天使」の登場で無駄に終わった。

「でも殺す、絶対に殺すわ。」

各地に散らばる密偵では殺せなくとも、暗殺専門の「異能持ち」なら殺せる。

この時点で私の「無益な殺生はしたくない」という甘い考えはどっかに消えていた。

目を付けた物は、手に入れるかぶっ壊す。

それが有益か無益かなんてことは関係ない。

引き込めないのなら殺すまで。

それによって私のプライドは保たれる。

今鏡を見たら、きっと私の赤い瞳は怒りと期待で宝石のように輝いているだろう。

私の口元が自然と、綻んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「英雄になろう」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ