笑顔
暗く独白に近い短編小説です。
他のサイトでも公開していました。
真夜中に独りきり。
ベッドで上半身を起こした俺は腕に取り付けられた管を、まるで人事のように眺めていた。
する事もなく、そっと目を閉じれば暗闇の中、すぐそばに君の笑顔が見える。
思わず名を叫びそうになり、唇を噛みしめる。
頬に熱い雫が零れるのを拭うことも出来ずに、俺は荒れる呼吸を整えようと必死で息を吐き出す。
何度も何度も、繰り返し――。
その度に俺は絶望に捕らわれた。
目を開けると、君の姿はどこにもない。
ぼやける視界を払おうと何度瞬きをしようとも、君の笑顔は2度と見ることが出来ないことに気づかされるのだ。
だって、君は死んでしまったから。
一緒に通った通学路、ともに学んだ教室、初めて結ばれた君の部屋――。
どこを探しても君の笑顔は見当たらない。
『オレ達、親友で恋人なんだぜ。最強の関係だと思わねぇ?』
そう言ったのは君なのに。
何故俺は独りなんだろう。
何故君はいないのだろう。
「――っ」
吐気が込み上げ、ベッドの上で嘔吐を繰り返すも食物を口にしていない今、出てくるのは胃液だけだ。
時間の間隔がなくなった頭では、もはやいつから食事をしていないのか考える事すらできない。
あまりにも突然すぎる別れは、俺の全てを奪っていった。
「じゅ、んや――――っ、淳也……!」
何度名を呼ぼうとも、応える声はない。俺が名を呼ぶたびに、勝ち気な目を緩ませていた君は俺を置いてけして手の届かない遠くへ行ってしまった。
ふいに体の力が抜け、ぐったりとベッドに倒れ込む。
君の声が。繋いだ手が。眩しい笑顔が――。
恋しくて堪らない。
『ずっと、一緒にいような!』
耳の奥に残る君の声。
「……あぁ、淳也。ずっと、一緒だ」
――愛してる。
呟いた声は力無く。
暗闇に吸い込まれるように消えていった。