表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェアリーテイル・トレック  作者: 片桐奈海
第1章 ここはどこですか?
6/28

5


 ……夢、なんだよね?

 なら、思いっきり好きなことしてもいいんだよね?

 ……じゃあ、ゲームの世界の中でリアル攻略してもいいんだよね?


 突然、花梨の心にムクムクとゲーマー魂が湧き上がりはじめる。

 ボタンを押すことでしか関わることのないキャラクター達が目の前にいるのである。


 好奇心は猫をも殺す。


 そんな言葉は花梨の辞書には書かれていなかった。



「助けて下さい!…頼れる人がいないし、行く当てもないの。もうどうしたらいいか……」

 ゲーム中のプレイヤーキャラのセリフである。選択肢の一つで、2人の好感度が微量上昇する。

 ゲームではプレイヤーキャラの表情を見ることができないが、おそらく困ったような表情だろうと判断して困り顔を作る花梨。

 花梨はうろ覚えのゲームを必死に思い出していた。

 あれだけやり込んだゲームなのだからなんとか思い出せるはず、とフル回転で記憶を探る。

 たしかこの後の流れは、ひとまず主人公の話を聞くことにした2人とランディアに移動する。ここからちょっとしたロールプレイングパートになり、その道中で敵モンスターとエンカウントして戦い方のチュートリアルが入る。チュートリアルが終了しモンスターを倒したら移動が完了し、シミュレーションパートへ移行。という流れだったはず。


「…困ってるのは事実のようだし、ひとまず事務所に連れて行こう。それから詳しく話を聞く。それでいいか?レッド」

 クラウスはレッドを諭すように言う。

 しばらく考えたあと、レッドは左手で頭をかきむしりながら苦々しい表情で、

「……あぁ、くそっ!しょうがねぇな」

 と右手の武器を腰の鞘に納刀した後クラウスを見ながら、

「こいつに感謝するんだな」

 そう花梨にむかって言い放った。

 苦笑いのクラウスは、

「カリンさん、といったね。すまない。レッドは……彼は少し喧嘩っ早いんだ。僕はクラウス・ゲインズブール。そしてこっちがレッド・アーヴィング。申し訳ないんだが、僕たちと一緒に来てほしい。ランディアの郊外に僕たちの家があるから、そこで話をしないか?」

 穏やかな声で花梨に話しかける。

「分かりました」

 花梨はその申し出を素直に受ける。

 むろん、ゲームの流れそのままである。


 

 レッドが少し先を歩き、花梨とクラウスが横並びに歩く。

 ゲーム通りの流れだとすれば、この移動中にモンスターと遭遇するはずである。

 ちなみに主人公、というか花梨の初期装備はダガーナイフである。この武器は後々ジャンルも含めて変更可能で、当時好んで選択していたのは魔術系の武器である魔銃まじゅうと近接武器の太刀だ。

 森の中は小鳥のさえずりが聞こえる程度の静かなもので、草を踏み進む音が一際大きく聞こえる、そう花梨は感じていた。

 足音が目立つように聞こえるなんて、まるでホラーゲームのようだ。

 花梨は昔やったゲームを思い出しながら歩き続けた。


 ガザガサっっ!


 突然、草の揺れる音。

 先行しているレッドは音の方向に警戒して足を止める。

 続いて花梨とクラウスも足を止め、音の方向に目を向ける。


 草をかき分けて現れたのは、先ほどのボワと呼ばれているモンスターだった。ただ、先ほどと違うのは1匹だけではない、ということである。

 ゾロゾロと現れたボワの数は全部で13匹。

「……ひっ!」

 花梨は目の前の光景に引きつるような悲鳴を上げた。

 鼻息荒くよだれを垂らす角付き猪の大群。

 普通に生活している人が見ることのないであろう光景だ。

 ゲームの画面を通してならモンスターは何度も見ていたし倒してきた。でもそれはあくまでもゲームの中。いくら夢とはいえ果たしてリアル戦闘初心者に倒すことができるのだろうか。

 花梨はいつの間にか太ももに装備されていた鞘に納められたダガーナイフにゆっくりと手を伸ばす。


「ボワのむれか…。よかったぜ、依頼が果たせず帰るとこだった。お荷物はいるが、ちゃっちゃと片付けるか」

 ニヤリと笑いながらレッドは腰の後ろのグルカナイフ『バーサーカー』を抜いた。花梨を威嚇したときは1本しか使用しなかったが、今は両手にそれぞれ持っている。

 双剣そうけん使い。

 レッドは二刀流というやつである。

「ああ。後日にするつもりだったが手間が省けたな」

 そう言ってクラウスは、腰から右足に向かって付いているガンホルダーのような鞘から武器を手にした。

 剣の柄の部分が拳銃の形をした武器、ガンソード『ラファエル』である。


 確かにゲームの流れの通り敵とエンカウントはしたが、操作のチュートリアルは果たしてどうなるのだろうか。これはコントローラーでプレイするものではない。

 とりあえず花梨はダガーナイフを構えた。

「ど……どう戦えばいいの?足手まといは嫌なの!」

 震える声で言っても説得力はないが、花梨も必死である。


 顔を見合わせて一瞬2人は逡巡したが、片方の口角を上げニヤリとした笑みのままレッドは花梨に楽しそうに叫ぶ。

「力を込めて思いっきりナイフを振れ!そーすりゃなんとかなる!」


 まったく優しくないチュートリアルがあったもんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ