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差し出された手は男っぽいゴツゴツした中にもキレイな印象を持たせるような手。指はスラッと伸びているが節が男っぽさを演出している。
いまいち状況が把握できない花梨は、目の前の手を見てそう思っていた。
「立つの?立たないの?」
手を出した男はいつまでも手を掴もうとしない目の前の女の子に次第に苛立ちを抱く。
「た……立ちますっ!!」
慌てて目の前の手を掴み力を入れて立ち上がろうとする花梨。
グイッと力強く体を上に持ち上げられる。
どこにも痛みなどは感じない。
立ち上がった花梨は目の前にいる助けてくれた人にとりあえずお礼を言わなければ、と思い相手の顔を見た。
「…………あ、あの、その、……ありがとう……ございます」
しどろもどろになるには充分なイケメンでした。
燃えるような赤毛は後ろ髪だけ少し伸ばしているようで一つに束ねられている。赤の中にちらちらと太陽の光に当たって輝くように金髪も見える。まるで金を散らしたかのようなツートンカラーだ。
髪の色に近いえんじ色の瞳は切れ長でその鋭さは少しガラの悪い印象すら与えるが、それを補って余りある色気も持ち合わせている。
端的に言うならば、色っぽいガラの悪いイケメン、である。
口の片端だけを上げるようにニッと笑いながら、
「いや、どーいたしまして」
と言って倒したイノシシのような動物を一瞥した。
花梨も目線の先の動物をチラリと振り返る。
鼻の両横に小さな角があり、体長はだいたい1メートルくらいだろうか。
花梨はどことなく見覚えがあるように感じた。モンスターを狩るゲームだろうか、はたまたファンタジーゲームの敵だっただろうか。
どちらにしても、現実でもテレビの中でも動物図鑑でも見たことのない動物であるのは確かだ。見たことがあるのは二次元のゲームの中。
じっと動物を見る花梨に男は、
「初めてみたのか?ボワ」
「ボワ?」
聞き覚えのない言葉に花梨はそのまま聞き返した。
「いくら村娘とはいえ見たことなくても名前くらいは知ってるだろ。下級モンスターなんてちょっと町を離れればすぐ出てくるんだから」
「下級モンスター?」
ふたたび聞き返す花梨。
花梨の目の前にいる男は、それすら知らない村娘のような女を怪訝な表情で見下ろした。自身が180センチメートル程あるためか目の前の村娘のような女はとても小さく感じる。
そればかりか、女の衣服は見たこともないようなものである。
村娘であるかどうか怪しく感じた男が腰の後ろにある武器に手をかけたとき、少し離れた所から誰かを呼ぶ声が上がった。
「レッド!いるのか?」
少し低めの耳に心地よい声に聞き覚えのある花梨は、これは好きな声優の声に似ている、と感じ声の方向を見やった。
「!!!」
声の少し後に姿を表したのは、これまたイケメンでした。
少しだけふわりとしたクセのついた金髪は短すぎず長すぎない程よい長さで、風で揺れる度に光を反射して輝いている。
グリーンの瞳は丸みのある優しそうな雰囲気を持っていて、絵本の王子様のような印象をあたえる。
レッドと呼ばれた赤髪の男は、
「クラウス!来るな!」
と、右手を武器に触れたまま花梨から一歩距離を取った。
「何者だ?」
低くドスのきいた声で花梨と向かい合うレッドは殺気を放つ。
表情も纏う雰囲気も鋭いものに変化した目の前のレッドと呼ばれた男。花梨は恐怖を感じながらも、どこか冷静に状況を考えはじめていた。
これは夢なのだ、と。