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フェアリーテイル・トレック  作者: 片桐奈海
第2章 恋と魔術とレベル上げ
14/28

6

初めて感想いただきました!ホントにありがとうございます。



 翌朝、花梨はレッドとクラウスと共にトラブルバスター見習いの申請の為、ロンバルディア城へ向かうこととなった。

 ロンバルディア城は首都ランディアの西部に鎮座し、多くの木々に囲まれ背後には湖が広がっている。ゲーム設定集によれば城のモデルはドイツのノイシュバンシュタイン城だとか。

 同じランディアとはいえその面積は広く、エターナルダスクの事務所は南部にあるためちょっとそこまでのお使い程度の距離ではない。

 なので3人は今、馬車の中にいる。

 辻馬車と呼ばれるタクシーのようなもので、思いのほか乗り心地は悪くない。

「馬車って初めて乗ったけど、もっとお尻が痛くなるものだと思ってた」

 馬車初体験の花梨は顔にwktkワクテカと書いてあるんじゃないかというくらい輝いていた。

「カリンのいた所は馬車は無かったの?」

 隣に座るクラウスが尋ねた。

 レッドは向かい側の座席で横になっている。

「わたしの世界では、ほとんど過去の乗り物なの。観光用で残ってるものもあるけど、わたしは乗ったことない。この世界ははじめてのことばかりよ」

 コスプレも含めてね、と心の中だけで毒づく花梨。

「それにしても、さっきまでの繁華街がうそみたいに緑が増えてきたね。事務所の窓からちっこく見えてたお城が近い、というかデカい」

 朝早くから乗り始めて、そろそろお昼に差し掛かろうかという頃合い。さすがに長時間乗ると腰が痛くなるのは仕方がないことだが、その痛さを上回るような光景に花梨は興奮しきりだ。


 前日に花梨はクラウスから、あそこが城だよ、と窓の外を指して説明されていた。

 その時は遠いこともあるせいか、中世のお城だ、くらいにしか思わなかったが、いざその巨大さを間近で見ると得も言われぬものを花梨は感じていた。

 もしも海外旅行をしてこういった城に観光で来たら、花梨のことだからきっと「すげーっ!ゲームみたい!」と大騒ぎしただろう。

 でも、今目の前に近づくこの城はゲームみたい、ではなくゲームの中の物そのものだ。

 ゲーマー花梨は心を躍らせる。

 王城の入り口まで来た馬車の御者は乗客に声をかけ、片道分の運賃を貰う。クラウスは少し多めに金を渡し、帰りも乗る事を伝え待つように言った。

 御者は思ったよりも実入りのいい仕事であったことに機嫌を良くし、黙って頷いた。


 花梨は門を目の前にするとそびえ立つ巨大な建造物に圧倒された。

 東京の大きなビルの比ではない。皇居の敷地内に目一杯スカイツリーを建てたような威圧感を持っている。

「……スゲー………」

 口から漏れるように出た感嘆の言葉。

 扉の大きさも普通じゃない。

 さすが二次元世界の建造物である、なるほどスケールが大きい。

 完全なおのぼりさん状態の花梨は呆けていて先に進む気配がない。それを見たクラウスはクスリと笑い、先に進んで扉を開けた。

 重厚感のある扉はあっさりと開き、クラウスは慣れた手つきで城の中へ花梨をエスコートする。

 レッドもクラウスもロンバルディア城には来慣れているのだろう。実は花梨達が入ったあの入り口がトラブルバスターの有資格者専用の出入り口となっていたのだ。

 中に入るとメイド服を着た女性が2人を見て顔を確認してから奥へと案内する。案内されている間花梨はキョロキョロキョロキョロ城の中を観察していた。どこもかしこも豪華絢爛である。

 案内されは先には小柄な老人の男性が1人。

 ニコニコと笑うその人の耳は少しとんがっていて横に長い。

「……エルフ耳の可愛いおじいちゃ…」

 花梨は、まさかの存在に大声で叫びそうになり慌てて口を両手で抑えた。

 突然大声を出しかけて口を抑えた花梨を不思議そうに、そこにいた全員が見る。


 ……………。


「話を続けましょう」

 気を取り直した花梨は、何事も無かったように冷静に話し出した。

 もちろん追求する人なんていないため、他の人も何事も無かったように話を始める。

 案内してくれたリアルメイドは一礼をして去っていった。

「久しいな、レッド、クラウス。今日はどうした?」

 エルフ耳の老人が2人に言った。

「あぁ、相変わらず暇そうだな、師匠は」

 レッドが皮肉っぽく、でもフランクな感じで老人に言い返した。

「師匠…?」

 花梨が小さな疑問を小声で口にすると、それを聞いていたクラウスが、

「彼はね、レッドをトラブルバスターとして一から育てた人なんだ。トラブルバスターの中でも重鎮で、今では育成や素質ある者を見いだすことを専門にしてる。多分モンスターと戦ったら、今でも僕達より強いと思うよ」

 と、笑いながら説明する。

 いつもニヒルでクールなレッドが心を砕いてフランクに話しているのは珍しい。まるで尊敬する父親と話す子供のような顔をしている。

 ゲームのラブラブエンドでも見せないような表情に、激レアだ、と思いながら眺める花梨。

「師匠、今日はさ、見習いの申請に来たんだ。こいつがそう」

 親指で花梨を指差しながらレッドは続いた。

「素質はあると思うぜ。ダガーでボワを倒したこともある。とりあえず見てくれよ」

 それに続くようにクラウスも、

「ドイルさん、僕からもお願いします」


 それを受けたドイルと呼ばれたエルフ耳の老人は、花梨を値踏みするように見る。

「……フム。なるほどな。お前たちが言うくらいだ、さぞかし良いものを見せてくれるんじゃろうて。では、さっそく中庭へ。終わるまでに書類を準備しておこう。おぬし、名はなんと申す?」

 突然問われて驚く花梨だが、すぐに答える。

「花梨です」


 これから中庭でいったい何をするのか不安はあるけど、やるしかない。

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