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ラグクエの世界ではロールプレイングのファンタジーゲームには付き物のキャラクターレベルがある。敵を倒して経験値を得て、徐々にレベルが上がっていく。
レベルを上げることが発動条件の恋愛イベントも多く存在していたため、レベル上げは重要である。
それでなくとも、ある程度モンスターを倒していく上ではレベルを上げなければステータスも上がらず必殺技を増えないため必須事項であった。
だが、まずプレイヤーはヒロインの攻撃属性を決める必要がある。
切断、打撃、銃撃。
それぞれにいくつかの種類の武器があり、1つ選択して武器のレベルも上げていく。途中で別の武器に変更すると一から武器レベルを上げる必要があるため、花梨は多くても各ジャンルを一つずつ程度しか使用していなかった。
その中から自分がモンスターを倒すにあたって使いやすいもの、それははたして何だろうか。と、花梨は考えていた。
トラブルバスターの見習いとなるならば戦闘は避けては通れない。
花梨は彼らと出逢った時にある程度戦う意志があることを示してしまっているため、武器選びはかなり重要となると考えている。
花梨は、ここを使え、と与えられた部屋で考える人となっていた。
部屋は6畳程の広さで、簡素なベッドとクローゼットがあるだけだ。簡単なゲストルームといったところだろう。
個室があるだけでもありがたい、と花梨はさっそく引きこもりになった。
そんな花梨の部屋を懸念顔で見るクラウス。
「彼女、大丈夫かな?突然知らない世界に来て不安じゃないことは確かだろうけど」
心配そうにつぶやいた。
「………聞いたことがあるんだが」
真剣な表情でレッドが話し出す。
「異なる世界を繋げることのできる上位クラスのモンスターがいるらしいって話」
それを聞いたカインは腕を組み眉間に皺を寄せるように険しい表情で、
「俺も父に聞いたことがある。人が手出ししてはいけない場所に神獣がいるって。そこは魔の者と神の者が生まれ出地。人が足を踏み入れることを禁じられた場所」
「ずいぶん大層な場所だなぁ」
それを聞いたレッドは笑いながら言った。
「まだ確証の乏しい情報だ。彼女には伏せておこう。それよりも、これからどうするかだ。あの服では目立ってしまうし」
クラウスが懸念顔のまま考え込む。
「その辺で適当に買えばいいだろ。まぁ、もし戦闘服がいいってんなら話は変わるがな」
「そこなんだよ。彼女はおそらくモンスター達と戦う気でいる」
軽口のレッドに対してクラウスは困ったとばかりに頭を抱える。
トラブルバスターになるためには資格が必要で、見習いになるにも届け出が必要となる。そこで初めてモンスターと戦う術を与えられる。
花梨はそれを知らず、どの武器がいいかを悩み続けている。
「あいつ、筋はいいぜ。仕込めばそれなりにやっていける」
花梨の部屋を顎で差し、レッドは言った。
「しかし………」
反論しようとするクラウスに、
「グダグダ考えんなよ。それに、お前が決めることじゃない。あいつが決めることだ」
レッドが、スッと目を細めて言った。
バタンっ!
「決めたっ!!やっぱり魔銃にするっ!」
突然ドアが勢いよく開き、中から現れた花梨は嬉々として叫んだ。
3人の心配をよそに、花梨はとっくに戦う気でいた。むしろ戦わない選択肢を考えもしていないのだ。
あぁ、ロンバルディア城に行って申請してこないと……。
クラウスは諦めたようにそう思いながらも、表情は明るかった。
心配をしてはいたが、彼女は普通の女性とは違う、と考えていたからだ。
自分の知っている女性は、ドレスで着飾って化粧に余念がない貴族たちで、より条件のいい男と結婚することしか考えていないような女性ばかりだった。
モンスター討伐なんて聞いたら、汚らわしい、野蛮、としか言わないだろう。
そんな女性たちの求愛から逃れたクラウスは初めて、他とは違う、と思える女性に出逢った。震えながらもモンスターに立ち向かう彼女は、とても強くクラウスの印象に残ったのだ。
彼女は僕が守るべき人なのではないか。
クラウスはなんとはなしにそう思い始めていた。