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3.目覚めよと呼びかける声   ◆3の1◆

 夕食を供された後、天幕を出ると、ジェニというあの娘が私の後について来た。


「地面は乾いているが、寒空の下で過ごすことになるぞ」


「ライト様のお傍におります」


「アイシャー様の命だからな」


「そうお考えになっても結構です」


「そもそも私は何をすればいいのだ?」


「その時になればお分かりになります」


「その時って何時だ?」



 焚き火の側に置いた鞍と毛布の場所まで戻ると、サトゥースが座って待っていた。


「その娘に暖めてもらって夜を過ごすというわけだな、ライト」


「代わりたいのか? サトゥース」


「いや、俺はハサスの女と寝るほど日頃不自由はしていない」


「ふん、お前ではこの娘も嫌だろう」


「それより俺はお前の考えを聞きたい」


「何のことだ?」


「アイシャー様はああ言われたが、襲撃は本当にあるのだろうか?」


「おいおい、この娘の前でそんなことを言っていいのか?」


「かまわぬ! ハサスの民だというのがまことならどこで話しても姫君には筒抜けだろう」


「なるほど、すべてがアイシャー様の戯言ざれごとかもしれぬと言う訳か」


「それにしては話が大き過ぎると思う。しかし、なにしろキタイの国内のことについては、誰も確かなことは知らぬのだ。商人どもは確かに行き来しておるが、まつりごとに関わる奥底は知らん。また知らんでも商売ができるというのが、あの国の恐ろしいところだと……、これは王宮出入りの者が言っておったことだ。そいつはキタイと結構大きな取引があるのだがな」


「う~ん。ジェニ、お前何ができる?」


「ハサスの者だとあかしせよというのですか?」


 そう応えると同時に、ジェニは私の喉元に冷たい物を押し当てた。それは短い矢の先に付いた返しの無い矢尻だった。


「なるほど、ハサスの女は危険だな」サトゥースの奴が嬉しそうに呟いた。

「ところでライト、襲撃があるとしたら何時だと思う?」


「そんな物、どこに隠し持って……」


ヒュッ! 「来ました」ジェニの投げた矢が草むらの中の何かに当たった。

 私は鞍から自分の銃を抜き出した。暗闇の中を逃げていく気配があった。しばらくして馬たちが怯える鳴き声が聞こえた。

 サトゥースがどこかへ駆け出していった。


「敵か?」間抜けたことを尋ねてしまった。


「少人数のようでした。様子見でしょう」


「本隊が来るのか?」


「それでしたら間を置かずに襲って来るはずです」


「このようなことに慣れているのだな」


 馬を落ち着かせるよう指示する声が離れた所から聞こえた。武器をガチャつかせて走り回る大勢の物音がした。


「ハサスの民は、襲うことにも襲われることにもなれております」


「どんな暮らしを、いつもはしているのだ?」


「私共は一ヶ処に定住せず、諸国を流れる民です」


「ふぅむ、ロマたちのようにか?」


「表向きは色々な生業なりわいをいたしますが、なにより我らのもといは武の民です。ただ流浪するだけのロマの者たちとは異なります。危険な仕事を請け負うという意味ではむしろ乱破者に近いでしょうが、乱破は様々な出自の者たちの寄り集まりです。我らとは使い道が違います」


「使い棄ての乱破とは違うということか?」


「いえ、我らには我らの、乱破者には乱破者の使い道があるというだけです。何より我らは、生まれて直ぐからハサスとして育てられておりますゆえ」


 焚き火の所へ戻り、薪をつぎ足した。まだ夜は長い、火を絶やすわけにはいかない。


 それから私は銃を片手に持ち、辺りを巡視するために歩き出した。


2013.09.23.一部訂正

2014.02.20.改行部分訂正。

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