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2.夢見る人《フール》       ◆2の5◆

「アイシャー様、これではまるで手足を縛られ目と耳を塞がれているようなものではありませんか。私を何のために使うおつもりなのですか?」


「お前は賢い男だ。だが賢過ぎはせぬ。手頃な駒となるだろう」


「傭兵として仕事せよということでしょうか?」


「お前一人でか? 手勢としてはもうサトゥースがおる」


「サトゥースとその部隊ということで?」


「そうだ。そして戦いの能力だけなら、お前は役不足だ」


 私は天幕の端に控えている宦官を見やった。


「エディだけではない。私の引き連れてきた者共はすべてハサスの民だ。戦闘言語を知らぬお前では共に戦うこともできまい」


 ハサス、それは沈黙したまま驚異的な戦闘力で死を恐れず戦うという伝説的な一族だ。その姿を目にしたという話なら、傭兵仲間から何度か聞いたことがある。


「戦闘言語ですと……?」


「ハサスの民がお互い同士交わす言葉は、知らぬものには聞くことができぬ」


「そんな恐ろしい秘密を私に漏らされるとは……」


「お前が知りたいと願ったのではないか」


「……では、私に何をお望みでしょうか?」


「ふむ、まずは目隠しになることだな」


「何から何を隠せばいいのでしょうか……」


「先程も言ったように、キタイには六つの辺境王国があり、帝国本体も六つの行政区と皇帝直轄区に分たれている。辺境王国には辺境王が、行政区には長官が、直轄区には大臣が配置される。これらはすべて実力ある者が任じられるが、その職に就くあたっては何らかの形で皇帝の血統と姻戚を持たねばならない」


「姻戚…」


「妾のように元々血の継がりがあれば必要ないが、そうでなければ男は嫁を、女であれば婿を、宦官であれば養子を、血筋から迎えなければならぬ」


「もし、その男が既に妻帯していたらどうなります?」


「すべて殺すのじゃ」


「?」


「帝室と姻戚を持つというのはそういうことなのだ。無論もしその女との間に子があれば、それも殺さねばならぬ。辺境王に、あるいは行政区の長官になるということはそういうことなのじゃ」


「目隠しするべき相手はキタイにいるということですか?」


「表向き妾は、協定の質としてトゥラン王の元に送られることになっておる。だが、カラ・キタイの王権は今ある老人の手にあってな、状況を考えると次の辺境王は我が父ということになりそうなのだ」


「では……」


「そのようなことになれば、妾は死を賜ることになる」

 昨日、ではなくもう一昨日、まで四日間ほどインターネット環境の無いところに居ました。その間、予約掲載していましたが、戻って見直すとミスが見つかり、一部訂正いたしました。


2014.02.20.  改行部分訂正。

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