表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/165

2.夢見る人《フール》       ◆2の1◆

 ジュガダイの邸での夕食から五日の後、姫君と側仕えの者達、サトゥース隊長率いる六十人ほどの騎兵と、荷駄隊の三十人余り。そして私の合計百十余名の一行が町を出た。


 気がつくと私はキャラバンの先頭で馬に跨り、オアシスの街外れを出るところだった。旅装はすっかり整えられ、馬の鞍には私の銃があった。私の隣で護衛隊長のサトゥースがしきりに後ろの隊列を気にしている。


 姫君とその随員の乗る馬車の前後に護衛の兵士たち。その後ろに荷運びの馬車。さらにその後に、このキャラバンに同行することで護衛を雇う費用を節約しようという魂胆なのだろう、小商いをする商人たちの荷馬車が続いていた。


「あの、後ろについてくる連中から賄賂を貰っているだろう」

サトゥースに馬を寄せて尋ねると、奴は視線を外して答えた。

「ついてこれねば捨てていくと言ってある。邪魔にはならん」

「相場どおり出させたんだろうな。私の分け前は五デナリでいいぞ」

「何を言うか、五日間も腑抜けていたくせに。俺とジュガダイで手筈も何もかも片づけたのだ。お前の取り分などあるものか」

「五日間だと!……」

「どうした。黒蓮の夢はそんなによかったか? 昼と夜が何度過ぎたか覚束ないほど。……名高き冒険者とは聞いてあきれるわ……」

 口髭を左手の親指で擦りながら奴はそう吐き捨て、馬頭を翻して隊列の後方に早駆けさせて去った。


 五日間の記憶が私には残っていなかった。ジュガダイの邸で接待を受けていたことは憶えている。

 あの時、姫君に何を言われたのだ……。



「お前のためにここからキタイに引き返すつもりなどないぞ。お前がいずれかの筋に繋がっていようと、生身の男には違いあるまい。妾に無礼を働こうとしたという理由を付ければ、エディにお前の首をねさせることなど簡単じゃ。路々気を付けるがよい」


 姫君の微笑みは臈長ろうたけたものだったが、私の背筋の冷たく嫌な気配は増すばかりだった。この場は逃れることができたようだが、いつ何時首と胴体が離れ離れになるかもしれぬような旅はまっぴらだ。

 今夜のうちにここを離れるとしよう。そう考えた……。

 だが、私はまだこの姫君を甘く見ていた。


「おやライト殿、逃げることなどできぬよ。ジェニ!」


 呼ばれて、後ろに控えていた少女が私の前に進み出てきた。姫君よりはずんと優しげな微笑みを浮かべて。


 少女は右の掌を軽く握ると、できた拳の親指側を己の口にあてがい、小指の側を私の方に向けた。そして握った拳の中にふぅっと息を吹き込んだ。

 間抜けにも少女の黒い瞳に見とれていた私の顔に、細かな煙のようなものが吹きかけられ、私は思わずそれを吸い込んでしまった。


2014.02.19.  改行部分訂正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ