4.朝と昼と晩と ◆4の7◆
納屋の中は地獄の竈のように燃え盛る炎でいっぱいだった。馬車が隠されていた空間の片側には、馬の寝藁用の束が積み重ねられていた。だがそれよりも先に、モルの棺箱のクッションとして詰め込まれていた香木の鉋屑が燃え出した。揮発性の油分を多く含むそれは、炎の舌が近づいただけで爆発的に発火した。火の勢いに舞上げられた火の粉が、納屋の中を満たしていた。
ゴーッ、ゴーッ。納屋の扉があったところから、火炎が轟音を立てて吹き出した。その中に、幽鬼がよろめきながら棺箱を担ぎ出そうとするのが見えた。
ガーン、ガーン、ガーン、ガガーン。私は近づきながら幽鬼の両膝に二発ずつ弾丸を撃ち込んだ。棺箱が投げ出された。蓋が開いたその中から、細長い人影が転げ出た。
納屋の出口から三十尺ほどの所に私はいたが、そこでさえ炎の熱で髭がチリチリ焼け、火傷しそうだった。
「下がれジェニ!」
先ほど火矢を放ったのはジェニだった。私の傍まで駆け寄って来た彼女は、棺箱から出て火の中を這いずっている人形に対して矢を放った。だが二本の矢は炎の巻き起こす風に煽られ、的から大きく外れてしまった。
「弓ではだめです」
「ああ」
私は手元に残った二発の弾丸を、モルと思われるそれに撃ち込んだ。弾が当たる度に、その塊が痙攣した。炎が一層強く吹き出した。
「下がろう」
私はジェニの手を引き、先ほど最初に銃を撃った所まで戻った。
「いやー、俺たち派手にやらかしたねライトの旦那」
ヴェルデが大声で話しかけながら歩み寄って来た。
納屋全体がゴーゴーと音を立てて燃えていた。
「本当に殺したんだろうな?」
「死んだと思います。ハサスの声が戻りましたから」
振り返るとジェニの顔が晴れ晴れとしていた。いつもの通りの彼女だ。
しかし私は考え込んだ。私の愛する少女は、あの何も感じられない闇の中で孤独に怯えていた娘なのか、それとも今の仲間とつながっている、強く誇りに満ちた戦士なのか?
やがて炎に包まれた納屋は、音を立てて崩れ落ちた。火の粉が夜空高く舞い上がり、あたりを照らし出していた。炎から眼をそらし夜空を見上げると、星のめぐりが夜半を過ぎたことを示していた。
ずっと「シンデレラのお約束」を守ろうと頑張ってきたのに、前回は「門限破り」をやっちまいました。切る所で切るというのも、続けるためには大事ですよね。なんとか「一日一話」を続けたい。そしてまずこの作品を「書き切る」を目指します。




