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11.戦神の時           ◆11の13◆

 壁の裏の隠し部屋でバルタザルと私の対話を聞いていたのはアイシャーとサトゥースだった。その他にも書記官がおり、一部始終は速記にとられ報告書にまとめられてコデン王の手元に届けられる。裏の事情を理解しているアイシャーはともかく、お調子者のサトゥースがそこにいたのはいささか厄介だった。

「ライト! ヒッヒッヒッヒッ、ハッハッハッハッ、あ、あの、ヘッヘッヘッ、あのバルタザルって男は、お前の何なんだ? ムッフッフッフッ。おお、主よ、この身を試さないでぇ、だとぉ!」

 護衛官にバルタザルを引き渡して隠し部屋に入った私の顔を見た途端笑い出したのはサトゥースだ。アイシャーは眉をひそめると片手を振って書記官を退室させ、私に座るよううながした。


「ライト、わらわはこの後、陛下に報告せねばならぬ。メルキオとバルタザルに対するお前の評価を聞こう」

「アイシャー様はどうお思いですか?」

 こう問うたのは、アイシャーがなぜサトゥースをこの場に同席させたのか知りたかったからだ。サトゥースという男は戦争の犬であり、戦場に解き放たれれば獲物に向かってまっしぐらに走っていく猟犬のように敵を追い詰めるだろう。だがこと政治や魔導に関しては、何の働きも期待できない奴だと私は思っていた。だから私の考えをサトゥースに聞かせてよいものかどうか、判断の手がかりが欲しかったのだ。

「ライト、あの三人の背景次第でまた戦争になるかもしれぬ。よりにもよってあの組み合わせが、この時期にやって来た裏には何者かの意図があろう。どんな勢力が背後にあるかを明確にしておかねば、今後の方針が立てられんのじゃ」

「戦争……?」

 サトゥースの肩がピクリと動いた。実にわかりやすい男だ。

「アイシャー様、俺たちが今度相手にするのはどんな敵ですか? またフランツ帝国がやって来るという話は聞いてませんが?」

 まるで新しい遊び相手が誰で何時やって来るのか知りたがっている子どものように、その目が輝いていた。お前はほんの数ヶ月前、命がけの戦いを終わらせたばかりではないか!

この男は本当に戦の神であるアーレスにとり憑かれているのだ。私はアイシャーに尋ねた。

「戦争になるきっかけになりそうなのはメルキオでしょうか?」

「お前はまったく別のことを考えてその名を口にしたのであろう、ライト。まさか本気ではあるまい」

「サトゥース、お前どう思う?」

「ネアポリス公国の大公でフランツ皇帝の甥、傀儡かいらいとは言えまあ重要人物だな」

「重要人物であるがゆえにフランツ側としては何故メルキオがトゥランにいるかの説明が難しい。まさか我らがさらったとも言えまい。下手をすると藪をつついて蛇をということになりかねん」

 私がそう説明するとサトゥースがニヤリと笑った。

「じゃあ、バルタザル……などとは俺も言わんぞ。あいつは徒党を組んで勢力を広げるなんて芸当のできる奴じゃない。本命に煙幕として使われているんだろう。てぇことは最後に残ったキャスパだな」

「私の考えも同じだが、奴の動機をどう見る?」

「ど、動機?」

「ライト、わらわはお前の考えを聞いているのだぞ」

 とがめるようなアイシャーの声にサトゥースがビクッとして振り向いた。

「キャスパはフランツ帝国の中で宗教改革を行おうと考えているのではないかと思います」

「しゅ、しゅうきょうかいかくぅ? 何だそれは?」


 私はアイシャーの表情を読もうとしたが伏せられた瞼の下の瞳は何も語らなかった。

「キャスパは初めの十三人の弟子では無論ありませんが、それでも生前のルズに会ったことがあります。四十年たった今、発足当時に比べ機械の神の教会の信仰の力が失われていることを実感しておりましょう。あの男は帝国の軍事的な敗北を好機として、往時の教会の力を取り戻そうと画策しているのだと思います」

「根拠は何じゃ?」

「リブロの書庫から見つかった資料の中に、シャルニーの僧院長とやり取りした書簡集が見つかりました。書記官のシェルが昨日、この僧院長というのがキャスパではないかと私のところに持ってきたのです。書簡の本文は何とロスマン語で書いてあり、内容は神の機械の教会の改革についてでした」

「読んだのか?」

「すべてではありませんが、あらかた。僧院長という人物はその中で、教会は世俗の権力から独立しているべきだと主張していました。フランツ国内では、この考えは帝権への挑戦です。つまり、体制側で利権を握っている者たち全員を敵に回すことになります。命がけですな。書簡には『殉教も辞さない』と書いてありました」

「ちょっと待てライト、ロスマン語って何だ?」

「帝国の、ウィトゥルス半島の一部で昔使われていた言葉だ。リブロが暗合代わりに使ったのだろう」

「お前、読めるのか?」

「ああ」

「その、僧院長、キャスパの奴も?」

「多分な」

本作品に登場する、人物、国家、民族、神等はすべて架空の存在であり、実在のものとはまったく関係がありません。


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