脇役
世の中は、二種類の人間で構成されている。
1つは主役と呼ばれるごく一部の人々。
彼らは、巨額の富を蓄える大富豪であったり、一流の野球選手であったり、今をときめくスーパーアイドルであったりする。
もう1つは脇役と呼ばれる大多数の人々。
彼らは、安い賃金で働かされる労働者であったり、レギュラー入りはおろか背番号を付けることすら許されない野球部員であったり、コンサートで狂ったように興奮するアイドルファンであったりする。
人々は気づかないうちにそのどちらかに属しているのである。
それでは、その大多数の後者のうちの1人の話を始めたいと思う。
たいして長い話ではないので、ぜひ最後までお付き合い願いたい。
まず、この物語の主役について多少紹介させていただこう。
今ほど主役といったが、あくまでもこの物語の主役であって、彼自身は全体のエキストラの1人あることを頭のすみに置いて忘れないでいただきたい。
彼の名前は山田太郎という。
全国普通な名前選手権大会でもあったら、他の追随を許さず圧倒的勝利を修めてしまいそうなくらい普通な名前である。
これだけ普通な名前だと、逆に目立ってしまう矛盾が生じてしまいそうだ。
年齢は18才。
高校3年生である。
さて、簡単な紹介はここまでにして、物語の始まりとしよう。
僕は学校の昼休みに友人の鈴木幸助とお昼ご飯を食べていた。
「幸ちゃん、僕って影薄いと思う?」
「うーん、限りなく透明に近いと思うよ」
自分でも影が薄いことは自覚していたけど、ここまで言われるとは思っていなかったので少々胸の奥がズキズキする。
「透明って、そこまでいうかよ。ああ、きっと僕は生涯を脇役として過ごしていくんだろうなあ」
本心を呟いたことで、胸の奥のズキズキに締め付けられるような痛さが加わってしまった。
「まあ、いいじゃんか、タロちゃん。脇役がいないとドラマだって成り立たないんだからさ。名脇役なくして、名主役なしだよ。前向きに、前向きに」
そう言うと幸ちゃんは、ただでさえ細い目をより一層細めて笑った。
「もう少し気のきいた慰め方はないのかよ。『そんなことない。君は自分では気づいてないけどすっごく輝いているよ』とか色々あるだろ?」
「無茶いうなよ。勉強の成績も運動神経もルックスも中の下で、たいした取り柄もない君の何処を誉めろと? 」
優しい顔をしながら随分と手厳しい言葉を投げてくるものだ。
彼自身もよろずのことにおいて中の下でしかないことを忘れてはいないか?
「君は自分が言われて傷つくことは他人に言ってはいけないとならわなかったのか?」
「ならったよ。ならった上で俺がそういうこと言っている理由を俺の心情をふまえて答えよ」
簡単な問だ。
これなら、センター試験の過去問のほうがよっぽど難しいよ。
「幸ちゃん、君は諦めているんだろ? 自分は主役になれるような器じゃないって。何に関しても中の下だということを認めている。認めているから何と言われようと自分は傷つかない。だから他人に言ってもいい。そういう理屈だろ? その気持ちは痛いほどわかるよ、幸ちゃん。かつての僕もそうだつた。けどさ、諦めるのってなんだか哀しくないか? 諦めも肝心なんて言うけど諦めないことにだって意味はあると思うんだよ。一生縁の下の力持ちの人生なんて嫌だろ?非力でも縁の下から這い上がって温かいホットカーペットの上に寝転がるのを夢見る奴が主役になれるんじゃないかな?野心を持とうよ! ボーイズ・ビー・アンビシャスだよ!」
少々熱くなってしまった。
まあ、これで幸ちゃんの心に少しでも響いたらよしとするか。
「さあ幸ちゃん、君の答えを聞かせてくれ」
「正解は…………」
「あ、幸助!!」
教室の外から元サッカー部キャプテンの田口が入ってきた。
「ぐっちー、どうしたん急に?」
「実はよ、今週末クリスマスパーティーしようって話になったんだよ。ヤスとコバが女の子も集めてくるって言うから幸助もこない!? お前がいると盛り上がるんだよ」
「ごめん、これと予定入ってるから」
「くうう、その小指が憎いぜ。オッケー、じゃあ大晦日も皆集まるから、予定開けとけよ! じゃあな」
完全に無視だった。
2年生のとき同じクラスだったのに完全に無視だった。
幸ちゃん、いや、今からは尊敬と軽蔑の念を込めて鈴木幸助と呼ばせてもらう。
あなたが言おうとした正解がわかっちゃいましたよ。
胸くそ悪い。
どうであったろうか、読者諸君。
脇役というのは知らず知らず脇へ脇へと移動しているのだ。
どうか、君たちが脇へ脇へと追いやられ脇役を引き立てる脇役とならぬことを願うばかりである。
くそつまらん話ですが、どうかコメントしていただいたら幸いです。
誹謗中傷も沢山まってます。