丘の頂上
駄文失礼。
豊かな自然に囲まれた村、『リアデイル』での午前5時ごろ。
一人の少女は、早朝から賑わう村の中心部から、少し遠くに存在する小さな丘へと向かって歩を進めていた。
人に見られないように周りを常に警戒し、足早でその丘へと向かう。
その姿は、周りの者から見たらとても怪しいものだっただろう。
しかし幸いなことに、少女は誰にも姿を見られることなく、丘へと続く一本道へと入ることができた。
ここまで来れば、もう村人の姿を見ることはない。
少女は、周りに人がいないことを確認し、やっと歩く速度を少しだけ緩めた。
「ふぅ……」
安堵のため息をつき、少女は後ろを振り返ってみた。村の中心部から少ししか離れていないものの、ここはもう、別の世界のように静まりかえっていた。
少しの心細さを感じたが、少女の足は、依然として丘へと進む進路を変えはしない。
あることをするため、少女は、丘の頂上へと行かなければならなかったのだ。
朝なのにどこか暗い雰囲気をした、丘の頂上へと続く一本道。少し外れれば、様々な種類の花が咲いている、とても美しい場所なのにも関わらず、その丘の頂上が近づくにつれ、少女の心はどんよりと重いものへと変わっていった。
恐怖すらにじみ出ているその顔を下に向け、明らかに遅くなった足取りで、ゆっくりと歩を進めていく。
どっどっど……
心臓の音が、耳に聞こえるかと思うほど大きくなっていく。
怖い、逃げ出したい。
そんなことを考えても、もう少女の足は、自分の意思では止めることなどできなくなっていた。
しばらく歩いて、やっと顔をあげた少女の目の前に広がるのは、先ほどとは全く違った光景。
少女がいるその場所は、荒れ果て、草が乱暴にむしりとられてある、丘の頂上。
「ここに……」
少女はそれだけを呟くと、まだ恐怖に歪んでいる重々しい表情で、ゆっくりと前へと進んだ。
その荒れ果てた場所にあるのは、無造作に並べられた、たくさんの石の塊。
そこは、墓地だった。
墓地といってもそれは、一般の村人が埋葬されるような手がかかったきれいなものではない。
ただ、火葬した人間を土に埋め、その上に少し大きな石を墓石代わりとして置いただけの、雑につくられた墓の群れ。
罪人用の墓地だ。
この村では、罪を犯した者は家畜以下の扱いをされる。
死刑になった罪人に対しては、「こんな墓でも掘ってもらえるだけ感謝しろ」、というのが村人たちの常識的な考え方であった。
少女は、そんな罪人ひとりひとりの墓の前へ行き、手を合わせていった。そして、墓石に彫られた名前をひとつひとつ確認していった。
数十分後、少女はその、探していた名前を見つけた。
『XXX』
その名前を見た瞬間、少女の体は硬直した。
昨日掘られたばかりの、真新しい墓。
少女はあふれ出しそうな感情を押し殺し、持ってきていたスコップを使って墓石のたもとを掘り返した。
はやる気持ちに反比例して手先はたどたどしく、少女にとって焦れったい時間が過ぎていく。一分がとても長く感じた。
こつん
何か、固いモノにあたる感触。
それをきっかけに、少女はスコップで墓を掘り返すのをやめ、手で、残りの土をはらいのけていった。
徐々に姿を現す、白い塊。
昨日まで生きていた少年の、頭蓋骨。その少年は、理不尽な理由で罪人へと仕立てあげられた、一人の旅人だった。
頭蓋骨を胸に抱き、声をあげて涙を流し続ける一人の少女。