第一章(4)
三十三観音いつ頃誰に彫られたのかも知らない。ただ現在生きている人間が生まれるよりもずっと昔に彫られたのは確かだった。市の指定文化財になっているらしい。ある日、知人がハイキングの帰り、そこに立ち寄った。そのときの様子を知人から聞いた言葉を元に意訳しながら語ろう。
山にはまだ陽が射していて、高く伸びた木々の間からその日の残り香を漂わせていたという。夕方だったから辺りは静かだった。実に淋しげな様子で石仏たちはその知人を迎えた。大小さまざまの石仏たちは何も言わず微笑んでいる。そのまま三十三観音を通り過ぎようとしたが、ふと立ち止まり眺め、手を合わせ一礼した。そして、何を思ったか、石仏を数えていったという。そして、石仏は二十二体あった。三十三観音というのにそれしかないことに多少不満を覚え降りていった。そして、家の祖父に「誰が三十三観音って言い始めたんだろう」と話したという。祖父は笑って、「そうした方が聞こえがいいからな。別にそれでいいだろう」。すると知人は「二十二体しかないじゃない」「おまえ、数え間違えたな。あそこは二十三体の石仏がある」「えー、そんなはずないよ」「いや、何度も行っているから間違えない」「そうか」と知人は気にも止めずに寝た。そして、またしばらくして行ってみたところ、その日は行きに二十三体あり、帰りにやはり数えた。そしたらいくら数えても二十二体しかない。知人は寒気を覚えて足早に降りていったそうだ。
報告メール(2月某日、初日)
本日午後四時に寄宿所に到着、早速状況を確認した。緑がきれいで爽やかだったのでよかった。異常なし。