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第六章(1)

 あと二、三話で終わりです。

第六章

会社回答メール 

報告された経緯によると男性の証言のみで信憑性が薄く、会社も繁忙期にあるため応援も出せない。そもそもその男性は誰なのだ。それでは会社は動かない。適切な報告をせよ。

仮に産廃の投棄があるならば一応証拠写真が撮れればよし。それをもとに会社から後日警察へ連絡するが、身の危険を感じたらすぐに退避すること。無理に危険を冒さずに、証拠よりも身の安全を優先せよ。怪我をしてまで撮影する必要なし。

撮影できる状況にあっては、あくまで投棄した人物写真と車のナンバーを控えるのみで、一切廃棄物を捨てても声をかけないこと。くれぐれも安全を憂慮して行動のこと。明日の連絡を待つ。




会社からのメールを受け、多少落胆を隠せなかったが、僕らが男性と取引している以上報告する気にもならなかった。もともと会社も半分世間体を勘案して仕方なしにパトロールを決めたようだし、男性のことを報告してもしも会社が男性を警察に連絡し、男性が逮捕されようものなら逆に身の危険を感じる。ただ会社も無理に捕まえようとするなと、こちらの身を案じているのはそれも世間体であるにせよ、気分を前向きにさせた。

人がやることなど何かの後ろ盾がなければたかが知れているし、僕らのような底辺を徘徊して生きているものなどは、良心に従ってまともなことをしても非難されるだけなのは薄々気づいていた。今回の会社の配慮は僕らの行動を正当化するに適当と思われ、現場を撮影しようという気持ちにさせた。

男性に出会って取引が終わったあと、、俄かに事態は切迫してきて緊張感を伴い、僕らは木陰から道を上がってくる車を待っていた。

彼によると今日の夕方に産廃を軽トラで大量に捨てる手はずになっている。目視でナンバーを控えることができ、かつ、写真撮影が出来る場所を探した。そこは曲がりくねった会社の道の内でも比較的直線で遠くから上がってくるのを確認できるため、その上の茂みで身を潜めていた。土地の地域で丁度よく突き出ていて、笹がそこを隠してくれるので見つからない。内部は草を刈り、ダンボールを敷き詰め、風も周りの笹が防いでくれるので居心地がいい。天気は幸い晴れている。

男性が帰った後、僕らは昨日のうちに準備していたのだ。

ほぼ寝転びながら僕らは待ちかねていた。念のために早く来すぎて待ちくたびれていた。少々飽きている。

唐突に僕らのスペースを横切り、瞬く間に笹の藪に消えていく。僕らがそこに居ることなどお構いなしに何事もなく通り過ぎた。半ば呆然としていた僕の隣で彼は息をつく。

「たぬきか……!」

「なんか毛が抜けていた。怪我をしているのかね」

 タヌキにしては身体の毛が抜けていて、変だった。

「皮膚病じゃないか。猫の皮膚病が野生のタヌキに伝染しているらしいから」

「へー。そんなこと知ってんの?」

「馬鹿にして!そんなことしてるとタヌキに祟られるぞ」

 軽く不平を述べる表情は冗談に彩られる。

「そんなのあるわけねー」

「昔から山の物の怪は動物に憑くというだろ。あれはたぶん死霊が憑いているんだ。写真取ってみろ、薄く人の顔でも映るぞ」

「くだらねー。おっ、戻ってきた。本当に撮ってやろう」

 と、待ち構える。茶色の背が近づいてきた。妙に動きが早く、カメラを構えた僕の眼前に出てきた。

 ブタの鳴き声そのものだ。その動物は勢いがあり、シャッターを押す前思わずよける。僕の鈍い反射神経は肩に当たった動物の力強い足の痛みを残す。

「猪じゃねーか……」

 僕は悪態をついて、肩の痛みを堪える。

「そう言うなよ。山の住人の挨拶だ。小さいのだからまだ良かった。大きかったら下手すると死ぬから……!」

と言い終わらず、道の方を眺め真剣な表情になる。

「どうした?来たか」

「ああ……林道から入ってきている」

 僕には何も見えないし、何も聞こえない。林道からここまで上がってくるまで時間はかかるはずだ。

「本当かよ。エンジン音なんかしない」

「耳が悪いんじゃねーの。今に上がってくる」

「本当かよ……」

 あまりに自信ありげに答えるので、半疑のまま息を潜めた。彼の言うとおり、ライトが暗い 森の枝から漏れているのに気づいた。それで複数の自動車が上がってきていると察した。

やがて車のエンジン音も微かに近づいてきた。

やがてヘッドライトとともに軽トラが現れた。荷台には青いビニールシートが被せられ、次の軽トラも同じだ。

軽トラの台数を数えていく。デジカメのファインダー越しに確認できるナンバーを口にしながら、隣で彼が携帯のメモに記入していく。そして、僕は車体を撮影していく。

 直線を通り過ぎてずべて山陰に消えていくと彼はメモしたナンバーを数え、答えた。

「全部で十台だ」

「あと、どうする?すべて撮影できた」

「このまま待って戻ってきたとき、運転席の人物を撮影すればいい。別に映らなかったら映らないで仕方ないから」

「そうだね」

 一時間ぐらい経った頃、さらに辺りは暗くなり、軽トラは戻ってきたがヘッドライトだけが際立つ。運転手の顔を映らないだろうと感じたが、それでも戻ってきた順に真っ暗な運転席をファインダー越しに捉え、シャッターを切る。

ほとんど顔も判別できない。

 これでは何が映っているかまったくわからないだろうと思ったが続けた。

僕の脇で彼は台数を数えていく。

「一台……、二台……、三台……」

彼の声が段々低くなっていくのは気味が悪い。

「四台……、五台……」

 僕は黙ってシャッターを切り続けるのはなぜだろうか。まるでそこに存在しないのに存在するかのような振る舞いをする適当な動作に思えた。

「六台……、七台……」

 彼の声はさらにしわがれて、僕の方に重く圧し掛かる。

「八台……、九台……。……一台足りない」

「……」

「おまえは四谷怪談か」と怒鳴りたくなったが、大きな声を出すわけにはいかない。

仕方がないので肘で彼をごつくと、彼は悪いといういたずらな瞳で答えた。

それからすぐ真剣になって待つ。いつまで経っても来ない。

その後、ついに「数え間違いたか」ということで彼はゆっくり林道まで降り始めた。僕もそれに続きながら、途中足を滑らしてバランスを崩して、そのまま笹の上を転がり落ちた。

「何をやってる?ばーか」

 彼は笑って、降りてきて腕を掴んで助け起こした。冷たいその手のひらを感じながら僕は何も答えられず、立ち上がった。

というのも、少し気にかかることがあって足元に集中しなかったから落ちたのだ。

九台目をシャッターに押したとき、偶然その運転手がタバコに火をつけ、顔が浮かんでいた。それが脳裏に焼きついた。そして、にやりと目をこちらに向けたかに思った。見つかったと思ったし、その運転手が例の男性に見えたのは錯覚だろうか。腑に落ちない思いを抱きつつも、彼の後ろについて行く。何が捨てられたか確認しに行ったのだ。捨てたところはすぐにわかった。長年放っておかれた道にさらに凸凹が出来て変形しているし、木片らしきものも散らかっていたからだ。

そこから彼を林道の上に残し、僕が懐中電灯片手に写真を撮りにいった。遠くから見ると建築廃材かと思えたが、よく確認すると身体が凍るように仰け反った。

それは古い墓石だったのだ。どこからこんなもの持ち込むできたのか、それも軽トラ九台分だ。写真を撮るのも憚れた。

彼に伝えると彼は気持ちわりーから、さっさと撮って上がってこいと言う。

 草木も凍てつく闇の夜になりそうだと思った。

 懐中電灯のライトに照らされ、枝が反り返り、吹き飛ばされる葉が裏返り、周囲が呻るように取り囲む。

今日は夜林道は廻らないことにしていたので、それが救いだ。

しかし、結局廃棄物を撮影し、急いで彼の元に戻っていった。確認もせずにそのまま会社へのメールに添付して送った。




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