第四章(2)
「また消えちまった」
「へたくそ、これで燃やせ」
火の焚き方などまったく知らない。ライターで点ければいいのだろうと軽い気持ちで引き受けたのに、長年の町暮らしでそれすらもわからない。まったくくだらない知識ばかり詰め込んで全く使い物にならない自分に嫌気がさす。子供の頃のキャンプの経験もすっかり忘却されていて、彼から指示されないと風呂の火を焚くことさえ出来ない。
「空気入るように隙間開けんの。そして、新聞紙、あれもうないか、これ使え」
彼は枯れ木を器用に積み重ねながら、下の方にスペースを造る。床の隅に置かれた買い物袋を手で取り、渡してきた。
「これもしかして……」
「そう。せっかくだからこれにつかっちまおう」
それは引越ししてきたときに納戸に散らかっていたレシートなのは察しが付いた。
「本当に写真を破いたものも入っているね。写真の破いたやつのほうが多いね」
「ああ、最初から破けていたのさ。つなぎ合わせるか?」
「いやだっつうの?」
僕もあまり興味がない。どうせ借主が言うのだから薪の下に豪快に盛る。
そしてライターで火を付けながら、口で空気を吹いて火を増やす。
顔にその暑さを感じながら、炎が燃え上がる。
写真を燃やしたときの健康に悪そうな煙と、若干腐ったような匂いが掠めていた。
なかなか薪に点かないので、団扇を掴んで空気をさらに送る。
「うわっ!」
焦げた匂いとともに煙が充満する。瞬く間に室内が薄黒いものがへんげしながらその占有率を増していく。
「風呂を焚くといつもこうなる」
と彼は事も無げに言い、自分はいつの間にか遠くで窺って笑う。
家も古く長年使いっぱなしで手入れも行き届かないという。几帳面な彼を多少数日で知ったがそんなものだ。煙突が詰まっていて、煙が外へ流れず、行き場を失って家の部屋通り越し廊下まで侵入していく。むしろそんなものは彼は気に留めないのだろう。現に次のように言うのだ。
「けむっぽいけど、これはこれで便利だ」
「どこが」
むせりながら答えると、彼は自慢げに言う。
「家の蚊が死ぬ。昔は松の枯れ枝を持ってきて庭で燃やして、煙を団扇で家屋の内部へ入れたんだと。それと同じだ。もちろん初めてこの家に来たときは気がつきもしなかっけどな」
「いい加減に直したら」
「正直面倒だ」
「あっそ」
僕はとにかく炎をさらに薪に移そうと手元に集中していた。