キリカエ
ほぼノンフィクション。登場人物等は仮の名前です。
明るくなる、楽しくなる内容ではありませんので、読後の満足感は保障いたしかねます。ご了承ください。
「くっだらない」
私はそう思いながら夜の帰路を自転車でふらふらとこぎ続ける。
「そこ!もっと早く走れるよ!」
エースの伊原さんの怒号がとぶ。
私はかるく返事をするしかなかった。
いざ、補欠の私が一群候補の練習につきあうと飲まれてしまいやすい。
確かに、伊原さん率いるグループは強い。明るい。ファイターで積極的。でも理想的ではない……かもしれない。
近頃、なんだか違うんだ。
憧れていた運動部に所属できて、2学級上の良い先輩方にも恵まれた。運動部でありながら試合結果にこだわらず、わきあいあいとしていた。楽しかった。男女先輩同期問わず、複合メンバーで決勝戦まで勝ち進めた喜びは忘れない。
教室では出せない自分が発揮できる場所。そう私は今も思ってる。
けど……。
先輩方が引退してから、強いグループ意識になってきた。
コートもメンバーも分けて。リーダーとして岸村くんが選ばれたのだけど、練習は伊原さんが仕切ってる。岸村くんは、やや頼りないけどしっかりやってると思うのは私の偏見。恋人ではない。
伊原さんはカリスマ性があるのかもしれない。楽しそうにプレイしてる。私は……。
この前、皆で集まった。
「先輩たちは今年で引退。ひとつ上の先輩はいないし、今度は私たちの時代だ!」
伊原さんのこの一言で本当にまとまっていくと思った。少し間をおいて「君らあんまり、遠慮しなくいっていいからね。かかわり少ないけど、私は実力のあるヤツは認めるから」そう言った。
それからだ。一群候補が急激に変わり始めたのは。
独自練習。連絡なく一群のみ大会参加。練習試合のチームの固定。大部分において隔離された。
その分実力はつけ始めている。
今の一群候補は、先輩方がいる時は幽霊部員に等しかった。参加しても今のように真剣でなかった。
その点では嬉しいこと。
ただ、壁があるような気のせいなのか。単なる苦手意識なのか。
今までの何かが壊されたのか。
「しかたない」で済ますのか。済ませられるのか。
「ワタシタチノジダイ」はグループの中での話しなのか。あの時同学年全員が集まった意味はないのか。
決意は見せかけだったのか。見切れなかったのか。
『グスッ』
道は続くもの。
まぁ、なんだ。後悔は数えてもしかたない。苦しくなるだけ。
あるクラスに入ると私を見つめて教室が静まる。そうここに親友はいない。友達は違う友達と話しているので割り込まない。し、割り込めない。
チャイムがなるまでの時間が拷問なのか、と思うのは考えすぎだろうな。
実習は学習だ。
まっすぐに支柱を取り付けからめ、固定する。
しまった。少し傾いた。隣に二人組みがいる。
「まっすぐで良いんだよね」まるで独り言のようにいう。
「うん。まっすぐ」
入学してから何ヶ月もいるのに、まだ名前も顔も覚えてない人が答えてくれた。
「へー。カヤってそんなカンケーだったんだ」
もう一人の声。
……何も言えず、一度立ち去らずにはいられなかった。
私はここにいていいのか。いないのか。
『グズッ』『スン、スン』
相手のいない道路で、自然とこわばっていた。
こんなときは笑おう。心の底で。やっぱり声には出せない。けど頭の中では大きくとにかく笑う人を想像する。
こんな思いをするために進学したんじゃない。勉強のために進学したんだ。
「くっだらない」
声をひそめて言った。
不満ばかり考えてちゃ、うまくはなれない。何かないか。何か。
モップがけ。使ったのはちゃんと礼をもってしないといけない。あー、高橋さん後ろ向きでふざけて掃除しないでくれっ。五十嵐くんと松宮くんは競争なんて試合とかにとどめて……!
気が休めるのはいつの日か。
箒とちりとり取り出して、一箇所でほこりをまとめて集める。
「アーミン、ありがとー」
伊原さんの声……。
「どーいたしまして」
「谷山、ありがとう」
岸村くんもだ。
「どういたしまして」
「あんやとー。タニヤマ」
五十嵐くん……。
「どーいたしまし……」近くに人気はなかった。
……聞こえるのは箒ではく音だけ。あ、取りこぼし
なんだろ。
お礼の後は人に数秒魔法がかかると本で読んだけど、本当かもしれない。
『グシッ』
ここは辺りに大きな建物はない。歩行者もいない。街頭が少しある、コンクリートの田んぼ道。
夜空を見上げても星はなかった。
自己ベストの全速力で駆け抜ける。
目の前に見えるのは自転車で照らされた道だけ。
『スン……』
もうすぐ我が家だ。
『カカン』
道路と用水路をまたぐ時、高確率で音がする。
これが誰か帰ってきたと室内ですぐにわかる大きさ。
『ゴシゴシ』
家の外灯にあかりが点いた。
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