第一章 シグナル(刺激) 9
川岸の砂利道をつり橋の方へと走っていくと、川沿いにボート置き場があった。
五艘の手漕ぎボートと、一艘のスクリュー付のモーターボートがあり、俺は後者に乗り込んだ。
拳銃の柄でモーターの起動部を壊し、中の配線を直結する。
三度目の直結でやっとエンジンが掛かった。
ボートは弧を描きながら急発信し、つり橋へと向かう。
ダン!
銃声が轟く。山々に木霊し、生命の危機を知らせた。
俺がつり橋の下あたりまで来た時には、インフェは一人倒し、あと二人と対峙している。相手が拳銃を持っているので、安易には攻撃できないようだ。硬着状態が続いていた。
一方、サイモシンは拳銃で肩を撃たれていた。サイモシンが銃を抜こうとした時に撃たれ、銃を川へと落としてしまったようだった。
朱里は悲壮な顔で怯えていた。
俺は小型の手榴弾をつり橋の付け根付近に向けて投げた。
朱里から見てサイモシン側のつり橋の付け根が爆発する。
破壊力はそれほどない手榴弾だが、つり橋を破壊するには十分だ。
つり橋は木と縄でできていたので、すぐに切れた。
片方の支えを失ったつり橋は、九人を川へと放り投げた。
「朱里さん、つかまれ」
俺はボートを操縦しながら、片手を朱里の方へと伸ばした。
間一髪、川面に落ちる前に朱里を掴むことが出来た。
細いしなやかな腕をグッと引き寄せ、ボートへと転がり込む。
ダン! ダん!
川に落ちた奴らが発砲したが、その頃には俺と朱里は遥か下流へと進んでいた。
「サイモシン~、インフェ~」
朱里の涙交じりの声が跡に残った。
「大丈夫だ、大丈夫」
銃弾に当たらないようにと、朱里の頭をボートに押さえつけるように低い体制を保ちながら、俺は朱里に声を掛けた。
「あなた……、ルイスさんじゃないの!」
朱里は、ようやく俺の顔を覗き込み、何が起こったのかを理解したようだった。
「ありがとう。でも、彼等は大丈夫からしら」
もう、つり橋は見えない。ボートはスピードを落とさずに走り続けている。
朱里は止まらない涙を必至に拭いながら、つり橋のあった方向を見つめている。
「いったい誰に狙われているんだ?」
大分川を下ったので、追っ手もこないだろうと一息ついた。
朱里を川べりに降ろし、ボートを草むらへと隠した。
「わからないわ。父の関係かもしれないし。もしかしたら……」
そう言いかけて朱里は口を摘むんだ。何かわけありなのだろうか。