終章 CANCER 7
そもそもウイルスの増殖を許し、生きながらえさせたのは宿主の責任なのだろう。免疫がしっかり機能していれば。天変地異のような例外さえおこさなければ。反省の点は多くある。それを除外視して、ウイルスだけを悪者に仕立て上げることは出来ない。
体内に潜伏しているウイルスにとって、ガン化は残された最後の生きる道だったのかもしれない。そのウイルスが、宿主を破壊しつくしてまで生き続けようとは考えなかったのだろう。どこかで自己を犠牲にすることを学んだのかもしれない。
それは愛の力だったのかもしれない。
決して出会っていけない、ウイルスと体内の細胞との恋。
決して結ばれはいけなかった、ルイとシュリ。
決して運命に背いてはいけなかった、二人。
決して開いてはいけなかった、オンコジーンの扉。
それは間違いないなく奇跡だった。
後戻りの出来ない、奇跡だった。
このオンコジーンの伝説は後世へと伝えられることは無い。
全ての細胞が、ガン化する遺伝子=オンコジーンを持ちながら、その内容は一切伝えられない。
決して開かれる事はない、解いてはいけないパズルなのである。
だが、もし。
もしもそのパンドラの箱を開く者が現れ、それが、偶然にウイルスのような体外異生物であったとしたら。
その時、免疫を衰えさせる愚行を繰り返していたのなら。
それは、もう奇跡でもなんでもない。
ガン化は必然である。
「ルイ。いつかきっと戻って来てね。それまで、私は負けないわ」
生きる力、彼女の思い。
それが奇跡を起こしたことは間違いない。
第一幕 おわり
第二幕 CANCERⅡ(不滅のオンコジーン) へ
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長らくお付き合いいただき有難う御座いました。
多くの方々に読んで頂いて感謝の言葉もありません。
もう少し文章力があればと後悔しておりますが、本当に有難う御座いました。