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第一章 シグナル(刺激) 8

 朱里一行が出発の日を迎えた。お供は二人で、一人は頭脳派で無口なサイモシン。もう一人は、身長百九十センチもある腕っ節の強いインフェだ。この二人のコンビは仲が良く、朱里からの信頼も厚かった。

 出発後、俺は三人の後を追った。行き先は計画書で概ね把握できているが、ほとんどが自由行動となっているので、どこへ立ち寄るかは、その場所場所で変わってくる。チャンスはいつ訪れるかわからない。

 移動手段は車だったので、俺は朱里の乗る車に発信機を付けておいた。


「最初で最後の旅ね」

 少し高音の、透き通るような声。そう、朱里の声だ。俺は、車内のに仕掛けた盗聴器の電波を拾って聞いていた。

「護衛なんてよかったのに」

 旅行気分で、声は弾んでいる。運転しているのはサイモシンだ。彼はレーサーの免許を持っており、とても運転が上手だ。俺は尾行に気付かれないように、朱里の車からは見えない位置から、発信機を頼りに追っていた。

「そうは行きません。あのようなことが再び起こると大変ですから」

 話し相手はインフェのほうだ。格闘技に精通している大男なのだが、性格はやさしい。『あのようなこと』とはいったい何があったのだろうか。俺が警備員をしている時には、そのような話は聞かなかった。

「あれは事故よ、きっと。椅子が油圧式だったのがよくなたっかのよ」

 外部には一切、知らさていない事故だ。朱里の落胆が伝わってくる。

「しかし、もし朱里様を狙った犯行だったらと思うと……」

 心配症のインフェが答える。

 朱里用に購入した椅子を、搬入した者が、偶然座ってみたのだという。その後爆発し、搬入者は即死だった。それが事故だったのか、故意に仕組まれたものなのかは不明のままだという。因果関係がはっきりするまでは、外部に情報が漏れないようにしていたのだと。

「さ、暗い話はこれくらいにして、あなたたちも旅行を楽しんでね」

 朱里は周りの人たちを幸せにする力を持っている。彼女の明るい微笑みで、どれくらいに人が癒されるのであろう。

「あななたちが危険にさらされないよう、私も気をつけますね」


 旅行は三日目に入り、街からは随分と離れた秘境の温泉地に来ていた。

 秋の夕暮れ、もうすぐ日が沈もうかという時に、事件は起こった。


 朱里達は車を降り、紅葉を遠めで見ながら、川に掛かるつり橋の真ん中で風情を楽しんでいる時に、つり橋の両サイドから黒い服の何者かが近づいて来る。

 数は合わせて6人。挟み撃ちだ。


 サイモシンとインフェは、朱里を挟む格好で、敵と対峙した。

 朱里は、俺以外の人間からも狙われていたのだ。

 やつらは何者なのか分からないが、手には拳銃が握られている。

 朱里達を殺したいのであれば、遠くからライフルか何かで狙えばいい。しかし、そうしないのは捕獲が目的だからであろう。つまり、金目当ての誘拐。


 俺は草むらから出て、つり橋へ向かった。

 持って来たのはジェネを送り届けた時に使用した、サイレント麻酔銃だけだった。朱里を自殺に見せかけるという任務のため、拳銃は持ってきていない。

 しかも、睡眠薬入り弾は、六本しかない。黒服達と朱里の護衛。弾が足りない。車に戻れば補充の弾はあるが、今戻っていては間に合いそうにない。

 朱里を殺すことが俺の任務だ。他のやつにさらわれる分けにはいかない。

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