終章 CANCER 6
病気ステージ四とは、癌の転移を意味する。治療というよりは、少しでも延命しようというだけの方法でしかいない。それでも、すがるしか道はないのだ。
放射線治療が始まって、その副作用も出始める。体がボロボロになっていくのを日に日に感じる。体の細胞達にとっては、天災のようなものなのかもしれない。
「ついに脳へと転移が見られました」
放射線治療を開始して二週間が過ぎた時だった。パンクレー医師からそう告げられた。
「最後の手段が効果あればよいのですが」
それは、放射線治療に入る前に試すだけ試してみようということで、ウイルスによるウイルスの治療というものがあるという。仲間のウイルスを使って、目的のウイルスを駆逐しようというのだ。その結果がそろそろ出るころだという。治療効果はそれほど高くないが、藁にもすがるしかない。
「やはり、だめだったようです。アデノウイルスでは、ルイは殺せなかったようですね」
検査の結果を見ながら医師は残念そうに肩を落とす。放射線治療もうまく行っていない様子である。結局は当初医師より告げられた余命一ヶ月という判断が正しかったということである。
もう、打つ手は他にない。
残された命はあと二週間。
その頃は、入院生活を余儀なくされ、毎日検査の連続だった。
痛みを止めるための麻薬のせいで、頭がはっきりしない。
何人ものお見舞いにと面会に訪れたか、誰が誰だか、はっきりとは覚えていない。
病室の窓の外の変わらぬ風景に、雨だったのか晴れだったのかはっきりとしない。
そんな時だった。
血燥を変えて、パンクレー先生が検査結果を持って病室へと飛び込んできた。
「何か異変が起こっているかもしれません」
余命幾許も無い私の体にとって、異変とは、良いニュースでしかない。
「脳転移までは認められたのですが、その後ガンの進展がピタっと止まったのです。放射線治療の効果だとは思えません。体の中で、なにか異変が起きているに違いない」
医師は初めての体験とばかりに興奮している。このままガンが増えずに沈静へと向かへば、とりあえずは死なずにすむというのでる。
「これは奇跡かもしれません」
それ以外に言葉が見つからない。そう医師は告げた。




